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俺のお姫様(天然王子×幼馴染み)

男ばかり三兄弟の末っ子に生まれた。
女の子が欲しかった母は俺が男だとわかった時点でどこかネジがふっとんだそうで、生まれてきた俺を娘のように可愛く着飾ることで男ばかりのむさ苦しい生活への不満を晴らすことにしたらしい。
運が良かったのか悪かったのか、色白で可愛らしい顔立ちだった俺はリボンやレースになんの違和感もなく、周りも俺を女の子のように扱った。

しかし年を重ねるにつれて徐々に男らしくなっていく俺に、母はようやく諦めがついたのか小学校高学年になる頃には女の子用の服を買ってくることはなくなった。

そして現在。
16歳になった俺の身長はもう少しで180に届きそうなほどにょきにょきと伸びに伸びた。上の兄二人よりもでかくなり、『あの頃の海は可愛かった…!』と日々嘆かれている。
どうやらあれだけ可愛い可愛いと言われた顔は、周囲の人いわく『凛々しい王子様顔』へと変化したらしい。
最近女の子から異様にモテるようになったのはきっとそのせいだと思う。

自分の性別があやふやな時代を経たせいか今まで誰とも付き合う機会がなかったが、そろそろ恋人と呼べる人がいたらいいなあとは思う。
できたら可愛いお姫様みたいなコがいい。

こんな夢みたいなこと言っているようじゃしばらくは無理だろうか。
まあそこは自然体でいきたい。

ピンポーン

リビングでぼんやりテレビを見ながら未来の恋人について思いを馳せていると、インターホンが鳴った。

誰だろう、宅配便かな。

あいにく家族は皆不在なので急いで玄関に向かう。

「はい?」

ドアを開けてみると、自分と同じくらいの年の少年が立っていた。それも直立不動の姿勢をとっていてかなり緊張した面持ちだ。
クラスメートではないし、見覚えのない顔だと思う。

「…えっと、どちら様ですか?」
「あの俺!幼稚園までこの近所に住んでいた横山孝太と言いますっ!…あの、」

横山孝太…?

「え、まさかコウくん…?」

コウくんは同じ幼稚園に通っていた幼馴染みで、当時は一番仲の良い友だちだったが、小学校に上がる前にコウくんの親が転勤で引っ越してしまい今に至る。
昔のアルバムには必ずと言っていいほど俺とコウくんが仲良く寄り添う写真があった。目の前の彼をまじまじと見つめてみると、確かにあの頃の面影が残っている。まさかあのコウくんがまた会いに来てくれたなんて!

「本当にコウくんなの!?10年ぶりだから誰だか分からなかったよ!元気にしてた?今はどこに住んでるの?」
「あ、また転勤でこっちに戻ってきたので、それで挨拶に来たんです。…ところで、う、海さんは今日いますか!?」
「…え?」
「…あの、海さんは…」
「…」

…あぁ。これは…、嫌な予感。


「……海は俺、だけど…」
「…え?」
「…コウくんの幼馴染みの海は、俺なんだけど」
「はいっ?」

目をまんまるにして聞き返すコウくん。
やっぱり、そうなるかぁ…。


…30分後…

「落ち着いた?」
「…ちょっとまだムリ」
「どうぞごゆっくり…」

とりあえずリビングに通し事情を説明したが、コウくんは予想通り、完全に俺を女の子だと思っていた。
出迎えた俺を『海の兄』だと思い込んでいたコウくんは、俺がからかっていると思ったのかなかなか事実を受け入れてくれなかったけれど、小・中の卒アルを見せたらようやく観念したらしい。
今はソファで項垂れている。

コウくんのそばにコーヒーを置き、向かいのソファに腰を下ろす。

10年ぶりのコウくんは今時の男の子になっていた。目鼻立ちが整っていて、身長は俺ほど伸びてはいなかったけれど運動をしているのか引き締まった身体をしている。女の子にモテそうだなあと思った。

コウくんは偶然にも俺と同じ高校に編入が決まっているらしく、それを聞いて俺はすごく嬉しかったけど、彼は今それどころじゃなさそうだ。

静かに目の前にいる幼馴染みを観察していると、しばらくしてようやく顔を上げたコウくんがこちらを見た。

「…俺、海ちゃんが初恋だったんだ」

ぽつりとつぶやくコウくん。
…あー、遠い目をしちゃってるな。

「俺、今まで女の子と付き合ったりもしたけど、なんか上手くいかなくて。今回引っ越しでこっちに戻ることになってやっぱり海ちゃんが運命の人なんだって思ってたのに…!俺のお姫様が、知らぬ間にイケメン王子になってるとか…なんで!?意味わかんねぇよー!!」

