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アイザキガカリ
23
 相崎が昼食を終えたあと、遊歩道の方へでてみた。
 芝生の広場から遊歩道へ続くところは緩やかな階段状になっていて、そこには赤ちゃんを連れておしゃべりをする母親や、スケッチをする老人や、昼寝をする人や、ちらほらと人がいた。
 他の人がしているように、俺たちもとりあえず座ることにした。
「やばい」
 腰を下ろすなり相崎が頭を抱えて言った。
「眠い……」
 いつも学校では昼飯のあとにはすぐ寝てしまうから、もう習慣づいてしまっているのだろう。
 強かった夏の日差しはいつのまにか陰りをみせていて、海からくる風も心地いい。
 寝るには絶好のシチュエーションだ。
「ちょっと昼寝すれば」
 俺がそう進言すると、相崎は呻くように呟いた。
「でもせっかくお前といるのに」
 その言葉にどきっとした。
 相崎が微妙な言い回しをするせいなのか、自分が彼を意識しすぎているからなのかよくわからないが、勝手に上がっていきそうな心拍数に俺は内心焦る。
「ほかに寝てる人もいるしさ、俺もここでちょっとぼんやりしたいから寝るといいよ」
 焦りを隠して取り繕うように早口になりつつそういうと、相崎は笑って横になり頭の下で腕を組み帽子を顔に被せた。
 まもなくほんの微かに寝息が聞こえてきて、相崎が眠りについたのだとわかった。
 それと同時に自分の肩の力が抜けるのを感じる。
 なんだか相崎といると緊張する。
 だけどそれは決して嫌な感じではなくて、不思議な高揚感を伴ったものだった。
 
 結局、相崎は1時間ほど眠っていた。
「ガキの頃の夢みた」
 そう呟いて相崎は起き上がり頭を振った。
 いつもは素晴らしい寝起きのよさなのに、今日はぼんやりしているようだった。陽の下で眠ったせいかもしれない。
「…小さい頃、魔法使いになりたかった」
 見た夢の話なのか、ぽつりと相崎は話はじめた。
 それにしても魔法使いだなんて、ずいぶん可愛い夢だ。思わず頬が緩む。
「かっこいいだろ。呪文を唱えれば、敵を一掃したり瞬間移動したり、なんでもできる」
 俺は童話にでてくる魔法使いを想像してしまったのだが、どうやらどちらかといえばゲームに出てくるような奴らしい。
「それを一番上の兄貴にだけ言ったんだよ。俺は兄貴に懐いていたから、特別に秘密を教えてやったつもりだった。そしたら俺の誕生日に兄貴はなんとか魔法スティックっていう女の子向けのおもちゃを買ってきて、親戚一同集まる前で貴史の将来に役立つものだとか言って渡してきやがった」
 秘密を打ち明けて、それを大勢の前で暴露されたわけか。
 想像するまでもなく可哀想だ。
 お兄さんにしてみれば可愛い弟をからかっただけなんだろうけど。
「俺は女みたいだったからそれがまたよく似合ったんだろうな。親戚も兄貴たちも大爆笑してな。俺はその魔法スティックですぐさま兄貴に殴りかかった。誰かを殺したいと思ったのはあれが初めてだ」
「殴りかかったって…。お兄さんといくつ離れてんの?」
「十五。俺が5つくらいだったから兄貴はそのとき二十歳だな。結局、喧嘩に武器を使ったことで俺だけ親父に大目玉くらった。だけど今でも思う。ぜったいに兄貴の方が悪い。親父は間違っている」
 頑なに言う相崎がなんだか子供のようで可愛くて笑ってしまう。
「とにかく俺は誓ったわけだ。ぜったいに将来魔法使いになってみせる。それとこの誓いはもう誰にも明かさないってな」
「俺に言っちゃってるよ」
「お前はいいんだよ」
 茶化すように言った俺に、相崎はそう答えた。

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あきゅろす。
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