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アイザキガカリ
21
「早かったな」
 相崎は上機嫌で俺を迎えてくれた。
「うん、佐々木さんに偶然あって車でここまで送ってもらった」
「佐々木って……誠司?」
 うなずくと、ぴくりと相崎の眉が動いた。
「何か言ってたか?」
「………。」
 俺は黙って相崎を見上げた。
 この綺麗な男は本当に俺のことが好きなのだろうか。しかもそれを佐々木誠司に言ってたって?やはり信じられない。
「店の名刺もらった。裕介と来てって」
「多田?節操のねぇ奴だな。他には?」
「…特には」
 ついごまかした。だって俺の口からとてもじゃないけど言えそうにもない。お前が俺のことを好きだって言ってたよーなんて。
「そうか。ならいい。とりあえずあがれよ」
「うん。お邪魔します」
 リビングに通された。相崎は暑がりなのか部屋はクーラーがよく効いており、少し肌寒いくらいだった。
 ソファをすすめられ、この間のことを思い出しかけてそれを頭から振り払う。
 相崎は俺の隣に座わり、俺はなんとなく室内を見回した。
 あのモニタがたくさん乗った机のみが異彩を放っているが、その他はソファといい、カーテンといい、落ち着いた感じの趣味のいいものだった。
「すごくいい感じの部屋だよな。このマンション自体もなんだかすごいし」
「そうか?家具なんかは兄貴の嫁さんの趣味だけどな」
「お兄さんがいるんだ。似てる?」
「2人いるけど上とはあまり。下とは似てるって言われる」
 佐々木の話をきいたときは作り話のように感じたのに、こうして本人を目の前にしていると少しずつ現実味を帯びてきた。
 なんといっても目の前のこの男は実際に俺にキスしたことがあるのだ。
 その現場にいるせいか、いくら考えないようにしてもそれは難しくて、俺は心の中で佐々木誠司を呪った。彼があんなことを言わなければ、もう自分の中ではあの出来事は決着のついていたことだったのに。
 どうしても相崎のことを意識してしまう。
「あ、そうだ。相崎、昼飯ちゃんと食った?」
 顔が赤くなりかけて俺は慌てて言った。
「いや。お前は?」
「食ってきた。なんか食べろよ。夏ばてするよ」
「うちに何もないんだよ」
 カップラーメンとかもないのかと訊くとそれもないという。
「何か買ってきてやればよかったな」
 そういうと相崎はしばらく何か考えた後、窓の外を見て、そして言った。
「出かけるか。天気もいいし」

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あきゅろす。
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