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ライオンと俺(いかつい後輩×可哀想な先輩)
ガタン、タタン。

「……」

ガタンガタン。

「………」

俺は、
俺は今痴漢にあっているかもしれない…!

先程から俺のケツに誰かの手のひらが当たっている…というか上下にスライドしている。
うん、間違いない。痴漢だな。
…痴漢だわ。

おっぞましい。
今すぐこの変態の手を捻りあげて怒鳴り散らしてやりたい。

だが、混み合った車内で声を出すのに若干躊躇する自分がいた。
…けど言わなきゃ絶対止めねーよな、この痴漢野郎。

「っぉ…、」
「おいおっさん、何してんの?」

俺が声を出す前に誰かが俺のケツを撫でまわしていた手を掴んで離した。

タイミングが良いのか悪いのかちょうど電車のドアが開いたため痴漢野郎はそそくさと逃げていき、あっという間に見えなくなってしまった。

学校の最寄り駅だったため自分も同じホームに降りる。
振り返ると、俺を助けてくれたらしい人間も一緒だった。そいつはやたらでかくて、強面だがかなりのイケメンだ。髪を金茶に染め、耳にはピアスがジャラジャラついている。そして最悪なことにこの男、着崩しているが俺と同じ学校の制服を着ていた。しかもネクタイの色からして後輩。
…うーん非常に気まずい。

「…えーと、」
「アレ、捕まえなくて良かったの?」

俺の言葉を遮ってイケメン後輩が聞いてくる。

まあ、今更追いかけてもだし。
おっさんに痴漢されたなんて、もし学校中に知れ渡ったらもう生きていけねぇ。

「…あぁ、いいよ」
「あんたさ、なんなの」

はい?

俺の返答の何が気に入らなかったのかわからないが、目の前の男は大層ご立腹だ。

「なにが?」
「なにがじゃないでしょ。なんで痴漢されてんのに黙ってたの。しかも相手おっさんだよ。俺が声かけなきゃそのまま触らせてた訳?気持ち悪くないの?」
「は?いや、ちが…」
「それともアレ?あんた電車の中で触られたい性癖の人だった?」

違う!
俺が声出す寸前でお前が来たんだよ!

そう言い返そうとしたらまたもや遮られてこの言い様。

「まじ変態じゃん。最悪」

そう吐き捨てると、奴は踵を返して行ってしまった。
おい、そっち学校と逆方向だけど!?

つーかさ、なんで俺は一方的に変態認定され蔑まれ罵倒されなければならんのだ。


「最悪なのは向こうの思考回路の方じゃね!?」

ダン!
学校に着いても怒りが収まらず、机を叩いて目の前の友人に抗議する。

「えー、知らないけどー、とりあえず物に当たるのやめてくれる?うるさいから」
「…あいつ何様なんだよ?くっそぉ」
「多分それ一年の君嶋じゃね。結構有名人だよ。超モテるけど気難しい奴だから学校の女と付き合ってるのとか見たことも聞いたことないっていうね。ザ・一匹狼ってかんじー。宮城は聞いたことないの?」
「さあ、知らねぇわ」
「キミ、ほんと他人に興味ないよねー」
「ほっとけ」

ふと窓に目を向けると、もうすぐ二時間目の授業が始まるというのに堂々と校門から入ってくる(暫定)君嶋が見えた。

「おい和田!あいつだよ、あいつ!」

俺が窓に駆け寄って指差すと、和田が『どれどれー』と言いながらこちらにやって来る。

「…おー、君嶋氏確定ですねぇ」

やっぱりそうか!

