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cruel(ヤンデレ×幼なじみ)

「リョウ、今日の英語訳やってきたか?」

通学中。朝のラッシュで込み合う電車内でつり革に掴まりながら隣に立つ幼なじみに声をかけた。
奴は薄く笑みを浮かべて「するわけないじゃない、当たらないのに」と答える。

は?当たらないから予習しないとかお前なめてんの。ふざけんな。

「俺が当たるんだよ。この役立たずっ」

そう言って奴の足をげしげしと蹴る。(もちろん自分のことは棚上げだ、あ?なんか文句ある?)

「ちょ、痛いっ!止めてよ、カイー」

リョウは笑いながら俺の攻撃を止めさせようとするが、狭い車内でそれは叶わず俺の思うがままに蹴られ放題だ。

こいつ、小学生の頃はひょろひょろのもやしみたいで俺より小さかったくせに、成長期を迎えて、あっという間にでかくなりやがった。

昔はほとんど同じ高さだった目線が、今ではこちらが見上げなければならないという屈辱。はあー、泣けるわ。
なぜ俺はこいつのようににょきにょき伸びなかったんだ!?
カムバックマイ成長期!

「…ちっ、お前ばっかあほみたいにでかくなりやがって」

俺の呟きにふふっと笑うリョウ。余裕ぶってんじゃねーよ、くそ!
苛立っている俺を横目でちらりと見たリョウが、ぽんぽんと俺の肩を叩いて諌める。

「もー、苛々しないのー。学校着いたら英訳付き合うからさ」
「は、当たり前っ。お前の存在価値なんて俺の予習をするためだけにあるんだっつーの」
「あはは、ひどいなー。俺の価値ってそれだけー?」
「そんだけ」
「もー」

こいつは俺がどんなにひどい言動をしたって笑顔で流す。
それは昔から変わっていない。

いつも俺の後ろをちょこちょことついてまわり、どれだけ邪険にされても懲りずにまとわりついてくる。
中学に上がり、成長したリョウを取り巻く環境が一変した時もそうだ。

元々顔のつくりが良かったリョウは、背が伸びると同時に男前度も上がって急に女子たちに騒がれるようになった。
奴をみそっかす扱いしていた男たちも手のひらを返すように奴を持ち上げるようになっていて。
その頃には俺とリョウの学校内ヒエラルキーは完全に逆転していた。

それでも奴の俺に対する態度は変わらなかった。
ずっと俺の傍を離れず、俺だけに忠誠を誓う騎士のように。
別に俺は王様になりたいわけじゃないのだが。
もし俺が女だったらこの状況を喜ばしく思ったのかもしれない。けどあいにく俺は男なのでね。イケメンにまとわりつかれても比べられるだけで全く嬉しくもなんともない。

こいつが何を考えているのかわからんが。
ま、確実に言える事はこのままでは俺に彼女ができることは永遠にないということだけだ。

隣の男をこっそりと観察する。
端整な顔立ちとはこういう顔を言うんだろうなと思うほど見事に整った美しい顔だ。
今だって女子高生はおろか大人のお姉様方もちらちらとリョウを盗み見ているのがわかる。
けれど、こういう時のリョウは一切周りに反応しない。周りの人間は空気と一緒だと思っているに違いない。

じっと見つめていると、俺の視線に気づいたリョウが首を傾げて、何?のポーズをとる。

「お前ってさー、今まで彼女いたことあったっけ?」
「んー?何突然。ないけど?」
「でも童貞じゃねーだろ」
「…え、なになにー。もしかしてカマかけようとかしてる?ひっかからないよー。てかこんなとこでいきなり何ー」

俺の問いには答えずへらりと笑ってごまかそうとする。
…こいつ、ぜってー女知ってるし。

まあ確かに人が沢山いる中でする話じゃねーかと、声のトーンを落として続ける。

「…お前さあ、学校ではお前含めてかもしんないけど、俺に女寄せ付けないようにしてるよな。それ故意にやってるよな。気づいてないとか思った?わかるっつーの、あほか。で、なんで?今までの仕返しとか?てかお前はどこで女と遊んでんの?ほんと謎なんだけど」
「そんなのー、カイが好きだからじゃん。彼女なんか作らせてなるものか!って感じ?あと別に遊んだりとかしてないけど…」

好き、だから?
まじでさ、そういう子供みたいな独占欲ぶつけてこられても迷惑だっつー話だよ。

「お前、まじアホだな。友情と恋愛は別だろうが。別に俺が彼女作ったってお前との関係は変わんねーよ」

ため息まじりにリョウに言葉をかけるが、そんな俺に対して奴はぶんぶんと首を振った。
あ?なんだよそれ。
リョウの行動が理解できず眉をしかめると、奴が俺に耳打ちする。

「カイは何も分かってない。俺が言ってるのは恋愛感情の“好き”だよ?」

……はあ!?

「…なに言ってんの?頭沸いた?」
「超本気だけど」
「…」

つり革を握る手にじわりと汗がにじむ。
朝からこんなところで、何言ってくれてんの?

「は、ウケる。皆の人気者のリョウ君はいつも不当に虐げられている同性の幼なじみが好きだとか。ほんっとありえねぇわ。目を覚ませよ、今すぐに」
「もう、何回言わせるのー。俺本気だけど?カイこそ観念したら?俺が何年がかりでここまで足場作ってきたと思ってんの?お察しの通り、今までカイに色目使ってくるような女どもはことごとく潰してきたよー。だってカイは俺のものなのに目障りじゃない」

変な奴だとは思ってはいたけど、こいつここまで病んでいたか。
これまでの行動に至る感情のベクトルをやっと理解でき、俺はどうしたものかとこめかみを押さえた。

「…あー、お前の俺に対する執着は刷り込みみたいなもんだろ。きっと離れれば正気に戻る。お前、まじで女つくれって。俺もそうするから」

な?と言い聞かせるようにリョウの顔を見上げる。
俯き気味だった奴の顔を覗き込むと、うっすら口の端を持ち上げて笑うリョウと目が合う。
…こえー。

「リョウ、?」

声をかけると、リョウがゆっくりと手を伸ばして俺の後頭部を撫でた。
…なぜに?

「おい、」
「俺ねー、カイになら何されても嬉しいんだけど、ひとつだけ絶対許せないことがあるのね?」
「……」
「カイに女は必要ないよ?今度彼女つくるとか言ったらさー」

そこで言葉を切り、にっこりと俺に笑いかけるリョウ。
…こっちは全然笑えないけど。
ごくり、と俺の喉が鳴る。
俺の後頭部を優しく撫でていた奴の手が、ぐわっと髪を鷲掴みにした。

「っぃ!」
「俺、逆上してカイのことヤり殺しちゃうかも」

そう言って艶っぽく微笑むリョウ。
周りには聞こえない程度の囁きだったが、俺を震えさせるには十分な威力だ。

「…俺、彼女イラナイカラ」
「うん、良かったー」

俺の返事に満足したのかリョウは掴んでいた髪をパッと離して満面の笑みを浮かべる。


…俺をヘタレだと罵るか?
けどさ、この体格差で強姦宣言を受けたら普通怯むだろ。

こいつはやるときはやる男だ。
ただひたすら俺に甘いだけで基本的に他人に容赦がない。

今それをまざまざと感じさせられた俺は、これからも奴の地雷を踏まないように最大限の注意を払うことに専念しなければ。

長いものには巻かれなければ平穏な生活はおくれない。

こいつが作った甘く優しい檻の中でだけ、俺は自由に生きられるのだから。


end.


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あきゅろす。
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