CrossRoad
絡まりゆく想い
俺と由依もたまには喧嘩くらいする――。
でも、あんな風に泣いたりするような事はなかった。
あんな事があったのもあって、あれから2週間くらい経つが、なんとなく立花先輩とあまり関わらないようにしていた。
俺も…ヤキモチ妬いたりしてるんだけどなぁ――。
由依はわりとモテてると思う。
同級生にも好きだったって言ってた奴はいるし、最近は陸上で仲がいい後輩の晃治と楽しそうにしてるのを見るのは、見ていていい気分じゃない。
有馬晃治(ありまこうじ)――。
同じ生徒会副会長で陸上もやってる先輩の有馬充(ありまみつる)の弟だ。
「小楠先輩可愛いですよね。あんな人と付き合えるなんて千晴先輩いいなぁ。」
ずいぶん前に晃治が言っていた。
由依もたいしてかわんない気がするんだけどなぁ……。
なんてボーっと考えながら今日も生徒会室に向かう。
たまに昼休みに生徒会の話し合い…放課後も最近は毎日集まって色んな取り決めとか寄せられてくる案件の整理…その後に陸上があって…部活もある…。
冬が本格的になると陸上は朝練も入ってくるはずだ…。
俺もよくやるよ……。
溜息が出る――。
時松が廊下から教室に顔だけ出して呼ぶ。
「千晴ーっ。立花先輩来てるぞー。」
げっ………。
俺が思うのと同時に由依の顔が一瞬固まって、ドアから見える所に立っている立花先輩の方へ視線をやる。
ちょっと……睨んでる………?
今日は昼休み生徒会がないから由依と話してた所だった。
「呼んでるよ…。」
動けずにいた俺に由依が穏やかに言う。
それが逆に少し怖いような気もするが……。
「千晴ーっ。」
時松がまた呼ぶ。
「ちょっと行ってくる……。」
教室まで来たのに行かない訳にはいかなかった――。
「どうしたんですか?今日の昼は生徒会ないんじゃなかったですっけ?」
「生徒会の事じゃないの。じゃんっ。」
2年生の内容のテスト問題のプリント――。
「解るところなら教えてくれるって言ったよねっ。」
言ったけど……まさかほんとに後輩に聞きに来るとは……。
「あれ本気だったんですか?まわりに解る人いっぱいいるでしょう?」
「そうかもしれないけどみんな自分の事でいっぱいみたいだし……。ほらっ、生徒会室の鍵も借りてきたから、そこで教えてっ。」
鍵を見せて可愛いらしく言う。
行動は早いけど、わざわざもう鍵まで借りてきてるとは……。
「今度テストがあるからちょっと焦ってるんだ…。昼休みつぶすのは悪いと思うんだけど。ねっ、お願い。」
俺がしぶってるのが伝わったのだろう。お願いに変わった。
「ちょっと、待ってて下さい……。」
教室に戻って由依の所に歩みよる。
気が重い――。
「ちょっと頼まれて……、生徒会室に行ってくる…。ごめんな…。」
全部は言いきれない。
「いいよ……。行ってらっしゃい。」
どことなしか言葉が冷たい……。
後ろ髪ひかれる思いだが、それを振り払って立花先輩の所に戻った――。
「ありがとうっ。千晴ってほんっと頭いいんだね。」
生徒会室の鍵を閉めながら言う。
「それっ数学ですもん。たまたま得意なやつを先輩が持って来ただけですよ。」
「またまたーっ。謙遜しなくてもよいよっ。実際解りやすかったしすごいと思うもん。」
「はいはい。ありがとうございます。」
「もー。……でもよかった。ほんとはね、最近あんまり話してないし、ちょっと避けられてるかな?って、気になってたんだ……。」
……やっぱ気付かれてた……。
何も言う事が出来なかった――。
「ねっ、明日も教えてくれる?」
俺の前に回り込んで言う。
「明日…………は…ちょっと…。」
頭の中に由依の顔が浮かぶ――。
「だめ?明後日は?」
「明後日………も…無理…かな…。」
「そっ…か……。今日はありがとっ。じゃね……。」
少し顔を下に向け、元気なく言ってそのまま走り去って行った。
ごめん立花先輩……。
あれから2、3日、結局立花先輩とは普通の話はしてない――。
生徒会の集まりは毎日あってるが、終わったら急いでるふりしてすぐに生徒会室を飛び出すからだ。
何か言おうとしてたのも、聞こえてないふりしてしまった。
今日は得にまずい逃げ方したような気がする…。
ほんっとすいません………。
心の中で立花先輩に謝っておく。
由依もこの2、3日は陸上でも、晃治とばっかり話して俺とはほとんど口をきかない。
教室や帰りは毎日一緒で話すからいいのかもしれないが、機嫌もそんなにいいばっかりじゃないからさすがにやり切れない。
廊下をむしゃくしゃした頭で走った――。
陸上の練習を切り上げて部活に行こうとしたら、待っていたかのように立花先輩に呼びとめられた。
「千晴…。ちょっと待って。」
「先輩…。部活に急ぐからまた明日っ。」
走っていこうとしたその瞬間に手をとられた。
「待ってよ……。明日なんていくら待っても一緒でしょ…。話、しないんだから。」
つかまれた手に力が入ってきて、動けなくなった。
真剣な目――。
言われた言葉にも少なからず動揺したのもある。
「私、千晴に何かした?最初は気のせいかとも思って気にしないようにしてたけど、最近はおかしいよ……。」
「それは……。」
何も言えない……。
「私、うざかった?私の事、嫌い?」
「そんな事……ないですよ。嫌いでもない…。だから手……。」
立花先輩は俺の手首を握ったままだ。
こんな所由依に見られでもしたら……。
遅かった――。
さっきまで向こうで話してた由依が、階段をのぼってちょうど俺の目の前に姿を表した。
由依の時間が一瞬止まって、下駄箱に走っていく――。
「由依っ。これは違っ………。」
追いかけようと走りだしたが、手をおもいっきり引っ張られて進まない。
「待ってよっ。まだ……。」
「先輩っ。後で絶対聞きますからっ。ごめんっ。」
手を引き離して由依の後を追った――。
「待ってよっ。由依っ。待てって。」
振り向かずにどんどん進んでいく。
次の角を曲がると音楽室が見えてくる。
角を曲がる前に由依の手をつかんだ。
「話を聞けよっ。」
「聞く事なんて何もないっ。離してっ。」
うっすら目に涙を溜めている。
「離さないよっ。聞けって。あれは何でもないんだって。」
「へぇー。何でもないのに手をつなぐんだ。」
いやみたっぷりに言う。
カチンとくるのを抑えて言う。
「俺が立花先輩から逃げようとしたから手首をつかまれただけだよ。」
「彼女でもない人と手首をつかまれたまま話するんだね、千晴はっ。」
さすがに我慢も限界だった。
「いいかげんにしろよっ。」
声を荒げた――。
「最近話さないで逃げてたから話する為につかまれたんだろーが。」
つかんでいた手を離してまくしたてる。
「この前も言っただろっ。俺は由依が好きなんだって。……俺だって由依が他の男と楽しそうにしてるの見るのはいい気しないんだぜっ。でも…話しないなんて無理だろ?由依だって話してて楽しいって思う事あるから他の奴でも笑ったりするんだろーが。由依は話したい奴と好きな時に話して、これから先由依が嫌って思う奴全員、俺だけ話さなかったらいいって言うのかよっ。」
由依は何も言わない――。
「頭冷やしてよく考えろっ。」
怒鳴るように言うだけ言って、由依が何か言いかけたのを聞かずにその場を立ち去った――――。
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