ツンdeれ(モテ×ツン)
好き過ぎるとやたらと意識してしまい平常心でいられなくなる。
心にもないことをつい言ってしまったりとか。
高校生にもなって馬鹿かって思うけど、止めることができない。
あー、自己嫌悪。
「あれ?ノートねぇな…。やべぇ」
「…」
後ろの席の山口が鞄をごそごそ漁っているらしい気配を感じる。
どうやら英語のノートを忘れてきたらしい。
「…」
(ノート、貸そうか?)
ってその一言が言えず。
振り向くこともできず、背中に全意識が集中してはいるものの身動きできない俺。
「ねー浅井、英語のノート貸してくんない?今日当たるんだよね」
「!」
そんな俺の様子に気づいていない山口が、つんつんと俺の背中をつつきながら話しかけてきて、身体がびくりと跳ねる。
顔が赤くならないようにと意識をすると、つい眉間にしわが寄ってしまい…、きっとはたから見たら、めっちゃ機嫌悪そうな顔だと思われてるんじゃないだろうか。
「…やだよ。ノート忘れる自分が悪いんだろ。自分で始末つけろよな」
「なんだよ、けちー」
「うるさい。自業自得だ」
違う違う、こんなこと言いたいんじゃない。
なのに、勝手に口が動いてしまうんだ〜!!!
そしてこれ以上山口に見つめられたら顔が沸騰してしまうっ!!
俺はすぐに顔をそむけ、元の方向に向き直る。
こんな俺を山口はどう思っているんだろう。
気難しい、めんどくさい奴って思ってんのかな。てか思うよね、こんな態度取られたら。
俺はあれか、今はやりのツンデレってヤツなのか?
や、でもデレてねーし。ツンしかねーわ。うわ、なんか更に最悪じゃね。
なんて一人悶々としているうちに山口は別の奴からノートを借りて写しに入っていた。
そっと溜息をつく。
…こんなんさ、嫌われるだけじゃんか。
ほんと馬鹿みてぇ、俺。
その後も俺は浮上することができず、鬱々とした気分のまま放課後を迎えた。
帰宅部の俺は特に用もないのでさっさと教室を出ると、廊下で女子とダベっている山口が目に入った。
山口は立ってるだけで絵になるというか。
なーんかカッコいいんだよなぁ…。
あいつと普通に話せるようになりたい。
これ以上嫌われたくないし。どうしたら意識しなくなるんだろ…。
…あー、わっかんねー!俺のヘタレ!!
つーか急に変わるなんて無理だし…。
とりあえず山口と視線が合わないようにその場を通り過ぎようとした、のだが。
「あ、浅井帰るの?今から皆でカラオケ行くんだけど、浅井も一緒に行かない?」
「っ!?」
笑顔の山口に腕をつかまれ、フリーズすること2秒。
な、
なぜ俺を誘う…!?
そして明らかに周りの女子が『え、コイツ誘うの?』みたいな顔してませんかっ??
「…い、いーよ、俺は。皆と楽しんでくれば」
「浅井なんか用事あんの?」
「…や、」
うん、そういう問題ではなくて。
山口、空気読もうか。
てか、きらきらした顔で覗きこむなぁっ!!!眩しいわっ!
「用がないならいーじゃん。ね、行こ?」
「いいって!つかなんで俺がお前と一緒に遊ばなきゃなんねーんだよっ」
山口の手を振り払いつつ口をついて出た言葉に、周りの空気が止まった(気がした)。
(あ、やべ…)
また、やってしまった。
口元に手をやるがもう遅い。
血の気がざーっとひく音が聞こえたような気がした。
見れない。
怖くて山口の顔見れない。
「…わかったよ。じゃあね」
「…」
少しの間があって、ため息とともに漏れた低い声。
俺の前を通り過ぎる時、一瞬だけ視界に入った山口は、少し怒っているように見えた。(当たり前だよな)
おまけに一緒にいた女子たちにも睨まれてしまったし。
山口はいつも明るくて、周りに気を使ってくれて。俺みたいなひねくれた奴にも普通に声をかけてくれる。
それなのに俺の馬鹿な一言であの綺麗な笑顔を歪ませてしまったことに罪悪感を覚えずにはいられなかった。
山口につかまれた腕がアツイ。
そして皆が見えなくなるまでそこから動くこともできず、ただ足元を見つめるしか術がない俺。
…情けなすぎる。
「まじ、最悪だ…」
いいのかよ、このままで。
「だめだろ…」
うん。だめだ。
まず謝って、それで正直な気持ちを言おう。
同じ嫌われるなら、そっちの方がきっと後悔しない。
そうしなきゃ、いつまでも変われねぇだろ。
「…よし」
覚悟は決まった。
今こそ行動だぁーーーーー!!!
顔を上げ、俺は猛ダッシュで山口を追いかけた。
正面玄関を駆け抜けると、ちょうど校門を出る山口達が目に入る。
(早く…っ見えなくなる前に呼びとめろ!)
いけ!いくんだ俺ーーー!!!
「や、っまぐちー!!」
だぁっ、声が上ずった!くそう。
思わず赤面してしまう。
なんで俺はいつもこうなんだ…。
それでも俺の声が届いたようで山口が振り返る。
そして声の主が俺だと分かって少し驚いているようだったが、でも俺が追いつくのを無視せず待っていてくれた。
「浅井…、なに?」
「あの、すぐ、済むから。ちょっと…いいか?」
「…わかった。ごめん、皆先行ってて?」
一緒にいた女子たちに先に行くように促し、すぐに山口が俺の方へと向き直った。
「公園、行く?」
「…っ、う、ん」
…うぅ、真正面から向き合うと、眩しすぎてチカチカすんだけど!
