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ライブ!(クール×バンドおっかけ)
ロック好きな親父の影響で物心ついた頃から音楽が好きだった。
邦楽・洋楽問わず聴き漁り、中学生の時、同級生の兄ちゃんから教えてもらった“ブラッド”というバンドの存在を知ってからは、地元のライブハウスに通うのが俺の日課と化していた。

今日も学校帰りにライブハウスへ直行する。
ブラッドのおっかけ歴はもうすぐ2年。
最近はメジャーデビューの噂も出ているほどの人気バンドだ。
ブラッドのライブは全通したい!そんな思いから俺のバイト代はライブ資金に全てつぎ込まれていた。まあ、高校生だからさすがに遠征まではできないけれど。
親父の理解もあるから、ライブで帰りが遅くなっても怒られないし、今の生活はまじで最高だと感じている。


「あ、やっすんだー」
「ういっすー」
「やっすん今日も一番乗りだねー。気合いが違う!」
「あったり前じゃーん。俺、ブラッドのために生きてんだもん」
「あは、中毒だねー、ブラッド信者!」

ブラッドはメンバーが皆イケメンで、ファンは女の子が圧倒的に多い。
そのせいか男の俺は目立つらしく色んな人が声をかけてくれるから、基本ぼっち参戦な俺だけど寂しいと思ったことは全くない。

「あ、そう言えばさ、前にブラッドのローディしてた人、バンド組んだの知ってる?」
「カズでしょ?デビューライブ見たよー!かなりイケてた。他のバンドの前座だったけど、完全にファン獲ってたし!あれは人気でるねー」
「確かにー。イイ声してたよね。バラードとか腰に来る感じ!あ、でもあたしは澪がイチバンだけどねっ」
「えー、とか言って女の子はすぐ裏切るからなあ」
「そんなことないしー!」
「あはは」

とりとめのない話をして盛り上がっていると、搬入スタッフが目の前を行き来し出す。
メンバーもそろそろ来る頃かな。

周りを見回すと徐々に客も集まってきていた。
わくわくしながらオープンを待っていると、俺達から少し離れたところに一人立たずむ少年が目に入る。
多分同年代だ。

普段ブラッドのライブで見かけたことのない顔だったから、新規ファンかもしれない。
なんにせよ男ファンは確保せねば!

俺は女の子達の輪から抜け出し、ターゲットに声をかけてみた。

「こんにちわ!俺、康明っていうんだ。キミ、ブラッドのライブ初めて?」
「………そうだけど」

お、近くで見るとかなりのイケメンだ。
俺の問いかけに不審げな様子で答えるイケメン君。
ふふ、めげないぜ。

「急にごめんね?ブラッドって男ファン少ないから嬉しくてさ!良かったら仲良くしよーよ」

そう言うと、イケメン君はさっきまで俺がいた女の子たちのグループをちらりと見てから、首を横に振った。

「大勢で連むの苦手だから」
「あーそっか、じゃあ今度俺一人の時声かけんね。名前聞いてもイイ?」
「……玲衣」
「レイ?」
「ん」
「ありがとな!じゃあレイまたね」

軽く手を挙げて挨拶をし、女の子達の元へと戻ると、『なにナンパしてんのー』とからかわれた。なんだよ人聞きが悪いなー。
俺は男ファンの開拓をしていただけなのに。

…玲衣とまた会えるだろうか。
まあ、ブラッドのライブを生で見たらきっとハマるだろうけどね。



「あ、レイだ!今日来てたの?」
「ん、途中から入った」

あれから数ヵ月。

玲衣はちょくちょくライブハウスに顔を見せるようになっていた。

俺が玲衣を見かけるたびに声をかけまくっていた甲斐もあり、今では会うと一緒にいることを許してくれるようになった。(色々諦めたのかもね!)

「そういやレイっていつも私服だけど高校どこ?家こっから近いの?」
「…俺学校行ってないから」
「え、そうなの!?じゃあ普段何してんの!?ニート?」

俺の不躾な質問に、玲衣は呆れたような顔を見せた。
う、ごめん。俺、思ったことすぐ言っちゃうんだよね…。

「あんた、本当にずけずけとモノを言うよね…まあ良いけど。普段はピアノさわったり、あとは通信の課題したりとか」
「へぇー!ピアノ弾けんの、凄いね!将来はそっち方面いきたいとか?」

音楽を聴くのは大好きだけど、実技はからっきしの俺にとって、奏者は憧れの存在だ。

興奮気味な俺に対して、なぜか玲衣は冷めた目で俺を見ていた。

「…俺は、一回逃げたから」

そう言って玲衣は静かに目を伏せた。

…やばい、触れちゃいけない話題だったかも。
なんて答えたらいいのか分からず、二人の間に気まずい空気が流れた。

本当に自分の思慮の浅さが嫌になる。
折角大好きなブラッドのライブに来て、玲衣にも会えて、最高に楽しい気分だったのに、こんな雰囲気のまま玲衣と別れるの、めっちゃ嫌だ。

「…あー、このあと飯でもいく?」
「…なんで」
「え?」

なんで、って逆になんで!?
この場合、玲衣の答えはイエスかノーじゃないの。

「ぇえっとー、…うーん、レイが好きだから?」
「……」
「あ、ラブじゃなくてライクの方…」
「分かってるし」

慌てて弁解する俺に玲衣が苦笑した。
普段あまり笑わない奴が笑うと破壊力すげぇ。
やっぱイケメンはすごい。
男の俺ですら見惚れてしまう。

ぽやーっと玲衣を見ていたら、玲衣が再び口を開いた。

「うち来れば。こっから近いし」
「え!まじで!?でも急に良いの?」
「嫌だったら誘わない」
「行くっ!」

そうだよね。
玲衣は嫌なことは嫌ってはっきり言う奴だ。
そんな奴が、自分のテリトリーに俺を入れてくれるなんてすごくない?
俺、親友認定された?

