[携帯モード] [URL送信]
恋じゃない(ヤンデレ×元学年首席)

…今回もまただ。

期末試験の結果が貼り出され、俺は順位表の前に立ち尽くす。
一位に名を記されているのはクラスメイトの小金井だ。俺は今回も僅差で二位に甘んじた。
科目別では奴に勝つこともあるが、総合で勝てなきゃ意味がない。

一年時は常に俺が一位で、その頃の小金井は上位の方で見かけるものの、ライバルと言うほどの位置にはいなかった。
前回の中間試験からトップの座を奪われ、期末は負けてたまるかとかなり意気込んで勉強したというのに。

悔しくて仕方ない。
ぎゅうっと拳を強く握りしめていると、自分と同様に試験の結果を見に来た小金井が俺の隣に立った。

「やったあ、一位だ」
「…」

言葉と裏腹に無感動な目で順位表を見る男は、見た目はチャラチャラとしていてガリ勉タイプには見えない。
苦労している様子もないのに、あっさりと一位を持っていかれたのか。
なぜこんな奴に俺が負けなければならないんだろう。

黙っている俺をちらりと見て、小金井が薄く笑みを浮かべた。

「山崎、ごめんね?」
「……なんでお前が謝る」

微笑みながら俺に謝罪の言葉をかけてくるこの男に、血管が切れそうになる。
周りには他にも生徒がおり、こんな会話を聞かれるなんて死んでもごめんだった。
俺は踵を返して廊下を歩きだす。
これ以上小金井と話す気にもなれなかったからその場を離れたというのに、そんな俺の思惑もお構い無しに奴が後を追ってくる。

なんなんだ、うざいな!
仕方がないので空き教室へ入ると、当然のように俺の後に続いて奴も入ってきた。

「山崎、今までずっと一位だったのに悪かったなと思ってさ」

先程の続きらしい。
へらへらと笑っていて悪びれた様子もない。本気の発言とは思えなかった。

「…それは、俺の努力が足りなかったからだろ。お前に謝ってもらう筋合いなんて微塵もないから」

俺がそう言うと、小金井がふふっと声を出して笑う。

「でも、内心ハラワタ煮えくり返ってるでしょ?山崎すぐ顔に出るから分かりやすい」
「…うるさい」

ほんとうるさいんだよ!
ああ腹立ってるよ。大嫌いだお前なんか!
でもこんなの、ただの八つ当たりだって分かっている。
だから黙って耐えていたのに、お前が傷をえぐるような真似をするから…!

「…嬉しいなあ」
「は、なにが!?」

俺の苛立ちを感じたらしい小金井が、更に耳を疑う発言をする。
俺が睨みつけたって顔色ひとつ変わらず、むしろ本当に嬉しそうにしている様子になぜか鳥肌が立った。

「別にどんな感情でも構わないんだよね。山崎が俺を意識してくれたら、それだけで俺満足だから」

満足…?
こいつは俺が小金井を嫌っている姿を見て喜んでるのか?

「そんなに俺が嫌いな訳?お前に負けて悔しがる俺を見て悦に入ってんのかよ?」

嫌悪感を隠すこともできず、キツい声色で問うと、奴は「まさか」と言って首を振る。

「違うよ、ぎゃーく!」
「逆…?」

ますます意味がわからない。
怪訝な顔で小金井を見ていると、奴は目を細めて俺見つめている。

「あぁ、たまんない。今、山崎が俺のことを見て、俺のことだけ考えていると思うとゾクゾクするよ」
「は?なに言って…」

顔は笑っているのに、けれどその目の奥には狂気が見え隠れしていて、相手の薄気味悪さに背筋がぞわりとした。

「俺、これから卒業までずっと一位取り続けるよ?だって山崎のことが好きだからさ」
「…好きって、なにをふざけたこと言ってるんだ?俺っ、もう教室に戻るから!」

これ以上二人きりでいるのが怖くなり部屋から出ようとするが、小金井に入り口を塞ぐようにして立たれ、逃げ場を失う。

「俺、本気だけど?」
「っどうして…。なんで俺?意味わかんないし。お前モテるだろう。俺男だし、しかも勉強しか取り柄のないつまんない人間なのに…正気かよ?」
「つまるかつまらないかを決めるのは俺だから。俺は山崎がいいの。そこに理由なんてないよ」

そう言いながら一歩ずつ近づいてくる小金井。それとは逆に俺は少しずつ後ずさりをして奴との距離を保とうとする。
そんな俺を見て、目の前の男はおかしそうに笑った。

「あはっ、怯えてんの?どうして?そんなに俺怖いかな?これでもかなり優しくしてるつもりなんだけど」
「こっち、来るなよ!も、やめてくれ…」

その場にしゃがみ込み、両腕で自分を庇うようにして顔を伏せる。

そんな俺を黙ったままで見下ろしているであろう小金井。
しばしの静寂のあと、再び奴が口を開いた。

「別にひどいことするつもりはないけど?俺、どっちかというと本命は身体より心が欲しいタイプだからさ。…山崎って今まで俺のこと「クラスメイトの一人」くらいの認識しかなかったでしょ。どうしたら俺のことを「俺」として見てくれるか、ずっと考えてたんだよね」
「…」
「こうすることしか思いつかなかった。山崎の心にひっかかるのってきっとこれだなって思って。だから、ごめんね?」

確かに、俺はこの数ヶ月間ずっとお前に負けたくないって、ただそれだけを思って過ごしてきたけれど。
けど、だからって…。

「…試験のことは、悔しいけどこれが実力なんだからいいんだ。それよりもお前の思考が怖いよ。そんなことで、俺がお前を好きになるはずないだろう?」
「…」

返事がない。
伏せていた顔をほんの少し上げて様子を伺うと、俺と同じようにしゃがみ込んでこちらを見ている小金井と視線が合った。

「山崎が言う好きって何?友達同士のそれ?俺はそんなのいらない。俺が欲しいのはその他大勢と同じものじゃなくて、山崎の特別が欲しい。そうでなきゃ満たされないの。意味、分かる?」
「っわかんねーよ!好きなら相手にも好きになって欲しいと思うのが普通だろ。お前のその感情って一体なんなの」
「何って…」

そこで一度言葉が切られる。

ずっと視線は合ったまま。

先程まで恐ろしいと感じていた男の目は、今はひどく儚く、そして吸い込まれそうなほどに澄んでいた。

「だから、これが恋でしょう?」
「…っ」

きっと俺達は永遠に分かりあえない。
だってこんなの、恋じゃない。


end.

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!