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「俺、さっきまで後輩といたんだけど。そのコ、めっちゃ俺のこと過大評価してて…俺なんか全然大した人間じゃねぇのに。なんか申し訳ないってか、すげー居心地悪くて…。だからって期待を裏切るようなこと言うのも違うと思ったし」
「…」
「これってさ、お前が今まで思ってきたことと、もしかしたら一緒なのかなって。だから、」
「もう、黙って」

井山に片手で制され思わず口をつぐむ。

「謝るとか意味わからないし。勝手に俺を分析してわかった気にならないでくれる?すごく迷惑なんだけど」

綻びのない整った笑顔。だけどかなり苛立っているのがわかる。
いや、自分のテリトリーに侵入されるのが怖いのか。うん、そうかも。
でも引かねぇ。今話さなきゃこのままずっと変われない気がするから。

「お前って、ほんっと面倒くさいヤツ」
「…だから言ったでしょ?本心で話すとろくなことがないよね」
「じゃなくて、人の中にはエグいぐらい踏み込んでくるくせに、自分がされると逆ギレして逃げようとするところがだよ」
「…確かにそうかも」

俺の指摘にくすりと苦笑いを浮かべるも井山は少し戸惑っているような顔をして、いつもの余裕綽々な態度とは違っていた。

何か考えを巡らすように視線をさ迷わせたあと、ふう、と軽くため息をつき井山が再び口を開いた。

「どうしてだろう、以前なら取り繕ってる自分が絶対に正しいと思っていたし、揺らぐことなんてなかったんだけどなあ。佐々木といると俺の中の何かが色々崩れる。…困るよ」
「そんな風には見えねぇけど」
「そう?じゃあまだなんとか騙せてるのかな」

力なく笑う目の前の顔をまじまじと見てみる。

完璧な笑顔と言動で良い人を演じる井山。
毒気があって周りをあまり信用していない井山。
どこか自信無さげに弱音を吐く井山。

「どんなお前でもお前だし」
「…佐々木は八方美人な俺が嫌いって言ったよね」
「あれは…うん、悪い、訂正するわ。あの時は考えが足りなかったし」
「…」
「今はどっちでもいいと思ってる。似非笑顔で自分を守ってる井山も、性格悪くて面倒くさい井山も。だからお前が楽な方でいろよ、…大丈夫だから」
「…」
「で、俺はもう少し人の心の機微ってヤツを勉強するってことで」
「…うん」
「…」
「…」
「おい、」
「うん?」

なぜか井山にすっぽりと抱き込まれている俺。
ここはツッコむところだろ、なあ!?

「なんでこうなる」
「…とりあえず友情と感謝の意を示してみたってことにしておいてくれる?」
「そういう暑苦しい行為は石田だけで手一杯なんだけど」
「はは、石田ね。彼とは一度じっくり話をしておかなきゃと思ってるんだ。佐々木のことちょっと独占しすぎだと思わない?…後輩のモリカワさんってコよりもさぁ」

しっかり名前まで把握してるし。
にっこりと凶悪に微笑む井山にこっちは苦笑いを浮かべるしかない。

「ほどほどにしてくれ。てかよく考えたらお前と石田じゃカテゴリー違いすぎる」
「ふーん、違うかな?」
「違うだろ、確実に。お前の言動は全てに邪気を感じる」
「へぇ」

へぇじゃねーよ。

「でもさ、佐々木はそんな俺が好きなんだよね?」
「…お前頭大丈夫?てかいい加減どけよ」
「もう少し待って」
「なんなんだまじで…」

ため息をつくが無理矢理ヤツの腕を引き離したりは、なぜかできず。
この心境の変化は一体なんだ。
俺が俺を理解できない。

文句を言いつつもされるがままの俺に、井山が腕の力を強めてくる。

「…苦しいデス」
「あー離れがたいなあ。どうしよう、ずっとこうしてていい?」
「いや、ムリ。離れてまじで」
「つれないな。まあ簡単じゃないところが良いんだけど」

そう言うと、名残惜しそうにそっと身体を離された。

俺から離れろと言ったのに、失われた体温に物足りなさを感じたのは…完全に何かの間違いだ。

まずい、いつの間にかヤツに毒されている。

げんなりしつつ横目でちらりと窺うと、完璧な笑顔を作ったいつもの井山がいた。
…まじ切り替え早ぇよ。

「校舎閉まるし、そろそろ出ようか」
「…ああ」


井山と話ができてスッキリしたような、だが今後新たな問題に悩まされそうな…なんとも言えない感触を残したまま、俺達は夕暮れの校舎を後にすることにした。





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あきゅろす。
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