[携帯モード] [URL送信]
甘いのは飴のせい?(不器用後輩×チャラ先輩)


「…」
「あら、どぅもー。」

最近お気に入りのサボり場が屋上となっている俺は、かなりの確率でエンカウントする目の前の男ににこやかに声をかける。
相手は先を越されたのが悔しかったのか、もともと無愛想だからなのか(多分後者)少しふてくされたような声で「…っす」と返事をした。


学校の屋上は普段施錠されているが、うちの校舎はボロく鍵も昔ながらのもので、ちょっと小細工すれば簡単に開けられてしまうことを発見した俺は、それからここに足繁く通っているわけである。
それは彼も同様らしく、ちょっとした顔見知りの間柄となった。

上履きの色から判断して、多分後輩。
でも俺より背が高い。そして切れ長の目にすっと通った鼻筋が大人っぽい印象を与える正統派な男前だ。
対して俺は茶髪タレ目ユル目の典型的なチャラ男君である。
名前は名乗っていないので互いに知らない。
そして多分、後輩君は俺のことが苦手だ。
なんかいつも目そらされるし。話盛り上がらないし。

そんな後輩君は俺と少し距離をあけた壁際に座り込み、ぼんやりと空を見上げていた。

「キミ、サボってばかりで大丈夫なの?進級できなくなっちゃうよー?」
「…あんたに言われたくないっす。」

あはは、言いますねー。

「俺はちゃんと日数計算してるもんねー。」
「俺だってそうです。」
「そ。なら良いんだけどぉ。」
「…。」

ほらね、すぐに会話が途切れちゃう。

手持ち無沙汰な俺はポケットから煙草を取り出し、火をつける。
きっと後輩君はチクったりしないだろう。全く根拠のない勝手な判断ではあるが。

「なんで、煙草吸うの?」
「え、」


突然の問いかけ、しかもかなり近い位置からの声に驚いて顔を向ける。
いつの間にこんな距離を詰められていたんだろう。キミ忍者?
それにいつも俺から話しかけないかぎり声をかけてくることがなかったから、少し意外でもあった。

「なんでって?んー、なんでだろー。コモノのくせに粋がってみせてる系?なんちゃってー。」

はは、と笑ってみせるが後輩君は俺の答えに不満げな顔をしていた。
なによ、別にいーじゃんか。きょうび煙草買うのも一苦労なんだからね。大切に大切に吸いたいじゃん!青空の下でなんて、めっちゃ素敵なロケーションじゃーん。

「煙草は…」
「ぅん?」
「煙草は身体に百害あって一理なし、と言うじゃないすか。」
「…」

ポロリと口から煙草が落ちそうになるのを慌てて拾う。あっぶねっ。
てかなに、なにこの子…。

「かわぃっ…」

思わず漏れてしまった俺の言葉に後輩君は顔を真っ赤にした。

「な、んだよ!だって本当にそうじゃん。」
「あはっ、なになにー、キミ俺の身体の心配とかしてくれんのぉ?超やさすぃー。超感動なんだけど〜。」
「はあ?全然ちがうしっ!俺は副流煙について文句を…っ!」

なんかすごい必死になってるし。
可愛いなぁ。大人っぽく見えても年相応なんじゃん。
なんかいいもん発見した気分だ。

「そうねー、煙草止めたくてもボク意思薄弱だからなあ。すぐには無理かもなー。」
「…だからチビなんじゃね…。」

ぼそりと呟いていたが、聞こえてますよ。
わざとか。

「おぉいー、俺キミより先輩だからね!少しは敬いなさいよん。あと俺チビじゃないしぃ、170あるもーん!」
「180ある俺からしたら小さいけど。」
「……。」

くそ、やっぱ可愛くなーい。

「あ、」
「ん?」

後輩君が何か思い出したのか制服のポケットをごそごそしだし、俺に向かって腕を伸ばしてきた。

「これ。」
「…。」

ころりと手のひらに置かれた飴。
うん?俺にくれるの?

「えーと、ありがと?でもなに急に。」
「口寂しいから吸うんだろ、煙草。」
「……はー、なるほどなるほど!」

もらった飴の包みをピラピラさせてみる。
レモン味。
まあそうね、いただきましょうか。

吸っていた煙草を携帯灰皿に押し込み飴を口に放り込む。
爽やかな甘さが口の中に広がった。

コロコロと口内で飴を弄びながら、中途半端に終わらせた煙草に思いを馳せる。
…大事な煙草だったはずなのにねぇ?

「…飴もおいしいけどさー、ちょい色気なくなーい?」
「?色気ってなに。」
「だからぁ、口寂しいの代替えが飴っつーのがねぇ。」

含みを持たせてにやにやしながら後輩君を見つめると、意味がわからないといった様子で眉間にシワを寄せていた。
ちょっとー顔こわーい。

「じゃあ、何なら替わりになるんだよ。」
「そりゃあやっぱりちゅーでしょ、ちゅー。」
「…。」

また顔真っ赤にして怒るかなぁ、ぷぷ。てかちょっとからかうくらい良いでしょ。面白いしー。

しかし反応がない。
隣の後輩君の顔を見ようと顔を上げると、…うん?ちょっと。いや、かなり顔近くない?
あれれ?

「…」
「…」

あ。
時間が止まる。(俺のなかで)


「…ぇえっとぉー、冗談なんですけども。」
「はあっ!?」

唇が離れた瞬間に一応、抗議してみた。てかするー?普通するぅー??

「ふざけんな、する前に言え…。」
「えぇぇー、普通に考えて冗談だと思わないキミにびっくりなんだけどー。やだもー、レモン味のキスしちゃったじゃーん。こんなのはじめてぇ、みたいなー?」
「…」

へらへらしながらこっそり相手の様子を窺ってみる。
あ、やばい、いじりすぎた?
顔を通り越して首まで赤くなっている後輩を目の前にして、さてどうしようかなー、と次の行動に考えを巡らせていると、後輩君は無言で立ち上がり、猛ダッシュで屋上から出ていってしまった。

「…え、うっそーん。やり逃げぇ?」

てか思ってた以上に面白い奴ー。
未だに名前は知らないままだが。

「次に会った時、聞けばいっかぁ。」

どんな顔をしてここに来るのだろうか。
後輩君のばつの悪そうな顔を思い浮かべ、くすりと笑う。
俺はその場にゴロンと寝そべりゆっくりと目を閉じた。


後輩君は知らなかっただろうけど、初めて会った時から狙っていた。
いわゆる一目惚れってやつだ。

ゆっくり時間をかけて落とすつもりでいたんだけどね。

…だから絶対に逃がさないよ。
覚悟しとけ、後輩君?




end.


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!