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春待ち(元同級生)

高校に入学して卒業までの三年間、自分が想いをよせていたのは、ただ一人。
クラスメートであり親友とも言える相手。そして、同性の男だった。
いつも一緒にいたけれど、相手が自分と同じように想ってくれるなんて期待したことは一度もない。
ただせめて友人の中では自分を一番だと思ってくれたなら。
そんな気持ちで三年を過ごした。

高校を卒業しもうすぐ二年が経つ。
俺は東京の大学に、アイツは地元の大学に進学することになり、卒業以降一度も会っていない。
長期休暇に入るたび、向こうからは会おうとメールをくれていたのだが、いつも適当な理由をつけて断っていた。

今でもまだ好きだから。会ったら想いが溢れてしまいそうで、顔を合わせることが出来なかった。

地元に帰ればどこかでばったり会ってしまうことがあるかもしれない。
そんな想いからほとんど実家に帰ることもしなかった。

けれどそんな俺に痺れを切らした母からの電話で、成人式くらいはこちらに帰って来いと言われ、しぶしぶ帰省することとなった。地元の駅へと降り立つのは約二年ぶりだ。

田舎の駅のため、夜になると車掌がいなくなり、乗降者がいなければ駅はほぼ無人の状態になる。
まばらに駅から散っていく人たちを眺め、昔と変わらない風景になんとなく安堵を覚えた。

「渋谷!?」
「…っ!」

改札を抜けたところで声をかけられて、心臓が大きく跳ねる。

(だから、だからこんな小さい街は嫌なんだ…)

懐かしいこの声を、一度だって忘れたことなどない。

「大倉…」

ゆっくり振り向くと、そこにはずっと会いたくて、でも会うのが怖くて仕方がなかった想い人が立っていた。


「久しぶりだな。元気だった?」
「ああ。大倉は、変わりない?」
「おー、地元組としょっちゅう遊んでる。ハタチになってからは飲みの機会も増えたぜー」
「そうか」

駅の待合室の椅子に座り、互いの近況報告をする。
大倉は少しだけ髪の色が明るくなって、少しだけ大人びた顔をしていたけれど、笑顔はあの頃と変わらない。

緊張を紛らそうと煙草を口に運んだ時点で、駅って禁煙だっけ…?と思い直し指に挟んだまま弄ぶ。
そんな俺をまじまじと観察する大倉の視線を感じたが、そちらに顔を向けることができない俺は、ひたすら煙草の先を見つめてやり過ごそうとしていた。

「…なんか渋谷は格好よくなったな!やっぱ東京行くと皆変わるのかねー」
「んなことねーよ」
「そうかー?…うーん、あーっと、お前今彼女いんの?」
「…いないよ」
「あ、そうなん?…ふーん、あそう…。えと、じゃあさ、大学は楽しい?バイトは?友達沢山できた?」
「友達って何だよそれ、小学生じゃないんだからさ…。大学は、まあまあ。バイトは単発のやったりとかしてる」

矢継ぎ早の質問に思わず笑ってしまった。

そんな俺を見て、最初は一緒になって笑っていた大倉の顔が、徐々に曇っていくの分かり思わず凝視する。
そのまま顔を伏せて膝を抱えている大倉は、椅子の上で体育座り状態だ。

「え、何。どうした?」
「…どうしたじゃねーよ。それはこっちの台詞だよ!彼女いなくて大学生活も忙しくなさそうなのに、なんでこっちにちっとも顔ださねーの!?」

突然のことに焦って声をかけた俺に、顔を上げて答える大倉の目には涙がたまっていて今にもこぼれ落ちそうになっていた。

「大倉…」
「俺、お前に嫌われるようなこと、なんかした?」
「…っ、そんなんしてねーよ」
「じゃあ今の状況ってなんなの。メールしても素っ気ないし、会う気ないのもバレバレだっつーの。今だってさ!俺と全然視線合わせようとしないじゃん。…俺は、ずっとお前に会いたくて仕方なかったよ。卒業してからお前のこと忘れたことなんか一度もない!…でも、渋谷は違ってた?お前は俺のことなんて気にもしてなかった?」
「違う。そんなことあるわけない」
「本当、意味わかんねーよお前」
「…ごめん」

