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アイザキガカリ
31
「今朝、職員室で担任がそんなようなこと電話で話してるの聞いた奴がいるらしくてさ」
 裕介の言葉がうまく判断できない。
 退学。もう相崎は学校に来ない。どんなに待っても相崎には会えない。俺は馬鹿だ。夏休みにさっさと相崎に電話でもなんでもして連絡を取ればよかったんだ。そうすればこんなことにならなかったかもしれないのに。
 もしかしたらもう一生相崎には会えないかもしれない。
「いっちゃん、仲良かったから何か知ってるかなって……」
 首を横に振る。
 一応、裕介の問いには答えたはずなのに、なぜか裕介は怪訝そうに眉を顰めた。
「どうしたの?なんかあった?」
 裕介がなぜそんなことを言い出すのかわからなかった。
 どう言えばいいのか俺にはさっぱり思いつかず、迷っているうちに予鈴がなる。
 裕介は諦めたようにため息をついてから、笑って言った。
「後でさ、ちょっと話そうよ。じゃあね、俺席戻るから」
 

 休み時間に裕介に促されてベランダに出た。
 すこし肌寒い陽気のせいか、ベランダに出ているのは俺たちしかいない。内密の話をするにはちょうどいい。
「いっちゃんさ、もしかして相崎と何かあった?喧嘩した?」
 俺はただ首を横に振った。喧嘩できるものなら、いっそのことそっちの方がよかった。
「ならいいけど。いっちゃん相手に喧嘩なんてしたくてもできそうもないし」
「ひでえな」
 それを俺は冗談だと思った。俺が非力で気が弱いことをからかって言ったのだと。しかし裕介は笑って首を振った。
「そういう意味じゃないよ。いっちゃんて優しいからさ。いっつも他人に気を遣ってるじゃん」
「何言ってんだよ」
「ほんとだよ。誰かに何か頼まれたときとかさ、相手のこと考えて返事するだろ。自分が嫌かどうかじゃなくて」
「そんなの当たり前だろ」
「当たり前じゃないんだって。俺だったら自分が嫌だったら即却下だもん。時々心配になるよ。将来、馬鹿高い布団とか消防署の方から来た人に消火器とか買わされるんじゃないかって」
 俺は笑った。
 しかし裕介は真顔になり、まっすぐに俺を見る。
「だから、もしもいっちゃんと相崎の間に何か諍いがあったんだとしたら、俺はぜったいに相崎の方が悪い…って思うと思う」
 裕介がまだ誤解していることに気がついた。
 たぶん、俺と相崎が喧嘩をしていて、俺が裕介に何も言わないのは相崎をかばっているからだと思っているんだろう。
 そして自分は俺の味方だと伝えてくれてる。
 なんだか胸の奥があったかくなって、泣きそうになった。
 隠し事をするのは裕介の思いやりを無下にするような気がして、ほとんど衝動的に俺は言っていた。
「裕介、俺さ…相崎のことが好きなんだ」
「うん。俺も割とアイツ好きだよ。だからたぶん何聞いてもだいじょうぶだよ。場合によっては怒るかもしんないけど」
 裕介は俺の言葉の意味に気づかない。
 ここでやめておくべきなのなのかもしれない。だけど俺はどうしても裕介の相崎への誤解を解きたかった。
「…好きって、俺のはそういう意味じゃないんだ」
 言うと裕介は固まったかのように動きを止めた。
 次には落ち着きなく視線をさ迷わせて、彼の動揺の程が目に見えてわかる。
「えっと…あの…そっか…。…えっと、いっちゃんの様子が変だったのはそのせい?」
「うん。たぶん」
「いつから…とか聞いてもいい?」
「わかんない。でも気づいたのは相崎と会えなくなってから」
 裕介はまた黙った。困らせてしまったようだ。
 長い沈黙の後、裕介はぽつりと言った。
「…相崎はそれ知らないんだよな。ほんとうに退学ってことだったら、もう会えなくなるけど…告白とかしなくていいの?」
「いいんだ。どの道、俺と相崎じゃつりあわないし、うまくいくわけない。変なこと言ってごめん。ただ誰かに聞いてもらいたかったのかも」
「いや、俺も驚いちゃって…なんかせっかく教えてくれたのに、うまいこと言えなくてごめんな。俺もこういうことって経験ないから…」
 二人して謝っている滑稽さに気づいて俺たちは笑った。
 少しだけ気分が軽くなった気がした。

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あきゅろす。
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