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キミだけを抱きしめたくて


Ep.6「ディナー」


「お疲れ様です!
お先に失礼します。」

そう挨拶をして営業所を出る。

まだ新人の芹澤はごく簡単な残務処理しか教えて貰ってないので比較的早く上がることが出来る。

(…少し遅刻だな)

そう思い少し足を早める。

駅の改札でまるで石ころを蹴るように退屈そうな仕草で待つトトはすぐに目が付いた。

(…可愛くないわけでもないのになんで彼氏を作らないんだ?)

そんな疑問が浮かんだが、そんな野暮なことを聞いて逆鱗にでも触れたら大変だ。

乙女の逆鱗ほど怖ろしいものはない。
直之はそれを身を持って体験しているのだから。

「ごめん!待った?」

「うん、凄く待たされた」

「…ごめん」

っと直之は謝るしかなかった。

「ふふ、別にいいよ。
仕事なんでしょ?」

「あ、あぁ。
土曜だってのに忙しくって」

「休日業務だもんね
っさ、何処に行く?」

「…誘っといて決めてないのかよ」

「自分の誕生日の予定を決めるほど自己中じゃないわよ?」

「…まぁ、そうだよな。
とりあえず、腹減ったし食事にでも行こうぜ?」

「うん」

そう言って歩き出す。

「って言うか、どこに行くの?」

「ん?あぁ、イタリアン料理だよ。」

「芹澤くん、イタ飯ばっかりだね。」

「へ?」

「ほら、外食してきたんだ〜って言うとき、何食べてきたの?って聞いたらイタリアンって応えるじゃん。」

「あぁ…なんとなく手頃な気がしてな。
逆にフランスとかオランダって言われてもピンとこないじゃん?」

「まぁ…そうだね…」

そうこうしているうちに店の前に着いていた。

「ここの二階だよ。」

外観は普通のビル。
一階はファンシーな雑貨屋で二階は華やかと言うよりかは静かなダイニングバーと言った雰囲気の店だった。

カランカラン〜

「いらっしゃいませ」

「19時30分で予約している芹澤ですが」

「お待ちしておりました。
こちらへどうぞ」

席に案内される二人。

「どうぞ」

「ありがとう」

「ではごゆっくり」

ウェイトレスが立ち去るとトトが小声で話しかけてくる。

「予約なんかしてたの?」

「だって誕生日にどこか適当な店ってのもお洒落じゃないだろ?」

「もう」

そういって顔を背けるトト。

ふと、時計に目が止まる。「あの時計って…」

「あぁ、オンラインゲームのあの時計にそっくりだろ?」

それは二人がやっているオンラインゲームのエントランスにある時計に良く似ていた。

「気に入った?」

「うん。少し」

直之は微笑み、水を手に取る。

「お待たせ致しました。」

そう言って料理が運ばれてくる。

「わぁ…これ全部?」

「あぁ。今日はトト…じゃなかった栗原さんの誕生日だからな。」

テーブルには豪華なディナーが美味しそうに湯気を上げている。

「それじゃ…」

っとグラスを持つ直之。
それを見て、慌ててりんもグラスを持つ。

「誕生日、おめでとう」

チリン

っと乾杯する。

「ありがとう」

そう言って飲み物を口にする。

「…これ…?」

「単なるアップルジュースだよ。
お酒とでも思った?」

笑いながら答える直之。

「っあ、そっか
直くんお酒ダメなんだっけ?」

「ダメってわけじゃないけどな。
ってか、誰が直くんだ」

すかさず突っ込みを入れる直之。

っが、少し声が大きすぎたようで店の中が静まるかえった。

「すいません」

そう謝り座り直す直之。

しばしの沈黙。
それを破ったのはりんだった。

「…キライだった?」

「っえ?」

思わず聞き返してしまった直之。

「なおくんって…呼ばれるの」

「あ、あぁ。今はまだ…」

少しだけ、重たい空気が流れる。

(何やってんだよ…今日はトトの誕生日なんだぞ…!)

直之は自分の行動に苛立ちを覚える。

(まだ…引きずってるんだ…)

りんもまた後悔していた。

「ねぇ、この後って行くところ決めてるの?」

唐突な質問に直之は一瞬の間を置いて答えた。

「特に決めてはないけど…」

「じゃあ夜景見に行こ!」

その提案に直之は思わず笑ってしまった。
それを不思議そうに見つめるりん。

「ごめんごめん
いや、ありきたりな提案をしてくるんだな、って」

「ありきたりって何よ〜」

意味を理解したのかりんも笑いだす。

「いいよ。僕もそう言おうと思ってたから。」

「そうなの?」

「あぁ。但し場所までは考えてないから…」

どこにする?って言う言葉を待たずにりんが言葉を発する。

「私………と行ってみたい所があるんだ」

「え?」

直之は途中が小声すぎて聞き取れなかった。

「なんでもない!
っさ、早く食べないと冷めちゃうよ!」

そう言うとりんは少し冷め始めたカルボナーラに手をつけ始めた。





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