こんなんでちゃんとしゃべれるのかよ、俺?
学校からすぐ近くの公園に二人無言で足を運ぶ。
俺の緊張はピークに達していて、歩くことすらままならず、足がもつれそうになって挙動不審もいいところだ。
「…」
「…」
やばい、のどカラカラなんだけど。
山口は俺から話すのを待っているみたいで一言も発しないし…。
心臓の音、うるさいし!
「…っ」
もう、勢いだな。勢いでいくしかないな…!
意を決し、ぐるんと山口の方へ振り返って俺は口を開いた。
「あ、のさ。さっきはゴメン!!」
「…うん」
「…俺っ、なんかお前の前だとめっちゃ緊張するっつーか…。そんでいつも嫌な態度とってて…。でもお前のこと嫌いとか、そういうんじゃないんだ」
「…うん」
「俺…」
(…ん?)
ようやく余裕が出てきて、ちらりと山口を伺ったわけだが。
山口は俯き加減で口元を片手で覆っていた。
んで、なんか肩震えてない、か?
もしかして、笑ってます?
「やま、ぐち?」
「…や、ごめん。なんか可愛いいなって思って」
「か、かわっ…!?」
くっくと笑う山口と猛烈に赤面する俺。
なに、この展開。意味不明なんだけど…。
「俺こそゴメン。うん、分かってたつもりだったんだけどね。まだまだ俺も修行が足りないなぁ」
「??意味わかんね…んだけど」
「浅井さ、俺のこと好きじゃん?」
「うん………て、はぁぁぁぁっ!?」
今、なんて言った?
『俺のこと好きじゃん?』だと!?
な、なんで!!!?
なんでバレてっ!?…てか俺今普通に『うん』って言わなかったか!?
「な、な…っ」
そんなパニック状態で言葉を発することができない俺に、山口は更に追い討ちをかけてきた。
「浅井の俺への発言は全部真逆だって分かってたのにな。あんなことで凹むとか、馬鹿みたいだね、俺」
「ちょ、ちょっと待って…!俺、今頭こんがらがってる!!」
まさか山口に俺の気持ちを指摘されるなんて、夢にも思わなかった。
(俺が山口のこと好きだって、知ってたんだ!知ってたんだぁぁぁぁ!!!)
俺はどうしたらいいか分からず、腕で顔を隠すようにしてしゃがみこむ。
めっちゃ顔熱いし。
いつからバレてた!?つかどうして!?
「ふふ、だって浅井分かりやすいだもん。他の人には態度普通なのに、俺にだけ異常に反応するし、顔赤くなるし、どもるし?」
「〜〜〜っ」
…言われてみればそう、だよな。
確かにバレバレだったかもしれない。
…けどさ。
「…お前、俺のこと気持ち悪くねぇの?」
おそるおそる山口に目を向けると、山口は一瞬きょとんとした顔をしてみせ、そのあといつものあの優しい笑顔に変わった。
そして山口も俺と同じようにしゃがみ込む。視線が同じ高さになって、俺の顔はさらに熱くなった。
「…浅井は俺のこと誤解してるからね。色々」
「誤解?なにを…」
「俺を良い奴だって思ってたり。このままだと浅井のことを嫌いになるんじゃないか、とかさ」
「そんなん…」
その通りだろ?
「俺ね、全然良い奴じゃないよ?だって全部計算だもん。ずっと浅井が俺のこと好きになってくれるように振舞ってただけだからね」
「…な、」
なんですと?
「どう、して…」
「んー。どうしてだと思う?」
にっこり、という言葉がぴったりとあてはまるようなそんな笑顔で山口が俺を見つめる。
「…」
…それって。
それって!?
嘘だ。だってまさか!山口が俺のことを!?
そんな…そんなことが
「…あるかぁぁぁ!!あほーーー!冷静になれよ俺っ!ばっかじゃねーの!?」
「なに一人で慌ててんの?ほんと浅井って面白いなぁ」
…。
「…つかお前、変に期待させた後でおもっきしつき落としてやろうとか、考えてる?」
「何それ。疑り深いなぁ」
「じゃ、じゃぁ、俺のこと…………好き、とか?」
「うん、そうだよ?」
「…うそだろ」
「あはは。どうして信じてくれないの?」
「…」
だって、俺なんかのどこを好きになるわけ…。
理解できねぇ。
「俺ね、浅井の笑った顔がすごく好きなんだ。初めて教室で浅井を見た時から、俺は浅井を意識してたよ。俺だけに笑いかけてくれたらいいのに、ってずっと思ってた」
「…ま、じで?」
「まじまじ。だけど俺が浅井のこと構えば構うほど、浅井の態度はどんどん期待してたものと逆に変わってくし。意識されてるって理解はできても、あれはちょっとさびしかったなー」
「ごめ…、俺ほんとガキで」
「そうだね。でもそういうところも好きだよ」
「…っどぅも」
「ねぇ、浅井の口からちゃんと聞きたいな。俺のことどう思ってるの?」
「!!!!」
にこにこしながら爆弾を投げてくる山口。
ぼん、という音がしたのではないだろうか…。
俺の顔は、再沸騰。
「俺のこと、好き?」
「…ス、キデス」
「あはは、なんで片言?もう一回言ってー」
「も、勘弁してくれぇ…」
アザーサイド。
「ねー、あの二人どうなったかな?」
「あれは脈ありでしょ。だってあの山口だよー?確実にオトすでしょ」
「つか浅井、ツンデレすぎじゃなーい?さっきかなり頭きたんだけどぉ」
「あはは、かわいーじゃん、あのあと泣きそうな顔してたしぃ」
すべて知っていた女子たち。
END
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