2-10
ドタドタと騒がしく保健室に入ったら
「何事ですか!?」
…もちろん保健医に問われた。そうなるよな。
先生はその問いに対して何も言わず、ただ俺をベッドの上に仰向けに寝かせる
その手つきが妙に優しくて、似合ってなくて、気づかれないよう心の内で少し笑う
悠斗もあまりに心配そうな目で見てくるもんだから…
彼に対し安心させようと微笑んで見せた。
おかげで肩の力が少し抜けたようだ。
怪我したのは悠斗じゃないのにな。
「先生いいの?喧嘩したこととかバレたらやばくね?」
真上にある整った顔立ち。深く吸い込まれそうな漆黒の瞳。
小声で保健医に聞こえないよう、さっきから気になってたことを伝えた
保健医はハラハラしながらも、こっちから視線を離さない。腹の痣を見られたら、明らか問題を起こしたようにしか見えないだろう。
「大丈夫だ、あいつ俺の下僕だから黙っとけって言ったら言うこと聞くんだよ」
…は?
え、ちょ、
…ドS!!何この人!!!
「何トロトロしてんだ。早く診てやれ」
「は、はい…!」
慌てたような素振りを見せ、もといた保健医が近づいてくる
近くで見ると意外と若い顔立ちをしているようだ
………一体東堂先生と何があったんだろうか…気になったけど恐くてやめといた。だって下僕って何っ恐っ!!
「酷い……」
保健医の敷島さん(胸の名前プレートに書いてあった)が、俺の腹をまじまじと見つめてくる。
それからテキパキと辺りにあった救急箱の数々を取り出し……
なんだ、腹が包帯巻きになってしまった。
(処置の仕方合ってんのか…?)
「御崎、お前いつから現場見てた」
「慎哉がヤられそうになる直前」
「あ゛ぁ?」
(恐ーーっ!!)
「まじで良かったよなー。あそこで俺が通らなかったら慎哉まじで「ぎゃあぁぁぁやめろ!」
羞恥に耐えられなくなり悠斗の顔面に平手打ちをかます
「おい慎哉…どういうことだ」
「大袈裟だから、ホント。大体俺みたいな平凡に限ってそんなことはないよ」
「…そういうとこが…心配なんだよ」
ゆっくりと。
頬に先生の冷たい手が触れた。
そのまま髪を撫でられる。
随分と綺麗な手だった。
男の髪の毛なんて触ったって気持ちいいもんじゃないぞ。
「おい、東堂…」
急に悠斗が低く、しかしはっきりと聞こえるように先生の名を呼んだ。
その声には…なにか平和でない意味が含まれていて…、…て、敵意…?なのか、これは。
何故悠斗が先生の名を呼んだのかはわからなかったがその瞬間ピク、と髪を弄くる手は止まる。
しかし先生は再びニヤリといやらしい笑みを浮かべ
更に俺に対してスキンシップをとり続けた。
無意味に名前を呼んだり、妙に顔に触ってきたり…
………先生、これどんな状況ですか俺にはわかりません
意味もわからないであたふたしているとガタン、と椅子揺れた音が床に響いた
びっくりして音のしたほうに視線を動かすと、今まで黙って椅子に座ってた悠斗がいない
「えっ…悠斗!?」
名前を呼んだが返事はない。
その代わりに少しずつ遠ざかる廊下にある足音…悠斗は、保健室から出て行ってしまったようだ。
しばらく呆然としていたが、急にハッと我にかえり悠斗を追いかけようと身体をベッドから起こす
しかし、忘れかけていた腹の痛みが全身を駆け巡りその行動は叶わなかった
「慎哉お前はだめだ」
「でも悠斗が…」
目の前にいる長身は、胸ポケットから煙草を1本取り出し、自然な動作で火をつけた。
「俺が行くから、お前は寝てろよ?」
そう言って、少し短いため息をついてまるで先ほどの俺の友人がどこへ行ったか知っているかのようにゆっくりと、先生は御崎悠斗を追っていった。
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