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スイートオブジャック(腹黒ワンコ×ツン)
手島はふてくされていた。

授業中に適当に割り振りされたグループ分けメンバーの中に、以前から気に入らないと思っていた男が含まれていたからだ。
来週までにこのグループで課題をまとめ発表をしなければならないなんて、全く最低な展開であると感じていた。

手島は自他共に認める性格に難のある男だ。
そんな手島が嫌う相手は羽田野というクラスメイトで、どんな人間かと言えば、ほんわか癒し系ワンコで、少し下がり気味の瞳が人の良さを表しているように見える。男女問わず人気のある男だ。
一方の手島は、整った顔をしているものの、マイペースで自己中心的な言動から、『手島坊っちゃま』と影で揶揄されている。
正反対な存在の二人であり、まさに水と油なのであった(手島曰く)。

同じ教室に在籍していたとしても、これから先だって自分たちが交わることなど一生ないと思っていた手島は、現在起きているこの状況が嫌で嫌で仕方がなく、一日中イライラが収まらずにいた。

(よし、ブッチしよう)

俺以外の3人で課題やればよくね?うん、そうだな。それがいいわ、などと身勝手なことを考え、この件は手島の中で一方的に解決される。


そして放課後。
さっさと帰ろうと身支度をしている手島を羽田野と他の二人のメンバーが取り囲んだ。
一瞬にして不穏な空気が流れる(手島のみ)。

「…あ?なんだよ」
「や、ここで手島確保しとかねぇとサボりそうだし」
「はあぁ!?」
「そうそう。で、どうするか。図書室でも行く?」
「〜〜っ」

こいつら、俺をなんだと思ってやがる、と反論出来ないところが悔しくて(実際サボろうとしていたし)、手島はぎりぎりと歯ぎしりをした。
取り囲んでいるをメンバーを睨みつけていると、その内の一人が「はいはい、威嚇しないのー」と手島の頭をぽふぽふとなでながら諌める。

(こっの野郎、なめやがって!!!!!!)

「っ」
「あのさー、悪いんだけど、俺ちょっと先生に呼ばれてて。2〜30分で戻れると思うから先に始めててくれる?」

爆発寸前の手島が口を開こうとしたところ、申し訳なさそうな声が割って入る。
声の主は羽田野だった。
手島は一瞬だけ、ちらりと相手の顔を見てみたが、急に胸焼けでも起こしたような気分になった。
やはりどうにもこうにもいけ好かない。

(くっそ、なんなんだよ、無駄にキラキラしやがって。うざい!)

「…」
「了解〜。そしたら俺ら先図書室行ってるわ。羽田野はあとで合流な」
「うん、悪いな。じゃ、あとで!」
「はいよー」
「〜〜っ」

手島がむっつりと黙り込んでいる間に他のメンバーと話がついた羽田野は足早に教室を出て行った。

(…俺は一言も良いとは言っていないけどな!?俺の意見はどうでもいいってことか?あん?)

「うし、じゃぁ俺らも行こうぜー」
「とっとと終わらせんべ」
「待ていっ」

手島の気持ちなど知る由もないメンバーたちに物申すべく、皆の前に立ちはだかる手島。

「?なによ」
「なによじゃねーよ、つかなんで今日!?いきなり張り切りすぎじゃね!?俺、今日は帰りたいんだけどーー!?」
「はい、却下。手島どうせ暇だろーが。面倒なことは早く終わらせたほうが良いじゃん。よし行くぞー」
「は、あぁーー!?俺暇じゃねーし!?てかおい、ちょっと待てぇぇぇ」

手島のストレスメーターはぐんぐんと上昇中であったが、この男がイライラしているのはいつものことなため、他のメンバーは特に気にもしていない。
しかも、手島が逃げないようにとバックを人質にとられてしまったため、結局彼も皆の後を追って図書室へと向かうことになったのであった。

(あぁ、なんでこんなにイラつくんだろう)

これまで羽田野と絡んだことなどほとんどないのに、手島は羽田野を見るといつもイライラした。
少し視界に入るだけでこんな調子なのである。
だから、極力羽田野とは接触しないようにしてきたというのに。


どうしたら、この憂さを晴らすことができるだろうか。


(…よし、)



「なぁ、お前ら、ちょっと付き合えよ」

不思議そうな顔をして振り返るメンバーに、手島はにやりと笑って見せた。



「あれ?皆がいない」

用事を済ませた羽田野が図書室にやってきた。
しかしどの席にも見知った顔がおらず、はて?と首を傾げた。

(資料とか集めてるのかな…?)

