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CrossRoad
変わったもの

1年生の教室を通り過ぎる時、横目に懐かしさを覚える光景が見える。

真新しい制服に身をつつんだまだ小学生らしさが残る後輩達。


1年前は自分もこんな感じだったんだろうな、と思い出す。




「おーっす。千晴ー。さっそくだけど英単語の訳写させてくれ。」


登校してきたと思ったら隣の時松淳弥(ときまつあつや)が言ってくる。


「まーたか、お前。ちゃんとやってこいよ。」


時松は学年でもトップ5に入る頭を持っている。背も高いし顔もいい。運動も出来て野球部と、俺と同じで陸上もやってる。


パーフェクトだ。

が、宿題はやってこない。


「千晴がやってきてくれるからいーじゃん。」


なんだかんだ言っても俺もノートを渡す。

「時松の為にやってきてるんじゃないんだけどなぁ。」


「何ー?英語ー?私も訳わかんないとこあったから見せてほしいなぁ。」

前に座ってる松田未央(まつだみお)が振り向いて言う。


これだからみんな…。


「はーい。俺のでよかったらどうぞー。」


時松も未央も陸上をやってるメンバーの上、同じ班になった事もあって2年になってより親しくなった。



部活でも新入部員が入ってきたし、2年に上がる時にクラス替えもあって周りの環境が一気に変わってしまった。


もちろんいい意味でだが、何より変わって嬉しかった事がある。


「千晴くんっ。おはよっ。またノート見せてるんだね。」


そうっ、由依と同じクラスになれた事だ。


「由依、おはよ。そっ。時松とか頭いーんだから自分でやりゃーいいのに。」


「あらっ。それって私は頭悪いって事?」


未央が俺の言った言葉に噛み付いてくる。


「いやいや、そんな意味で言ったんじゃねーって。未央も頭いいだろ。」


「千晴くんに言われてもねぇ。1回も千晴くんより上になった事ないんだけど…。」


「たいして変わんねーじゃん。もう勘弁してくれよ。」


「ふふっ。それなら許そう。」


なんてやりとりを由依も横で笑いながら見てる。

一緒のクラスというだけで今までより長く一緒にいられるのがいい。


「あっ、先生来た。また後でねっ。」


由依がパタパタと自分の席に戻っていく――。





食べ終わった給食を片付けてたら後ろから未央に呼びかけられた。


「千晴くーん。美佑先輩が来てるよー。千晴くん呼んでってー。」


立花美佑(たちばなみゆう)――。


ショートカットのよく似合う可愛い先輩。未央と同じソフト部で、陸上の方でも先輩である。

そして生徒会の書記もやってる。



2年生になってから生徒会も本格的に動きだしていた。


俺も1年生の終わりに生徒会副会長に推薦されて選挙に出たら、これが見事当選。


学校の代表である生徒会の役員になってしまっていた。



「どうしたんですか。今日って何もないんじゃなかったですっけ?」


「ほらっ。今度生徒総会があるでしょ。その時の進行内容の取り決めと役割分担を決めたいんだって。なんか先生が急に言ってきたらしくって。」


「それでわざわざ?」


「そっ。わざわざ遊びに出る前に捕まえにきたって訳。行こっ。」


「行こっ。って今からっすか?」


「そっ。残念だけど今から。さぁ行くぞ。」


掛け声と一緒に俺の腕を引っ張っていく。


「昼休みがぁー。」


「残念ねー。」

一言で切って捨てられた。



廊下の窓から見える教室の中で由依が、立花先輩に連れ去られる所をしっかり見てた。


――こりゃーまずったかな。立花先輩、なにも今腕引っ張んなくってもいーのに……。


気にしてなけりゃいーけど――――。





「生徒会、楽しそーだね。」


帰り際にふいに由依が口を開く。


やっぱり気にしてるのかな――。


「うーん。面白い人達が集まってるからね。楽しいのは楽しいけど、休み時間潰れるのはイタイなぁ。」


「お昼食べたらすぐだったもんね。やっぱり大変なんだ。生徒会って。」


「うん。実際大変。わかんない事ばっかだし。」


「でも…楽しいんだよね。」

由依が下を向いてぼそっと言った今の言葉が聞こえなかった。


「んっ?何?」


「ううん。何でもない。」


もう由依の家の近くまで来ていた。

「それじゃ、んっ。」


俺の顔をその大きな目で1回覗き込んでから、目をつむって顔をあげる。


ドキッとするような仕草――。


由依の腰に手をまわして身体を引き寄せると、差し出された唇に俺の唇をゆっくり重ねる。


軽く唇を開くと自然の流れのようにお互いの舌が絡み合っていく。


とろけそうになる感じ―――。



いつもより少し長目のキスをしおえると、由依が俺の胸に頭をうずめて言った。


「好きだよ。」


日記ではよく見る言葉だが、直で言われるとすごい嬉しい。


つい笑顔になる。


うずめている身体を抱きしめて、一度離してもう一度軽いキスをした。


由依の小さい頭をまた胸に引き寄せて今度は俺が伝える。


「俺も、大好きだよ。」


由依の腕が俺の背中にまわってきて力が入る。


「えへへっ。」


顔を上げた由依の満面の笑顔――。


「今日もありがと。気をつけて帰ってね。」


かかとをあげてもう一度軽いキスをすると、手を振りながら帰っていく――。



季節が変わってすっかり春らしくなってきた。


それと同じに周りの環境も変わってきた。



でも、変わらず前に進んで行くものもちゃんとここにある――――。



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