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CrossRoad
ファーストキス

「寒いのにいつも送っくれてありがとう。」


帰りの間握ってきた手をそのままに、俺の前に立って言う。


「じゃあ…、また明日ね。」

少し名残惜しそうに手をゆっくりはずして、手を振って帰っていく。


その姿を少し見送って、もと来た道をまた歩きだす。


由依の家と俺の家は学校から正反対の位置にある。


1人で帰るこの時間はただでさえ寒い上に、離れた手の温もりが冷めていってよけいに淋しく感じる。

由依と一緒に帰る20分の間が本当に楽しくて暖かい事を知る。


道に沿って並び立つ木々が大きく揺れると同時に、冷たさを肌で感じつい首をすくめる。


ポケットに両手をつっこんで僅かに暖かさを感じ一歩を踏みしめて帰る。



俺……めちゃめちゃ…由依の事好き…だな――。


寒さも手伝って淋しさが募るからか、ふと再確認させられた。



――冬の夜の空は深く、濃く、全てをのみ込んで淋しさだけが取り残されそうに感じる。


だからこそ、暖かさを、幸せを知った俺は、一歩を力強く踏み出せていた――。





「お待たせ。さっ、帰ろうぜ。」


「うんっ。今日も寒いね。カイロ、使う?」


歩き出すと同時に斜め前に出て、顔を覗き込みながらカイロを差し出している。


「いーよ。由依が使いー。寒いんだから。」

言いながら由依の手をとって握った。


冷たい手――。


「ねっ、飴、食べる?最近吹奏楽で飴流行ってるから持ってきたんだ。」


「食べる。ありがと。」

貰ってひょいと口の中に投げ込む。


「それにしても部活中に飴食べれるっていいよな。」


「あー、今楽そうとか思ったでしょ。結構大変なんだよ吹奏楽も。筋トレだってあるんだから。」


「思ってない。思ってない。へぇー、筋トレなんてするんだ。」


頬を膨らませている。

「やっぱり思ってる。そりゃバスケ部に比べたら全然ですけどねっ。」


「怒んなって。思ってないから。俺は音楽苦手だから凄いなって思ってるんだぜ。」


そう言うと膨らませていた頬を元に戻して笑った。


「そう?ふふっ。嬉しいな。千晴くん何でも出来ちゃうんだもん。一つ位は私にも勝てる事ないとね。」


「そんな事思ってたの。俺は由依の方がいっぱいいい所があるように思うけどなぁ。」


パッと笑顔が弾ける。

「ふふっ。ありがと。」


話してると寒さの事なんて忘れてしまう――。



「今日、バスケ部の練習覗いてたんだよ。頑張ってたね。でも激しいよねー。試合とかいつもあんななの?」


――試合って……。


あれから終わりまでいったいどれだけ時間があったと思ってんだ……。

それをこのくそ寒い中ずっと終わるの待ってたのかよ……。



文句一つ言わないし……。


色んな事が頭をよぎって、何も言わずじっと由依を見つめていた――。


「千晴……くん?」


「ちょっと目閉じて。」


「えっ?…。うん。」


素直に目を閉じたのを見て、手を握り直す。



少しかがんで、


唇を重ねた――。




ほんの2、3秒位が、随分長い時間に感じた。


「えへっ。えへへっ。……ファーストキス……だね…。」


恥ずかしいんだろう。少し目線を下に向けている。


「……うん。今…したくなって……。」


いつも真っ直ぐに俺を見てくれて……想ってくれて……と思ったら愛おしくて、行動に出てた。



「ファーストキスってね……。苺の味がするんだって。」


「そうなの?ってか……。」


何味って言われたら……。


「私達は、レモン味……だったね。」


そうっ。それっ――。


「飴…かぁ。」


「うん。……なんか恥ずかしいね。……けど、嬉しいっ。」



ほんと――。顔から火が出てんじゃないかってくらい。


でも、それ以上に今は、由依ともっと今までよりしっかり繋がったような気がして嬉しい。



由依が肩を寄せて、手をキュッと握って、俺の顔を見上げながら少し照れて笑う――。


俺も笑顔を返す。


何も言わなくてもたしかに繋がっている実感がある―――。



毎日帰る同じ道だけど、思いや気持ち、その時の気分でまったく違う景色が俺の瞳にうつし出される。


寒さなんか感じない。


今日はほんのり暖かい黄色……かな―――――。



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あきゅろす。
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