きょろときょろとあたりを見回してみるがどこにもグループのメンバーが見当たらず、羽田野は眉をハの字にしてしばし途方にくれた。
そのうち戻ってくるかと、ひとり席に着いてみたものの、やはりどうにも落ち着かないのかそわそわと周りを見回している。
そして、急に立ち上がるとすたすたと図書室から出て行ってしまった。

そんな羽田野の様子を本棚の陰から見つめる3人がいた。


「…ぶふっ、見たかよあの顔!ウケるわー」
「手島趣味わっるー」
「手島性格わっるー」
「うるせぇっ。黙って見てたお前たちも同罪だ!」

口々に糾弾されるが、手島は開き直って反省の色もない。

「あんな捨てられたワンコみたいな顔されたらさー、普通悪いことしたなとか思わない?」
「全く思わないね」
「はー、嫌なヤツ」
「おう、自覚済みだ」

他のメンバーがどう思おうが知ったことではないのだ。
自分の企みで羽田野が困った顔をしたというその事実に、手島は大満足なのであった。

「よし、すっきりしたところで俺帰るわ。じゃな」
「はぁ!?」
「何言ってんの!?羽田野探してそれから課題でしょーがっ」
「お前らだけでやってろよ、ターコ!」

すでにバックなど荷物は確保済みである。
捕まえようと手が伸ばされる前に、超絶ダッシュで逃げていく手島を、他のメンバーは呆れた顔で見ていた。

「…真のクズですな」
「だなー、とりあえず羽田野と連絡とるか」


こうして手島囲い込み作戦は失敗に終わった。



「ふぅ、撒いたか」

校門まで全速力で逃げてきた手島は、追っ手が来ていないことを確認し、軽く息を吐き出した。
いつもニコニコと笑顔を振りまいている羽田野を困らせてやることに成功し、手島はとてつもなく機嫌が良い。

(あいつの誰にでも別け隔てなく接する態度が気にくわない!誰に対してもヘラヘラしやがって。笑顔の安売りしてんじゃねーよ。ばっかじゃねーの、むかつくむかつくむーかーつーくー!!俺は皆と同じ扱いなんてまっぴらごめんだ。俺は、俺だけの特別しかいらない。だから、…………だから?)

「ってなんだそれっ!!!!!」

思わず自分の思考にツッコミを入れた。
これではまるで、自分が羽田野を独占したいと思っているようではないか。

「ちがうし。全っ然、そんなんじゃないし!」

手島は今考えていたことを追い払うようにぶんぶんと頭を振った。

「手島!」
「のわっ」

ぐん、と右手を掴まれ身体が仰け反る。
振り返ると、目の前に羽田野が立っていた。

「!?んな、」

(いつの間に!!!?)

想定外の人物登場に手島が口をパクパクさせていると、羽田野はにっこりと微笑んだ。

「よし、捕まえたー」

(は!?)

「二人から話は聞いたよ。さ、戻ろうか」
「っ」

手島のやらかしはすでに敵に漏れていた。
そしてそんな手島を羽田野は探しにきたらしい。

「…戻らねー。もう帰るから」
「え、なんで?」

手を振りほどこうともがいてみるが、びくともしない。

(くっそ、この怪力っ!顔にちっとも似合ってねーけど!?)

手島が必死になって手をぶんぶんと振りたくろうが羽田野はものともせず、涼しい顔で手島を見下ろしている。
余裕を見せる羽田野に我慢ならず、手島は声を荒げた。

「おま、お前が嫌いなんだよっ!お前のこと見てるとイライラするから一緒のグループとか無理!もう課題はお前ら3人でやれよ。俺は評価なくて良いし!」
「…は?きらい?」

羽田野がきょとんとした顔で聞き返す。

「手島何言ってんの?」
「何って、何が」

(なんなの。お前日本語通じないの?てかなんだその「意味わかんなーい」的な半笑い顔は!?)

