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アイザキガカリ 番外編
1
 相崎が近辺の高校の女の子の間で噂になっているらしいという話を聞いたのは、相崎とつきあってから2ヶ月ほど経った頃だった。
 彼は以前とは違って、早退したり午後から来たりと時間は不規則だったが、それでも継続的に学校に来ていた。
 意外とというには失礼だが、相崎は結構マメな性質のようで、その日の予定を必ず朝にメールしてくる。
 朝から学校に来る分にはどちらにしろ登校すればすぐに会えるんだから別に必要ないことだ。
 だけど起きてすぐに相崎に朝から会えるということがわかるのがすごく嬉しくて、朝から学校に来る時はメールはいらないとつい言いそびれてしまっている。
 その日は相崎は何事もなければ午後からくることになっていた。
 俺の貸した宿題を裕介がせっせと書き写しているのを見ていると、ちょうど隣で数人がたむろして話していることが耳に入ってきた。
「なんかさ、隠し撮りの写メとか出回ってるってさ」
「あいつ芸能人とかになっちゃったりしてな」
「サインとかもらっておくか。今のうちに」
 そんな冗談ともつかない会話を聞きながら、本当に相崎はすごいなあと思う。
 学校には他にもかっこいい奴はいて、女の子にもてるということは、ある程度は想像がつくし実際に彼女がいたりしてわかる。
 だけど、こうして不特定多数の女の子の噂になっていることがさらに噂になるほどの奴なんてそうはいないと思う。
 しかもそれに説得力があるなんてなおさらだ。
「相崎って彼女とかいんのかな。…いっちゃん知ってる?」
 不意に振られてびっくりする。
「えーっと…いないんじゃないかな」
 彼女はいない。…少なくとも嘘は言っていない。
 相崎のことを聞いた奴は、俺の返事にそれなりに得心して、仮説を発展させはじめた。
 いわく、人妻と不倫してそうだとか、小さい頃からの許婚がいそうだとか。
 相崎は気さくだけど他人に踏み込ませないような一線を引いているところがあるようで、その部分に刺激されるのかこうして本人のいないところで話題に上ることが多いような気がする。
 ふと裕介をみるとノートを書き写す手をぴたりととめ、顔をこわばらせていた。
 しかし次の瞬間には手をすごいスピードで動かしはじめ、俺はついどうしたのかと聞きそびれてしまった。


「いっちゃん…相崎とうまくいってる?」
 特別教室への移動中、聞きづらそうに裕介が聞いてきた。
 先生に頼まれて教材を取りに職員室に寄ってからだったので、あたりには既に誰もいない。
 特別棟へ続く渡り廊下は静まり返っていて、もう授業がはじまったのかと錯覚するほどだった。
「うん。うまくいってる…と思う。たぶん」
 相崎は誰か他人の目があるときは、俺たちの関係を匂わせるようなことは決してしない。たとえそれが俺たちのことを知っている裕介の前でもだ。
 だから裕介は俺たちの関係がどうなっているかわからなくて、ふとしたことで心配になるんだろうと思う。
 たぶんさっきは俺が「相崎に彼女はいない」と言ってしまったから、余計に気になったのかもしれない。
「ならいいんだけど…。いっちゃん、さっきの話とか聞いて嫉妬っていうか…やきもきしたりしないの?」
 嫉妬。
「それはないなあ。女の子の噂になるのって、そんないいことばっかりでも無いんじゃないかと思うし…まあ、自分がそうなれるなんて思わないけど」
 そういうと裕介は首を振った。
「そうじゃなくってさー…相崎が女の子に人気があるって聞いてさー」
「……」
 そういうことか。
 つきあっているなら嫉妬とかする局面なんだろうか。
 それは理屈としてはわからないでもないけど、いまいちよくわからない。
 女の子の間で噂されてるなんて、本当に目立つんだとただひたすら感心していたくらいだ。
 でも、自分のつきあってる奴が不特定多数の他人から注目されていると考えると、確かに由々しき問題なのかもしれない。
 もしかしたら極端に思いつめる子とかいたりして、相崎の身に危険が及ばないとも限らないわけで。
 …なんだか裕介の言いたいこととずれてしまったような気もするが、暢気に感心していることでもないということはわかった。
「相崎に気をつけるように言ってみるよ」
 とりあえず、自分なりにだした結論を裕介に告げる。
「え?気をつける?…って、何に?」
 そういって裕介は首をかしげた。

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あきゅろす。
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