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2ヶ月間のモラトリアム(生徒×教師)
先生に恋をした。

今までは、ただなんとなく誰かと付き合って、時間が経つと徐々に関係が悪くなっていって別れることになり、またしばらくすると別の誰かとなんとなく付き合う。そういうサイクルが恋愛だと思っていた。

けれど、自分が誰かを思って悩んだり喜んだりすることを幸せだと感じるようになったのは、先生を好きになったから。

俺は、先生を好きになって初めて恋を知ったんだ。


「ねー、せんせーのこと好きなんだけど。俺と付き合ってくんない?」

そして今、人生で初めて自分から告った。
相手は担任の浅川(男)。担当教科は国語。
この時間帯はいつも準備室に一人で籠っているのを知った俺は、ずっと告白するタイミングを窺っていたのだ。

別に勝算があったわけじゃない。
だってこの人、完全にノーマルだしね。
まあ俺もそうだったんだけど。
男を好きになったのは先生が初めてで多分これが最後の恋になる。

男同士だし相手は教師。色々ハードルが高すぎだけど、このまま何も言わずに終わりにしたくなかったから気持ちを伝えることにした。

で、当の先生はと言うと、俺の発言に目を丸くしてくわえていたタバコをぽとりと落とした。
うわっち!とか喚いているし。だっさー。でもそんなとこも可愛い。

「…お前、寝言は寝てから言え」

タバコを灰皿に押し付けてこちらに向き直った先生がきつい声音で言い放つ。
まあ、第一声としてはそんな感じだよねー。予想はしてた。

でもね、残念ながら俺は本気なんだ。

「寝言じゃないよ。俺真剣に言ってるし」
「本気なら尚更悪い。お前らみたいなクソガキどもに手なんか出してみろ、俺は一瞬にして社会から抹殺されるわ」
「えー、そんなん黙ってたらバレないんじゃねぇ?」
「馬鹿か。そんなリスクを犯すほどのメリットが一体どこにある。何一つ見つからねぇわ」

んーメリット?
メリットかあ…。

「そこそこあるっしょ、俺というイケメンを毎日味わうことができるよ。それに俺若いしー」

何回でもいけるよ?
って首を傾げて可愛いコぶったら頭をぶん殴られた。

「…うーわっ、体罰だしー!」
「は?セクハラに対する正当防衛だろ」
「ちょっとせんせーぇ、俺の言うこと聞いてくんなきゃ体罰のことチクるよー?」
「じゃあ俺はセクハラ及び脅迫罪でお前を訴えるわ」
「…」

くっそう。ああ言えばこう言う。憎たらしい!
じゃあ作戦変更で泣き落とし!

「絶対、だめなのー…?」
「駄目だ」

がーん。
売られていく可哀想な子牛のように見つめてみたのに、ばっさりと切り捨てられた。
うーん。難攻不落。

しょぼんとしていたら呆れた顔をした先生がこちらを見ている。

「…そもそもなんで俺?お前、前に彼女いなかったか?」

おー、良く知ってるなあ。そう、いたんだけどね。
でも先生を好きだと自覚して、今までの彼女たちとは恋人ごっこをしているだけだったと気づいたから、今はいないよ。

「…うん、そういうところかなー」
「あ?」
「そういう、適当ぶってるくせにちゃんと生徒一人ひとりのこと見てるところが好きなんだ」

受け持ちの生徒のこと、誰よりも親身になって考えてくれるところ。
きっとこの人は俺の得意科目もその逆も把握してるはず。勿論俺以外の生徒のこともだけどね。

「…そんなん、担任なんだから当たり前だろ」

先生は口を尖らせているが、これは確実に照れている。
だって耳が赤いし。

「当たり前じゃないよ。俺、他の先生にはそういう熱みたいなの感じたことないもん」
「…」
「俺、先生の面倒見が良くて優しいくせに口が悪いところとか、片付け出来なくていつも机が汚いところとか、朝寝癖直してこないところとか、あと…」
「おいヤメロ」
「良いところもダメなところもさー、全部好きなんだ」
「わかった、わかったからもうヤメテクレ」

両手を上げて降参のポーズをとる先生。
えー、ほんとに伝わった?

「お前が本気なのは理解した。…けどさ、お前が良いと思ってる俺は教え子に手を出すような倫理観のない男じゃないだろう?」

…ほう、そうきますか。

「んもー、びっくりするくらい頑なだなあ。こんなに愛されてんのに一体何が不満なのー?」
「お前が俺の生徒だってことに尽きるな。あとは年齢と性別」

先生は、だから諦めなさいと言わんばかりの態度だが俺は別に悲観していない。

「それってさー、性別以外はいずれ解決できる問題だよねー?」
「…は?」
「だって俺今三年じゃん?もうすぐ卒業だし。お陰さまで推薦で地元の大学も決まってるよー。このまま順調にいけば問題なく卒業できるから先生と生徒じゃなくなるよね。まあ、年齢差は縮まらないけど、先生童顔だし?俺どっちかといったら上に見られるタイプだからさ、俺が社会人になる頃にはほとんど気にならなくなるっしょ」

ね?と先生にウインクして見せる。
先生は眉を寄せて黙り込んだ。あ、どうしたら俺が諦めるか思索中だったりする?けど無理だよ、俺もここまできたらもう引けないわ。

「この際、性別についてはそんなに気にしなくて良いよね。俺イケメンだし、大丈夫だよね」
「自分でイケメン言うな。あと勝手に大丈夫だって決めつけんな」

でも否定はしてないじゃん。
本当は満更でもないんでしょ?

「別に今すぐ付き合えって言ってるわけじゃないよ。卒業したらもう一回告白するから、その時返事を聞かせてくんない?」
「…俺の気持ちは変わらんぞ」
「そんなのわかんないよ。だって卒業まであと2ヶ月もあるんだよ?恋なんて一瞬で落ちるもんだしねー」

俺がそうだったように、先生も俺を好きになればいい。

なぜかわからないけれど、自信だけはあるんだ。
そんな思いを込めて、先生ににっこりと笑いかける。

先生は、はあーと長く息を吐いたあと、真っ直ぐに俺を見た。
その目に、普段俺を見る時のものとは違った感情が混ざり込んでいるのがわかる。
なに、その目。ぞくぞくするんだけど。

「…お前、持ち上げるだけ持ち上げといて、卒業後になんの音沙汰もなかったらマジで殴りにいくからな。大人をからかった罪は重いんだ。きっと俺しばらく寝込むぞ、社会復帰できなくなるほどへこむ予感がするわ」
「…っ、大丈夫。そんなことあり得ないから」

一瞬息が止まった。言葉が出てこなくて焦った。
嬉しい。嬉しい!!
もう一度覗き込むようにして先生の目を見つめてみた。

「なんだよ」
「…ううん」

もう先ほどのような感情を読み取ることはできなかったが、またあんな目で俺を見てほしい。


次にあれを見ることができるのは、卒業後?
その時は、思いきり先生を抱きしめさせてね。


end.


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あきゅろす。
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