さよならは君のとなりで
3
そして8月31日、ようやく日常生活にそれほど困らない程度まで回復した俺は医者にいつ退院出来るのかを聞いた。
すると医者は苦い顔をし、両親と連絡が取りたいと言った。
俺は自分の大体の家庭環境を医者に伝え、両親と連絡を取る手段がないことを言った。
「何か、両親がいなければいけないことでもあるんですか?」
「…。」
「…言って下さい。俺は弱いつもりはありません。俺の体は何か、病気に侵されているのですか?」
「…これから僕の言うことを落ち着いて聞いて下さい…。」
俺はその言葉に無言で頷いた。若い医者の顔が恐いぐらい真剣で、言葉は出なかった。
若い医者は聞いたこともないような病名を俺に告げたあとにその病についての説明を付け加えた。
「玲くんの体を蝕んでいる病はとても難しい病です。現在まででもほとんど確認されていません。」
「…治るんですか?」
声が震えた。手も震えている気がする。
信じられない。根拠はないが自分はそうゆう死とかとは無縁な気がしていたからだ。
「…残念ながら、現在の医学では手の施しようがありません。来年の夏を越すことが出来るかどうか…。」
「…そう、ですか。」
その言葉を聞いても意外と冷静な自分に驚く。
治るか治らないかわからないという掴み所のない恐怖よりも、はっきりと死を宣告される方が受け止めやすかった。
死ぬことが怖くないと言えば嘘になる。
死ぬよりは生きていたい。
だが俺はそこまで生に執着していなかった。
余命1年を宣告されてもただ、ああそうか。俺は死ぬのか…とぼんやり考えた。
むしろただ漠然と生を紡いでいかなければならないという目に見えない強制よりも終わらせることの方がよほど楽に思える。
だから、死ぬ、そのことに少しだけ安堵している自分も確かにいたと思う。
その後も医者の説明が続いていたので適当に相槌をうちつつこれからの限られた時間を何に使うか考えた。
そうした時、俺の頭の中を支配したのはやはり月島悠斗であった。
そうして俺はアイツへの復讐に俺の残りの時間全てをかけることを決意した。
ただ死ぬ前にアイツに会いたいだとか、まだアイツを好きだからとかではなく、アイツが憎くて復讐する為に会いに行くのだと自分に言い聞かせて。
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