「俺が嫌いって…はは、逆でしょ、手島俺のことすごい好きじゃん」
「……………はい?」

羽田野の言っている意味が理解できず、手島は目を丸くして聞き返す。

「だってそうでしょ、俺のこといつもチラチラ横目で気にしているくせに目が合いそうになると不自然な勢いで逸らすし。俺のこと異様に意識してるじゃない。今も顔赤くしてるしさ」
「違うっ。逆だ!嫌いだから目が合わないようにしてたんだよ!あと顔が赤いのは腹が立って頭に血が上ってるからだ、ばーかっ!」

(こいつ、まじで頭おかしいわ!勘違いも甚だしい!!!)

「あはは、無自覚なんだね、おっかしい」

むきになって反論する手島に動じず、羽田野は楽しそうに笑っている。

「さっきのイタズラもさぁ、好きな子をいじめる小さい男の子と思考が全く一緒なんだよね。ふふ、あぁ可愛い」

そう言うと、羽田野は握っていた手島の腕を自分の方へと引き寄せ、手首の辺りに唇を這わせた。

「うわ、やめっ!」
「顔真っ赤ー。…ほんと手島って可愛い。可愛すぎてめちゃくちゃにしてやりたくなるよ」
「な、」

(なんだってぇぇ!?)

「お、お前…!癒し系ワンコとか言われてるくせに、猫かぶってたのかよ!この変態ドS野郎!!!」

ワンコが猫をかぶるってなんだ?と思いつつ、羽田野の言動にそう言わずにはいられなかった。

「あぁ、なんかそれ良く言われるけど、皆分かってないよね。俺ってこういう奴だよ?」
「開き直ってんじゃねーよ、この変態!!」
「その変態が好きなくせに」
「だから好きじゃねーよ!!」
「もー頑固だなぁ。とりあえず戻ろうよ」
「いやだね!」
「じゃあ実力行使ー」

言うや否や、羽田野が手島をひょいと抱えあげた。

「ぎゃあ!」
「軽ー。ご飯ちゃんと食べてる?」

驚きのあまり叫ぶ手島を無視したまま、羽田野はグループの二人が待つ校舎へと引き返す。

「ちょ、降ろせよ!ふざけんなよてめぇ!!」
「ちゃんんと課題やるなら降ろすけど」
「お前がいる限りやらねぇッつってんだろ!」
「…そういうこと言う?あんまりツンばかりだとこっちにも考えがあるからね」
「…あ?なんだよソレ、言ってみろ」

抱えられたままの状態で手島が凄むものの全く迫力がなく、羽田野はくすりと笑う。

「手島が俺に言い寄ってきて困ってるんだって言いふらす、とか」

そう言ってにやりと笑う羽田野に手島は背筋がぞわりとした。

「っそんなデタラメ誰も信じねーよ、ばかじゃね!?」
「そうかな?俺日頃の行い良いしねー。俺と手島の言うこと、皆どっちを信じるかなぁ」
「…」

黙り込んでしまった手島に、少し言い過ぎたかと羽田野が力を緩めた瞬間、手島の肘が羽田野の背中に思い切りヒットした。

「ぐぅっ」

体勢を崩した羽田野から逃れることに成功した手島が勝ち誇ったように声を上げた。

「ばーぁかっ!これぞ天誅ーーーー!!おい、俺があれしきの発言でへこたれるとでも思ったか、この間抜けがぁぁー!死ね!土に還れ!!」
「……手島は少しイタイ目見ないとだめなのかな?」

ぎらりと光る羽田野の目に怖気づいた手島がじりじりと後ずさる。

「手島こっちおいでー。おしおきするよー」
「げ、ちょ、うわ、来るなぁぁぁ」


そんな感じでしばらく追いかけっこが続いたらしい。


一方残された二人。

「おい、羽田野まで戻ってこないじゃーん」
「もういーよ、待ってる時間がもったいない。俺らでやっとこ」
「…だな」


end.





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