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アイザキガカリ 番外編
6
「なんで…ここに…」
「それは先にこっちが聞かせてもらいたいもんだな」
 そう言って相崎は口元に笑みを浮かべた。いつも見蕩れてしまうほど綺麗だと思っている表情が、今日はとてつもなく恐ろしく冷ややかに感じるのは、俺にうしろめたいことがあるからなのだろうか。
 俺はもう何を言ったらいいのかまったく思い浮かばず、視線を落ち着かなくさまよわせる。
 ふと相崎の後ろから、女子高の生徒がやってくるのに目が留まってはっとした。もしも噂が広がっていたとしたら、相崎と俺がここにいるのはまずい。噂を肯定する材料を与えることになる。
 俺は半ば焦って、急き立てるように言った。
「あ、相崎、帰れよ」
「………」
 すると相崎は顔から笑みを消した。それと同時にすうっと相崎の周りの空気が冷えたような気がした。
 怖い。すごく怖い。たぶん相崎はものすごく怒っている。当たり前だ。嘘をつかれたんだから。
「俺が邪魔か?」
「……そ、そういうわけじゃなくって」
 その時、さっきの女子高生が俺たちの横を通りすぎた。相崎の横を通る時に彼女がちらっと相崎を見たのに気づいて、俺は再び焦りをとりもどす。
 その子が去るのを見届けてから、俺は言った。
「あの、後で話すからさ、とりあえず――」
「昨日の子達と同じ制服だな」
 通り過ぎた子を目で追っているのか、俺から一瞬だけ視線をはずして相崎が言った。
「そういえばお前、昨日、何度も振り返ってたよな。もしかしてどっちか気に入ったのか?こんなところで待ち伏せするほど」
「え」
「名前でも聞いてやればよかったか?…悪かったな。気がきかなくて」
 それではじめて俺は相崎が妙な誤解をしているのに気づいた。
 俺が昨日の女の子たちのどちらかに気があるなんて、ずいぶん単純な誤解だ。
 相崎の口調は淡々としていて決して感情的なものではない。だけどなぜか俺には相崎がひどく苛立っているように感じられた
 いつもは超然としていて余裕の塊のような奴なのに、いったいどうしたんだろう。しかも、『何度も振り返ってた』なんて事実と違うことまで言い出すなんて。
「変な誤解するなよ、俺は…」
 言いかけた時、あっという小さな声がした。
 そちらに目を向けると昨日の女の子たちが相崎の後ろに立っていた。
 
 
 二人の女の子は対照的で、一人はちょっと嬉しそうで、もう一人…昨日俺たちを見ていた子は気まずそうに俺たちから目を逸らした。
「こんなところで、どうしたんですかぁ?あ、何かうちの学校に用ですか?」
 嬉しそうな子の方が勢いよく訊いてきた。それは俺にではなくもちろん相崎にだったが、俺は慌てて言った。
「あ、あの、そっちの…人に、ちょっと話があって」
「…そっちか」
 相崎が何か小さく呟いたが、それは放っておいて、俺は戸惑った表情を浮かべる女の子に言った。
「ちょっとだけでいいんで時間もらえませんか。俺、どうしてもお願いしたいことがあって」
 俺が言うと彼女は小さく頷いて、もう一人の子に先に帰っててと言った。言われた子は何やら含みのある笑顔を浮かべ意味深な口調で彼女にまた明日というと、バス停に並ぶ。
 それを見届けてから、困ったような表情のまま彼女は俺たちに言った。
「あの…ここだと目立つから…こっちで」
 そう促すように言ってから踵を返し、俺も彼女の後に続く。
 相崎も当然のようについて来た。
 噂を流したかもしれない人とその噂の本人が連れ立って歩くのはどうかと思ったが、あまりの相崎の冷ややかな表情に、ついてくるなとは俺にはとても言えなかった。

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