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CrossRoad
頬を伝う涙

時間は常に流れゆく――。



様々な学校行事が過ぎ去るのと同時に季節もまた巡っていく。


あんなに暑かった日差しが嘘のように、少しずつ肌寒く感じるようになってきた――。





「よーしっ。今日の練習は終わり。柔軟しておけよー。」


そう言い残して先生は職員室に帰っていく。


「きっつー。」

涼しくなってくると陸上の練習も段々ハードになってくる。


「よし、千晴。柔軟しようぜ。」

一人での簡単な柔軟をすませたオバチンが言ってきた。


「オッケー。じゃ、まず俺から引っ張るぜ。」


「いたたたたっ。」

「加減しろっ。」

オバチンが叫ぶ――。




一通り柔軟を終わらせて部活に行こうとした時、女子の陸上の集団にいた立花先輩から呼びとめられた。


「千晴ーっ。ちょっと待ってー。」

持ってたタオルを振って、軽く走りながら近付いてくる。


陸上は冬に大きな駅伝大会があるから3年生もまだ引退せず残っている。



「ふうっ。今から部活?タフだねー。」


「いやいや。立花先輩も部活あった時やってたでしょ。それよりどうしたんですか?」


「あっ、そうそう。今千鶴と話してたんだけど、明日の昼休みも生徒会室集合って。」


園田千鶴(そのだちづる)――。


生徒会会長であり、しかも女子陸上のキャプテンでもある。凄い先輩だ。


それにしても……。


「またっすか。まぁカバンの自由化まだまだですもんね。」


「そうそれっ。受験勉強もあるし、カバンじゃなくて私が自由になりたいよ。」


立花先輩とは話が合って一緒にいると面白い。

思わず笑ってしまう。


「笑い事じゃないんだって、私には。」

手に持ってるタオルをぶんぶん振り回す。


「痛いっ。痛いですって、先輩。」


「そういえばっ。千晴ってめっちゃ頭いいんでしょ。勉強教えてよ。」


「センパーイ…。後輩に勉強教えてもらってどうするんすか。」


「そんな事言わないでー。ほんっとにヤバイのっ。」


うつむいてさっきまでの元気がどっかいったかのように肩を落とす。


「あー、はいはい。落ち込まないで。解るとこでしたら教えますから。」

言いながら先輩の頭を撫でてあげた。


「えへへーっ。言ったからね。よろしく。」

パッと顔をあげて悪戯っぽく笑う。


「きったねー。」


さっと身体を翻して手を振りながら、散らばりつつある女子の集団に戻っていく。


「それじゃまた明日ー。」

元気のいい声――。


俺は無言で手だけ振って部活に向かった――。





一緒に横を歩く由依の元気がない――。

元気がないというより、どっちかというと怒ってる……?


「どうした?今日は黙ってばっかで……。疲れた?」

当たり障りなく優しく聞いてみる。


由依も陸上のメンバーになって、男子よりは軽いかもしれないが同じような練習をしている。

部活もある――。


疲れて当然だ。



開いた口から出た言葉は思ってたのとは全然違う言葉だった。


「私も…千晴がいい……。」


意味がよく解らない。

「由依も?俺がいい?」


首をぶんぶん横に振る。

「違うっ。私も千晴って呼びたいのっ。」


少し言葉が強くなった。


「それはかまわないけど……。っていうか嬉しい…かな。でもどうしたの急に。」


「知らないっ。別にいいでしょっ。」

取り付く島がない…。


何か怒らせる事言ったかな………。



「最近……立花先輩と仲良いんだね…。」


今のでピンときた。

立花先輩にヤキモチやいてんだ――。


「…ああ、まぁ生徒会一緒だしね。普通の先輩よりかは少しは仲良いかもしれないけど。」



「……少しじゃないよ。」

呟くように言ったから聞こえなかった――。


「何って…?」

これ以上気にさわらない様に優しく聞く。



聞き返したのが悪かったのか、優しく聞いたのがまずかったのか……由依が爆発したように言いだした。

「全っ然、少しじゃないよっ。二人きりであんなに楽しそうにしてるしっ。私だって呼ばないのに千晴くんの事呼び捨てで名前呼ぶしっ。いったい何……?」


下を向いていてはっきりしないが、目に涙を溜めてる……。


「由依……。何って何も…。」

言いかけた俺の言葉を遮って由依が大きな声を出す。


「何もないって言うなら先輩の頭なんて撫でないでっ。」

顔を上げてじっと俺を見つめた由依の目から、涙がこぼれた――。


「それは………。」

言葉に詰まる――。


あの時の…全部見てたんだ――。

「……ごめん…。」



片手で涙を拭うと、言葉を絞り出すように言い出した。


「謝るくらいなら、もう立花先輩としゃべんないで…。」


「なっ……。」

無茶苦茶な……。


「由依…。そりゃちょっと無理だよ……。生徒会一緒だし……。」


「……わかってる。そんなのわかってるよ……。」

下を向いて言葉を詰まらせる――。


「…でもっ、嫌なんだもんっ。私も…どうしたらいいかわかんないよ……。」

顔を上げて、力なげに言葉にする。


「お願いだから…立花先輩の事、好きにならないで………。」

不安と戦って、やっとの思いで口にしたんだろう――。


また、涙が頬を伝って落ちていく――。



――ゆっくり、由依の身体を包み込むように抱きしめた。


由依も頭を俺の胸に預けてくる――。


不安にさせてごめん……。

こんなに好きでいてくれるのに……。


色んな言葉が頭を駆け巡る中、抱きしめる手に力を入れて言葉にした。


ただ単純に――。


素直な気持ちだけ――。


「好きだよ……。大好き……。世界中で、1番好き……。」



胸に顔をうずめてぐすぐす言っているのを我慢して聞いてくる。


「ほんと……?」


「ほんと。」


「1番……?」


「そっ、1番。」


「好き……?」


「大好きだよ。」


顔を胸に押し付けて、由依も自分の腕を俺の背中にまわしてギュっと抱きしめ返してきた。


「私も……大好き……。」




どれくらい抱き合ってただろう……。


ゆっくり由依が顔を胸から離して笑った。


俺も笑い返して、目にまだ残ってる涙を拭ってあげる――。


「ごめんね…。変な顔でしょ……。」


ゆっくり首を振る。

「ううん。可愛いよ……。」



「えへへっ。千晴……を好きになってよかった。」



いつもの俺が好きな笑顔――。

涙で濡れた目が輝いて、さらに笑顔を際立たせていた―――――。



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