うわああーっと泣き崩れるコウくん。
不憫だ…。
しかし俺のこの姿と性別はどうすることもできないしなぁ。

「あの、なんかごめんね?」

とりあえず嗚咽するコウくんに謝ってみたけれど、涙目のコウくんに思い切り睨まれてしまった。こわい。

「海ちゃんだってさ!俺が引っ越す前に結婚しようねって言ったら、『うん』って返事したよな!?約束したのに…なんであの時男だって言ってくれなかったんだよ!?」
「えぇー、だって幼稚園児だよ?結婚の制度をちゃんと理解できてなかったんだもん…。それにあの頃ってコウくん以外にも色んなコからプロポーズされてたから普通のことだと…」
「……!!」

あ、ますますへこんでしまった。
どうしよう。

「…ううーん、あの、じゃあさ、コウくん俺と今から結婚を前提に付き合う?」
「はあ!?」
「俺、付き合ってる人いないし。本当はお姫様みたいな女の子と付き合うのが夢だったけど、コウくんなら大丈夫だと思う!」
「いやいやいや、何が大丈夫なんだよ!違うから!俺が言いたいのはそういうことじゃない!」
「じゃあどうしたらいいの?俺が女の子の格好でもすれば満足してくれる?」
「ちがっ…」
「もうお姫様の海はいないんだし、この際王子様で我慢してくれないかなぁ。駄目?」
「…自分で王子とか言ってるし。や、まあ実際王子みたいだけども…。ていうか!海ちゃんは男の俺から見ても格好いいとは思うけど、でも俺は王子と付き合いたい訳じゃないし!」

顔を赤くしてオロオロするコウくん。
あれ。なんか、

「コウくんって可愛いね…」
「は!?どこが!?何を見てそう思ったの?頭大丈夫?」
「(無視)ねぇ、コウくん。俺、今まで誰とも付き合ったことなかったんだけど、これってやっぱりコウくんが運命の人だからじゃないかと思うんだよね」
「はあ!?」

あ、すごい顔されちゃった。
まあそうだよね、俺も今急に思ったんだもん。
でもそう考えると色々納得いくことがあるし、解決もできるじゃない。

「さっきさ、俺コウくん以外にもプロポーズされたって言ったけど、でもきちんとOKしたのはコウくんだけだったんだよ」
「…幼稚園児の戯言だし…俺が言うなって感じだけど。それに結婚の意味分かってなかったんだろ」
「分からなかったのは、性別の問題についてだよ。ずっと一緒にいたいって気持ちはきちんと理解できていたよ?でね、それって俺の中ですごく大きなことだったんだ。ずっと忘れていたと思ってたけど、心の奥にはコウくんていう大事な人が存在してたから、無意識のうちに誰とも付き合おうとしなかったんだ。うん、絶対にそうだよ」
「ちょ、な、なに言って…!」

俺の発言にコウくんがぼわっと音がしそうなほど顔を赤くして、口をパクパクさせている。
俺はソファから立ち上がり、向かいに座っていたコウくんの横に座り直した。
それに反応したコウくんがびくりと肩を揺らして、恐る恐る俺を見た。
そんな不安げな顔させてしまって申し訳ないけど、俺、本気だよ。

「ねぇ、本当に駄目なのかな。10年も音信不通だったのに、こんなの突然すぎる?俺のことなんて信用できない?」
「や、俺だって同じだし!…でも俺も海ちゃんも、男同士じゃん。普通にムリだろ」
「俺は無理じゃないけど」
「海ちゃんて男が好きなの!?」
「ううん。コウくんが好きなだけだよ」
「……!お、俺だってさ…ずっと海ちゃんのこと…。…ん?いやいや、違う、違うだろ!うわやべぇ、なんか俺ちょっと流されてねぇ!?」

ヤバイヤバイと頭を抱えるコウくんを俺は黙って見つめる。
なにがやばいの?

「コウくん、王子の俺は嫌い?」
「…海ちゃんのこと嫌いになるわけないし」
「なら!別に問題なくない?」
「いや、あるから…」
「海外なら結婚できるよ?」
「…(全然話になんねぇな!)。俺まだ王子の海ちゃんを受け入れきれてないし!それに男と付き合うとか今まで考えたこともないから!」
「まだ、でしょ。そのうち慣れるよきっと。大丈夫、大丈夫。小さい頃の直感を信じよう!ね?」
「…なんで、そんな前向きになれんの」

がっくりと肩を落とすコウくん。
もういい加減、覚悟を決めて欲しいな。

俺は隣にいるコウくんの肩に自分の手を置き、ゆっくりと顔を寄せてみた。
コウくんがいつでも逃げられるようにと、ゆっくり。

けれど彼は目を見開いたまま固まっている。
しばらく見つめ合ったままでいたが、コウくんからは何のアクションもない。

あれ、いいのかな?

身動ぎしないコウくんの頬にそっと自分の唇を触れさせて、すぐに離れる。


「これ、誓いのキスだよ?」
「…う、みちゃん、(天然タラシすぎて)まじヤバイ、から」

そんな真っ赤な顔をして抗議されてもなあ。嫌じゃなかったって、顔に書いてあるよ?
まだ文句を言いたそうなコウくんを無視してぎゅっと抱き締めた。
きっともう彼は逃げない、そう確信をもって。


お姫様になれなくてごめんね。
でも大好きだよ。


end.

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