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真綿の恋(片思い)


「俺さ、男が好きみたい」
「…」




放課後の教室で、俺は明日提出の課題をしていた。
レポートってやつが苦手な俺は頭を抱えながら書いては消し、書いては消しを繰り返す。

友人の狭川はそんな俺に付き合い、前の席で雑誌をぱらぱらとめくりながら時間をつぶしていた。(手伝いをしてくれないのは、俺を思ってのことなのか…。いや、多分違う)

さっきまでちらほらいたクラスメートも今はいなくなり、教室には俺と狭川の二人だけ。

ほんの数分前までは、腹が減ったとか明日の体育だりぃとか最近ハマってるテレビの話だとか、たわいもない会話をしていて。(だから課題も進まない…)
そんな中、突然すぎる友人のカミングアウトに俺はすぐに反応することができず、ただ口を開いたまま目の前の彼をしばし凝視した。



「…………えっと、そう、なんだ?」

たっぷりの間をおいてようやく出た俺の言葉。
そんな俺に対し、狭川は自嘲的な笑みを浮かべていた。

いつも真っすぐで快活な彼には似つかわしくない表情に驚き、思わず視線をずらしてしまう。


「やっぱ、引く?」
「ち、違っ…!」

違う、そうじゃない!!

「あの、びっくりしただけでっ、俺、全然…引いてないから」


狭川に再度顔を向け、必死に弁明した。


本当に驚いたんだ。
正直信じられないっていうか。

だって狭川は女の子にモテるし、彼女と一緒にいるところもよく見かけていて、どこからどう見ても『フツー』の恋愛をしているように見えたから…。


だから驚いたんだけど。

狭川に対して偏見なんてありえない。


なぜなら、俺も同類だから。


さらに言えば、俺はずっと前から狭川が好きだったから。



今まで、お前をそういう目で見てはいけないと何度も自分に言い聞かせて、気持ちを押し殺してきたんだ。


だから、
だから俺、

「良かったぁ〜!!俺、山戸のこと親友だって思ってるから。これからもずっと付き合っていきたいし、だからお前に嘘ついていたくなかったんだ」
「……あぁ、そっか。うん」


…俺にも望みがあるの?、とか。
一瞬でも期待してしまった自分が恥ずかしい。


(まぁ、そうだよなぁ)

狭川が俺のことをそういう意味で好きになるなんて都合のいい話、あるわけない。

やるせない思いで肩を落としている俺に気づいていないのか、狭川は嬉しそうに話を続ける。

「俺さぁ、今まで女の子とつき合ったりもしたけど、なんかしっくりこなくて。でもこんなこと誰にも相談できないしさ…。一人で抱え込んでるの、結構辛かったんだわ」
「…うん」

わかるよ。
俺も同じだし。
狭川に嫌われたくないから「友達」として狭川の隣にいることを選んだ。
それがこんなにも辛いことなんて思いもしなかった。


(…あ〜ぁ)

カミングアウトしてすっきりした様子の狭川に隠れて、ひっそりとため息をつく。

俺だって本当は嘘つきたくない。
だけど、好きだって告ったら、親友と言ってくれたお前の信頼を失うんじゃないかって、怖い。

それがきっかけで一緒にいられなくなるなんて、絶対、絶対にヤだし。


(ずりぃよ、狭川)


お前だけ全部ぶちまけて楽になるなよな…。


でも。
俺はこれからもお前に嘘をついたまま、ずっと親友としてお前の隣で笑っているから。
意地でも笑っていてやる。


その選択がどんなに脆く愚かであっても、それが俺達にとって一番穏やかで幸せな時間になるであろうことを俺は知っているから。



「何があったって、俺らはこれからもずっと変わらないよ」






END

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