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清く正しく(生徒会長×風紀委員長)

「篠原委員長!おはようございます!」
「あぁ、おはよう」


「朝からお見かけできて幸せすぎるーっ」
「やばい、イケメンすぎて直視できない…」

「…」

(ふっ、当然だろ!なんて言ったってこの俺だからなっ)

周りから聞こえてくる称賛の声をBGMに颯爽と廊下を歩く俺様の名は篠原透。この学園の風紀委員長だ。
恵まれた容姿と頭脳、身体能力をフルに生かしてここまで登り詰めた、自他共に認める学園の重鎮だ。
誰もが俺を崇め、そして俺も皆の期待に応えるべく仕事に精進し、充実した日々を過ごしている、わけなのだが。

清々しい朝の空気が一変し、なにやら背後から不穏なオーラを感じとった俺は、無意識のうちに歩を早めていた。

(む、いかん、嫌な予感が…)


「何をドヤ顔してるんだ、お前は」
「でっ!!」

ズビシと頭にチョップを食らい涙目で振り向くとそこには

「澤村ぁ!」

宿敵である生徒会長の澤村が不遜な態度で立っていた。
容姿端麗、スポーツ万能で頭も良い、学園のカリスマ。
この俺に対し無下な態度をとることのできる唯一の人間だ。
あぁ、気に入らない。犬猿の仲とは正にこのことを指す。

そんな奴に呆れたような顔で見下ろされ(こいつに負けてるのは身長だけだ!)、不愉快極まりない。

「この野蛮人が!俺はドヤ顔などしていないっ」
「や、してたし」
「し、て、い、な、いっ!しかも貴様、風紀委員に手をあげるとは全く良い度胸だな!生徒会長だからと言ってなんでも許されると思ったら大間違いだぞ!」
「は、こんなの挨拶代わりのじゃれあいだろう?そんなに痛かったのか?天下の風紀委員長様は相当軟弱でいらっしゃる」
「……(イライライラ)」

口の端を軽く上げてにやりと笑う姿も様になる、全く憎たらしいこの男はなにかにつけて俺に難癖をつけてくる。
周囲には自信に満ちた笑顔を浮かべ頼れるリーダーとして立ち振る舞うくせに、俺にはいつもふてぶてしく嫌味な態度をとるのだ。
腹が立って仕方ない。

「なぜお前はいちいち俺につっかかってくる!そんなに俺が目障りならわざわざ声をかけてこなければいいだろう!」
「あ?」
「失礼するっ」

奴に言い返される前に踵を返す。

「おい待て」
「…」

スタスタスタスタスタスタ

「こら無視すんな」

立ち止まらず振り向かずで歩き去るつもりが結局澤村に腕をぐいと掴まれる。

「っだから!俺が全速力で歩いているのに簡単に追いつくなよ!」
「それはコンパスの差じゃねーの」
「………」

くそ、殴りたい!!


「篠原。お前さ、頭は良いかもしれないが、かなりバカだな」
「っはぁあぁぁー!?」

開いた口が塞がらない。

ふざけるな、俺がバカだとしたら世界中の殆どの人間はバカに分類されるぞ!
そもそも何をもってしてこの俺をバカだと思ったのだこいつは!
理解できない、全く理解できない!
よし、抗議しよう。こちらは徹底抗戦の構えだ!!

「っ、」
「まて、」

言い返してやろうと思いきり息を吸い込んだ俺を澤村が片手で制す。

「…あー、お前が何を考えてるかなんとなくわかるから。言わなくていい」
「は、知ったふうな口を聞くな!お前に俺の何がわかる!」
「まあ…確かに理解しがたい点が多すぎるな、うん、わかんねー。俺が言いたいのはさ、お前はこの俺がただ気に入らない奴をいたぶるためだけに毎日毎日無闇に構ってくると、そう思っているだろ。そこが浅はかだと言っているんだ。こ、の、俺が!そんな低俗なことをするわけないだろうが」
「だ、だったら他にどんな理由が…」
「それは自分で考えろ」
「…」

偉そうに!
不満を顔中に張り付けたまま睨んでいると、目の前にいる憎たらしい男はふっと息を漏らすようにして笑った。

「ふん、鈍い奴だな。ほんと…お前といると飽きないわ」
「…にぶっ!?おい、どういう意味だ。」
「そのままの意味だが?」

そう言うと、澤村は目尻を少し下げて微笑んだ。

わけがわからない。
なんで、そんな目で俺を見るんだ。
周囲の人間に見せるいつもの笑顔とは明らかに違う柔らかな笑み。

いつも、いつも澤村を見ていたのにこんな顔は初めてで、なんだか落ち着かない。

学園内では遠巻きに騒がれる存在だった俺に声をかけてくるのは澤村だけで。
だから最初はただ嬉しくて、けれどそれが他とは違う扱いだと気付いた時、自分は嫌われているのだと思った。
…思っていた。

「…あー、なんだ?…その、察するに、お前は、あれか。俺のことを憎からず思っていると…そのように解釈して良いのか?」
「なんだその遠回しな言い方は」
「好きなのか!俺が!」
「…ぶはっ」
「おい、なぜ笑う!?やはりからかっていたのか?」
「いや、いきなり直球すぎだし。驚くだろ…、まあそうだな、間違ってはいない」

「そうか…」


なんだ、そうか。
俺は嫌われていたわけではなかったのか。

ずっと心にひっかかっていたわだかまりが解消され、なんだか気分が高揚しているようだ。俺は満面の笑みを浮かべて目の前の男を見上げた。

「じゃあ、今日から俺達は親友だな」
「…は?」
「だってそうだろう!俺もお前の事は嫌っていたわけではないし、ちょっとした行き違いで今まではいがみ合っていたが、それはもう誤解も解けたことだし。これからは仲良くしていこうと思っているんだが?」
「…なるほどね、そうきたか」
「なんだ、なにか間違ってたか」
「いや、まあ…、うん。いーわそれで」
「だろう?では、そろそろ教室に行くか」


後ろの方で、はあーと長いため息を吐き出す澤村に気づかず、俺は気分よく教室へと向かう。

そしてそんな俺達の様子を生ぬるい目で他の生徒達が見守っていたことも、もちろん知らない。


「生徒会長、不憫すぎじゃない?」
「気付いてないの委員長だけだもんな…。」

end.

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