「あ…」
「およ、」

二人で窓から君嶋を観察していると、生活指導の川本(体育教師・ガチムチ)が奴に向かっていくのが目に入る。
腕を掴もうとした川本を君嶋がうざそうに振り払い、そのまま校舎に入ろうとしている。
すると、どこから現れたのかガタイの良い教師たちが続々と君嶋目掛けて突進していき…、なんかもみくちゃになってますけど。

「なにあれ、乱闘?」
「…あいつ本格的にやばくね」

数人の教師に押さえられ連行される姿に唖然とした。


…やっぱりあいつは普通じゃない。

もう関わることもないだろうな、とは思いつつも、先程の礼を言えずじまいだったことが気になっていた。
けどあんな剣幕で捲し立てられて、勝手に怒っていなくなって、タイミングなんてなかったし。

わざわざ奴の教室探してまで行くのもな…。なんか嫌われてるっぽいし、…とりあえずこの件は保留で。

そんな風に考えていたら教師が教室に入ってきたので意識はそちらへとシフトされていき、昼休みには君嶋のことなどキレイさっぱり忘れているのであった。


「ねぇ」
「ん?おわっ!」

放課後になり帰宅しようと校門まで来たところで呼び止められる。

声がした方に目をやると、そこにはヤンキー座りの君嶋がいた。

「君嶋!?」
「…俺のこと知ってんの」
「あ、まあ…」

知ったのはつい数時間ほど前ですが。

「なんか朝センセー方に取り押さえられてるのを見かけたけど…」
「ちっ、見てたのかよ。くそだせぇー」

そう言うと君嶋は自分の髪をぐしゃっと掻き回した。
金茶の髪が立ち上がってライオンみたいになっている。
良くわからんがあの現場を見られたのが恥ずかしいらしい。耳が少し赤くなっているし。

てかあんなに派手にやりちらかして、誰にも見られてないと思ってることに驚くけどな。

黙って君嶋の様子を伺っていると、奴がちらりとこちらに目を向けた。と思ったら、すぐに逸らされる。
…なんなんだ。

「…朝、言い過ぎたと思って」
「え!?」

えぇー!?
まさかコイツからそんな言葉が出てくるとは!もしやそれ言うためにここで待ってたとか?…なんてそんな訳ねーか。

「や、こっちこそ礼も言わず悪かった。ありがとな」
「ん」

俺が礼を言うと、君嶋の耳が更に赤くなっていく。
なんだこいつ、意外にシャイボーイ?
可愛いとこあるじゃん。

「…照れてんの?」
「はっ?うるせーよほっとけ」
「…はぁ」

前言撤回。やっぱムカつく。
もういーや。礼もしたし帰るか。

「じゃ」
「は!?ちょ、待てよ!」

その場を去ろうとしたらどっかのアイドルみたいな台詞とともに腕を掴まれる。
コイツ、立ちあがると威圧感が半端ないな。
座っていたから忘れてたけど、やっぱでけー!こえーわ!

「な、なに?」
「一目惚れ、したんだよ!」
「…………はぇ?」

今、コイツなんて言った?
きょとんな俺は間抜けな声を出してしまった。

「だから!今日、電車であんたを見て一目惚れしたんだよ!どうやって声かけようかって悩んでたら、なんか変なおっさんに触られてて!あんたが悪いわけじゃないって分かってんの勝手にキレて悪かったと、思って…」
「ちょ、うん、わかった!わかったからさ、ちょっと落ち着こうか。ここ学校だからね。公共の場だから!」

先ほどから下校途中の生徒たちがこちらを面白そうに見ているのを俺は完全に自覚しているので、必死に君嶋の暴走を抑えようとするのだが、全く聞く耳をもたないこの男はなんか知らんがまだ熱く語っている。

「もう、あんな目に合わないように俺が守るし!だから、…俺とつき合ってくれ!」
「いやいやいや、それはないでしょ…」

なにこれ。
なんで男にコクられてんの俺!?
今すぐここから逃げ出したいけどなんかおもっきし両肩掴まれてるし。
しかもどんどん野次馬が集まってきて、この状況に拍手とか起きてるし。
おめでとー、とか君嶋君の初恋が実ってよかったとか訳わかんない声も聞こえてくる。
意味わかんねー。なんなんだこれは。なぜに祝福ムード!?
誰か、誰か助けてくれぇ〜!!


その後、この一匹狼の見た目ライオン男に懐かれた俺は、コイツと学校公認のカップルに認定され末長く彼女も作れない悲しい高校生活を送ることになるのであった。


end.

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