目を真っ赤にして泣いている大倉の冷えた手を握りしめると、真っ直ぐな目が俺を見つめ返した。もう一度ごめんと謝る。今度はしっかりと視線を合わせた。

嫌われたくなくて、傷つきたくなくてした自分の行動で好きな人を傷つけた。
そして今、これまでのことを懺悔し本当の気持ちを告白したら、俺を友人だと信じている大倉を裏切ることになるのだろうか。

どちらにしても失望されてしまうなら、本当の気持ちを伝えるべきなのかもしれない。
ここで逃げずに向き合わなければ、もう前には進めない、そう自分に言い聞かせて、俺は口を開いた。

「お前のこと、ずっと好きだった。友人としてじゃない、恋愛感情でお前のことを見てた。嫌われたくなくて気持ち隠してたけど、高校卒業してからもそれは変わらなくて、ずっと今まで苦しかった。大倉は俺のこと親友だと思ってくれてるのに、そういう気持ちを裏切ってごめん」

緊張で大倉の手を握る指が震えた。
とうとう、言ってしまった。

大倉は今どんな気持ちで俺の話を聞いていたんだろう。
どんな顔をして俺を見ている?

そっと視線を上げてみると、大倉は穏やかな顔で微笑んでいた。

「俺、知ってたよ?」

…………は?

「…なんだって?」
「だからー、渋谷は俺のこと好きなんだろうなーって気づいてたけど」
「っ、なんで!!」

驚きを隠せず思わず立ち上がって声を上げた俺を、まあまあ、と大倉が俺の肩を叩いて再び座らされた。

「だってお前モテるのに全然彼女作らないし、いつも俺と一緒にいたし、普段はクールで無愛想なのに俺にはデレ甘だったじゃん?」
「…っ」

改めて指摘されると死ぬほど恥ずかしい。
両手で自分の顔を覆い項垂れる。
まさか、まさか気づかれていたなんて。

「…なんで?そういうの、気持ち悪くないの?」
「気持ち悪いと思ってる奴に何度もしつこくメールなんてしないって。…てかさ、俺もかなりお前のこと、好きだけど?」
「嘘だ」
「や、まじだから」

信じられない。
そんな夢みたいなこと、あっていいのだろうか。
こっそりと隣にいる相手の顔を伺う。
変わらずに微笑んでいる大倉がいた。

本当に?
信じていいの?

「…じゃあ俺って、今日まで無駄なことしてたってこと?」
「まあ、そうだな」
「てかなんで言ってくんないの」
「ばか、言えるかよ。俺だって不安だったし!お前は東京で普通に女の子と付き合ってんじゃねーかとか、高校の時のあれはやっぱり気の迷いだったんかなーとか思って、怖くて聞けなかった」

そう言って眉を下げて笑う大倉。
俺はもう一度大倉の手を握った。

「俺と、…付き合ってくれんの」
「おー、無駄にした二年分、大事にしろ。俺もするし」
「うん、毎週こっちに戻るから。や、休講の時も戻る。電話も毎日するし」
「はは、そこまでしなくていーから!俺もそっち遊びに行っていい?お前がどんな生活してんのか見てみたい」
「待ってる」
「うん」

こんなにしっかり大倉と見つめあうなんて、恋を自覚してから一度だってあっただろうか。
幸せを噛み締めながら大倉を抱き締める。

「はは、駅で何やってんだかな」
「人いないし大丈夫。今はこうしてたい」
「…うん」

そろりと俺の背中に回る相手の手のひらを感じながら、目を閉じる。

今日、大倉に会えなかったらこんな奇跡は起きなかった。

二年も待っててくれてありがとう。
これからは大事にするから。


end.

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あきゅろす。
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