アイザキガカリ
7
――女顔なんだよ。睫とかばっさばさで色が白くてさ、んで、小さくてほせーの。中学ときのおれくらい小さかった
俺の中の相崎貴史は美少女に近かった。なんとなく我侭で、なんとなく繊細で、なんとなく儚げなイメージを抱いていた。
しかし、目の前にいる男は――そうだ、「男」なのだ。美形ではあるが、「少年」ですらなくどことなく不遜な感じすらする「男」。
「え…え…えええ?!」
改めて驚く俺を一瞥すると、相崎は肩をすくめていった。
「座ってもいいか?」
「えっあ、ああ…悪い」
あわてて机から椅子を引き出してベッドの前に置く。相崎はそこへ腰を下ろすと長い脚をもてあますかのように組んだ。なんだか俺の部屋にそぐわない男だ。ついまじまじと見てしまい、目が合って慌てて反らす。
そのとき、部屋のドアがノックされた。
「和樹。お友達にお茶」
「あ、ああ…うん」
母さんの声に慌てて立ち上がろうとすると相崎は制するように片手をあげ、自らドアをあけて盆にのった紅茶を受け取った。
「すみません。ありがとうございます」
「あらあらお客様に…。ごめんなさいね」
母さんの声が心なしか弾んでいる。ゆっくりしてってね、という去り際の声もいつもより高い。
相崎は俺に紅茶のカップを渡すと、もうひとつはお盆ごと俺の机にのせ、再び腰掛けた。ただし、今度は目の前の椅子ではなくベッドに腰掛けた俺の隣に。
その距離は予想外に近く、俺はうろたえた。
「結構でかいな、お前」
そしてその近い距離のまま検分するように俺を見る。
「そ、そうかな…」
一応174あるので確かに小さくはない。そしてその言葉は相崎に謹んでお返ししたい。相崎は180近くあるんじゃないだろうか。
「あのさ、どうしてウチに?」
「今日来たやつにいつも来る奴はどうしたってきいたら風邪だっていうから見舞いに来た」
「へー…。…って、『いつもくるやつ』……?」
いたためしもないのにどうして知っているのか…と考えかけてすぐに考え付いた。
「居留守…?」
口の中で呟くと相崎はにっこりと笑った。
美麗な顔に間近で微笑まれたせいか思わず胸が高鳴り俺は二の句が継げなくなった。なんていうか…ただ、ただ、ひたすらに麗しい。
目の前の相崎はすべて俺の想像を打ち砕いた。
さっき母さんから紅茶を受け取ったり今の様子からいって対人恐怖症とかではなさそうだし、長い間居留守をつかっていたことを笑ってごまかしてのける程度に神経も太い。
そんな奴がなんで学校に来ないんだろう?
しかしそんなデリケートそうな問題をついさっき顔を合わせたばかりできけそうにない。
俺は手にもった紅茶を一口すすった。
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