嬉しくて顔が緩みっぱなしのこちらのことなどお構いなしに、すたすたと歩いていく玲衣のあとを急いで追う。
全くマイペースな奴だよー。


「お邪魔しまー…わああ!」
「うるさ…」
「すげっ!でかっ!」

通されたリビングのど真ん中にグランドピアノが鎮座している光景は圧巻だった。

「…レイって金持ちのおぼっちゃんなんだなー」
「は?全っ然普通…でもないのか」

玲衣は俺に飲みものを手渡し、ソファにドカリと座り込む。

「うち、音楽一族で親は年中海外を飛び回ってるんだわ」
「へぇー、じゃあ今独り暮しみたいなもん?兄弟は?」
「…兄貴がいるけど家出てて、ここにはたまに顔見せに来るぐらい」
「へぇ…」

玲衣は寂しくないのかなあ。
大勢で連むの苦手って言ってたけど、こんな広い家で一人って俺だったら寂しいけどな。

「おにーさんも音楽系の仕事してんの?やっぱ忙しい?」
「………」
「…ん?」

なんで無言?
俺がきょとんとしていると、玲衣はふうと息を漏らした。

「こんな近くで見てるのになんで気づかないの?俺ら、顔とか声よく似てるって言われるんだけど」
「んん??」

どういうこと?
頭の上に疑問符が大量に乗った状態で玲衣を見つめる。

「俺の兄貴、ブラッドとかいうアマバンのボーカルしてるんだけど」
「……………は?」

はぁぁぁぁぁぁぁ!?

「え、は?なに、嘘でしょ、え、まじで!?」
「驚愕しすぎ」

えー、だって信じられない!そんなことってあるの!?

玲衣の顔を両手で挟み込んでじっくり観察してみる。
似てる?うーん、目元とか?

「えー、やっぱわかんねーよー。レイはレイにしか見えないけど」
「…あそう。つか痛い」
「あ、ごめん」

やべ。興奮しすぎた。

それにしたって、澪はあんまりMCをしないし、マイク越しの声しか知らないからなあ。玲衣と似ているなんて、考えたこともなかった。

「…てかさ、身内バレとか平気なの?ブラッドってメジャーの話とか出てるでしょ。俺に話して、レイが怒られたりしない?」
「は、別に大したことねーだろ。こんくらい。それにあんたのことは信用してるから」

玲衣はケイタイに何か打ち込みながらさらりと言ってのけた。
その台詞をどんな表情で言ったのかこっちからは見えなかったけど…これはかなり嬉しい、かも。

メールでもしていたのだろうか。用済みになったらしいケイタイをそこら辺にポイッと投げ出して、玲衣がこちらに視線を向けた。

「…俺、ピアニスト目指してたんだけど、メンタル弱くてさ、色んなプレッシャーに勝つことも、向き合うことも出来なくなってきて」
「…うん」
「で、ある時パーンって破裂して。全部捨てたんだ。ピアニストになる夢も、通ってた学校も、親の期待とかそういうもの全部。…それから俺の世界はこの部屋だけになって、なんかもう自分が生きてる価値とか見いだせなくなってた時、兄貴にライブ誘われたんだ。まあ気晴らしって感じで少しだけ顔出すつもりで行った。そん時、あんたと初めて会ったんだ」

そこまで話して玲衣は持っていたグラスに口をつけた。

いつも二人でいる時は俺が一方的に話していて、玲衣が自分の話をしてくれることってあまりなかった気がする。

今日初めて、玲衣が抱えていた心の澱を知ることとなり、俺はなぜだか喉の辺りがむずむずと苦しくなっていた。

「…あんたが、すごく羨ましかった。いや、あんただけじゃない、ライブに来ていた人全員がすごく輝いていて、ひとつのエネルギーの塊に感じたんだよね」
「うん、それすごいわかる。ライブってめっちゃパワーもらえるから」
「ん。ずっと忘れてた気持ちを思い出させてくれたんだ。だから、康明には感謝してる」
「…俺、別になんもしてないよ?」
「いつも声かけてくれたじゃん。それに、あんたの存在自体が俺のエネルギーになってたし」

玲衣がそんな風に思ってくれていたなんて。
嬉しすぎて泣きそうなんだけど。

「レイ!いっぱい話してくれてありがと!俺馬鹿だから失言とか多いかもだけど、これからもよろしくな!」
「ん」
「…でもさ、なんで急に色々話してくれる気になったの?や、嬉しいんだけど」

俺の問いに、玲衣は自分の顎を撫でながらうーんと唸って、こちらを見た。

「…康明が好きだから?」
「え、」
「ちなみに俺はラブの方だけど」
「え!?」

そう言ってにやりと笑う玲衣。
なにその勝負顔!まじイケメンすぎて死ぬ!!
そんな顔見せられたら俺、動悸息切れ目眩が半端ないんですけど!?

「…冗ー談」


顔を真っ赤にしてフリーズしている俺の頭に手を置いた玲衣が笑った。

は?

「なっ、んだよもー!からかわないでよね俺ピュアボーイなんだから!弄ぶなっつーの」
「とりあえず今のところは、みたいな?」
「………え」


何?
なんなの。
本当意味わかんない。今のはどう受け取ればいいの。俺馬鹿だからちゃんと説明してくれよ。

俺達男同士なのにさ、俺はなんでこんなドキドキすんだろ。これっておかしくない?

全部、全部玲衣のせいだからな!


…ねぇ、やばいんだけど。
俺、ブラッドよりハマるものができちゃったかもしれない。



end.


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あきゅろす。
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