アカい実破裂(クラス委員×絡まれ不良) 「ぃってぇ!」 口の端にぺたりと絆創膏を貼られて思わず唸る。 「これくらい我慢しろ」 「やーだよ、もっと優しくしてくんね?」 「…痛いのが嫌ならケンカなんかしなければいいだろう。馬鹿だな鈴木は」 そう言って傷だらけの俺をため息まじりに見つめる男はクラス委員の鮫島。 ケンカをしては傷を作る俺を見かねて、こうやって手当てをしてくれる。 面倒見の良いおかんみたいな奴だ。 「別にケンカなんてしたくてしてる訳じゃねーよ。なんかいつも向こうから吹っ掛けてくんだよね。本当うぜーし」 「ふん、どうせお前が挑発してるんだろう?」 「してないって!まじで!」 確かに俺は人より目付きが悪いというのは自覚している。 けれど不用意に誰かを挑発するようなことは一度たりともしたことはない。 もともとケンカは好きじゃないんだ。けれど負けるのはもっと好きじゃない。 なまじっか腕が立つばかりに、俺の噂を聞いた馬鹿野郎達が毎日のように無駄に絡んでくるだけなんだ。 なのに、まるで俺が好き好んでケンカをしているとでも言いたげな鮫島の言い分には心外としか言いようがない。 むすりと黙り込む俺を、奴は苦笑いで見ていた。 「…」 「…」 二人とも無言になり、他に誰もいない空間がしんと静まり返る。 徐々に夏へと近づく季節となり、教室は少し蒸し暑くなってきた。 うっすら滲む汗が不快でシャツの襟元をパタパタとはためかせて風を送る。 「あっつ…」 アイスでも食いたい気分だ。 俺を誤解していた罰としてこいつに奢らせるかな。 そんなことをぼんやりと考えていると、強い視線を感じた。顔を上げると、こちらを凝視している鮫島とばちりと目が合う。 「何?」 「…いや、うん」 ハッとしたように俺から視線を反らし、何か考え込むような素振りを見せる相手を訝しげに見つめる。 「なんだよ、言いたいことあんなら言えば」 「…そうだな、とりあえずシャツのボタンはちゃんとつけておけ」 そう言って、第三ボタンまで開いていた俺のシャツを整えようと奴が手を伸ばす。 「ちょ、お前ふざけんなよ、あちーじゃん!」 「良いから言う通りにしろ」 ボタンを一番上まで止めようとする鮫島と揉み合いになる。 「なんなんだよ、急に!つかてめーこそ第2まで開けてんじゃねーか!」 「俺は良いんだ」 「は、ナニソレまじ理不尽!理解不能っ」 「お前こそ、シャツの下に何も着ないとかなんなんだ、理解できん」 「いや、あっちーんだよ!これは理解できんだろ」 「……全く、お前が絡まれる理由が少し分かった気がするよ」 「あん?」 どういう意味だ? 俺から手を離してため息をつく鮫島(本日二回目)を見上げる。 眼鏡の奥から覗くくっきりと美しい二重をした瞳は、少しだけ困惑の色を見せていた。 「…気づいていないのだろうが、お前からなんだか妙な色気を感じる」 「イロ…!?」 口をあんぐり開いたまま鮫島を見ていると、奴はふん、と鼻を鳴らす。 「不良たちに絡まれるのもお前のその訳のわからないフェロモンに煽られているからじゃないか?」 「なっ、ちげーよ!お前馬鹿じゃね!?」 「無自覚のまま、お前をどうにかしてやりたいと思う奴らの気持ちが分かりやすい暴力という形に変換されているんだろうよ」 「んな訳あるかぁっ!気持ちわりィこと言ってんじゃねぇ!」 なんでそんな結論に至るんだ!?しかも決めつけてるし!まじ意味がわからん。 お前が変なこと言うせいで鳥肌が立ったわ!ボケェ! 「…自覚がないから質が悪い。お前も、お前に絡んでくる奴らもな」 「っだからさぁ!」 俺が言い返す前に鮫島の指が俺の鎖骨から首筋をゆっくりと撫で上げた。 「っひぁ!」 驚いて変な声が出る。 不意とは言え、女みたいな甲高い声を出してしまったことに羞恥を覚え赤面する。 パニックを起こして口をパクパクさせていいる俺を見ても、鮫島の横柄な態度は崩れない。 むしろ酷くなっている。なんで目が据わってんだ! 「…シャツから覗く鎖骨がいやらしい。あと、ボタンを開けすぎて腹まで丸見えだ。これ以上俺に襲われたくなかったら、中にもう一枚着ろ。…分かったか?」 「…はっ、はい」 鮫島の迫力に気圧された俺は、ただ従順に返事をするしかなかった。 くっそ、何負けてんだよ…。 それからと言うもの、俺はきっちりした身だしなみを義務付けられた。 学校の行き帰りも鮫島にがっちりガードされた俺は、ケンカを吹っ掛けられることがなくなった。 これはかなりありがたいと感じている。 服装に関しては窮屈であるものの、ケンカをしなくてすむのは何よりも助かった。 だがその代わり、俺と鮫島が付き合ってるという噂が校内でまことしやかに流れるようになっていた。 しかも奴に至ってはその噂を満更でもなさそうな態度で受け入れていやがるし。 もーナニコレなんの罰? 本当、泣きたい。 end. [*前へ][次へ#] [戻る] |