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さよならは君のとなりで


その日は頭が良くて真面目そう(暗いってだけじゃないのか?)とかいう理由で押し付けられたクラス委員長と言う名の雑用係の仕事をこなす為、放課後まで図書室に残っていた。
あとは書類を生徒会に提出して終わりってところで担任のハンコが必要なことに気が付いた。


(…この時間なら先生は職員室だろう。)


「……!………。」
(…声?)
はい、ここ。ここでこの声を気にしたのが失敗だった。
いつもなら素通りなのに、たまたまその日、浅井恭子から聞いた噂が頭の中をリフレインしていたから、噂話というものに敏感だったのだろう。

知らずにいたら幸せだったのか。
いや、幸せだった時間が少ない方が終わった時のダメージが少なくて済むという考え方で行くと、この時の俺の行動は称賛に価するだろう。




「で、悠斗。実際あのオタクくんはどうなのよ?罰ゲームとはいえお前から告白したヤツなんだろ??まぁ、男ってのが驚いたけどさ。」


「翼く〜ん。笑えないこと言わないでくれない〜?俺の人生最大の汚点だよ〜。なんであんな勝負持ちかけたんだろ〜。」


「おまえ、自分から勝負持ち掛けといて負けてるんだもんな。馬鹿としか言いようがねえよ。」


「アハ〜。翼くんってばひどい子〜。」


「てゆーか俺、悠斗が勝負ごとに負けんの初めて見たんだけど。お前馬鹿っぽいけど基本的に負ける勝負はしないだろ?調子悪かったのか??」


「ん〜?どうかな〜?てゆうか翼ちゃん。」


「なんだよ?」


「ボクトイレ行きたい。一緒に行こ〜?」


「んなもん一人で行けよ!!」


「むぅ〜。翼くんってば友達甲斐のナイ子〜。オレが一人で行ったら、そこで聞き耳立ててる子に殴られちゃうかもしれないのに〜。」


「は?悠斗、お前何言って…?」
ガタッ


「アハ〜?やっぱりいた〜。オレ、自分のコイビトのコトに関しては敏感なんだ〜。」


「月島…。」
何故そんなに飄々としていられるのかが不思議だった。それと同時にもっと申し訳なさそうにされなければ、冗談だったという可能性に縋り付いてしまいそうになる自分が凄く嫌だった。



「え!?もしかして神崎いたの!?ってかお前なんでそんな冷静なんだよ!」


「え?何が〜?ボク達別に聞かれてまずい話してないじゃん?」


「…まぁ、お前がいいんならいいけどさ。」


「あ〜あ。でも、本当は皆の前でネタバラシしたかったから、その辺りは残念かな〜。でも表情筋壊れてそうな不気味オタくんの何が起こってるのか分からないって顔見れただけでも十分楽しめたかな〜?」



…なにをいっているんだ?これは本当なのか?わからない。ワカラナイ。言葉が理解出来ない。
ああ、そういえば浅井恭子がなんか似たようなコト嘲笑いながら言ってたな。あれ、本当だったんだな。

…アレ?俺何考えてるんだ?なんでこんなことになったんだっけ?ああ、そうだハンコ、貰いに行かなきゃな。
先生はきっと職員室だから、えっとその後生徒会室に行って…


「あれぇ〜??無視〜?あ〜、ショック大きすぎてフリーズ?アハハ〜、大丈夫〜?」


「…。」


「神崎?ちょっ、待てよ!どこ行くんだ!…聞こえてねぇ。おい、悠斗、イイのか?お前、本当は「あ〜あ。シラケちゃった。つまんない。翼くん、帰ろう。」…ああ。分かったよ。」


「どうせまた明日何食わぬ顔で学校来るでしょ〜?彼真面目くんだし〜?」




その日から、俺は学校に行くことをやめた。
美形で明るく出来の良い弟に構うのに忙しく、俺に関しては全くの放任主義である両親は真面目な俺のこの行動を気にしたそぶりはなかった。グレた訳ではなかったから、まあイイかという感じだった。



そんな中、父の会社の都合で引っ越すことになり、最初は寮暮らしが出来る附属高校に行くことを勧められた(手元に置いておきたくなかったのだろう)が、あの高校にはアイツがいる。そう思うと行く気になれなかったので、これを機会に違う高校に転校して寮に入ることにした。


両親は特に反対もせず(不登校の原因に虐めでもあると思ったのだろう。…あながち間違っていない気もする。結局逃げることと何も変わらないのだからな)、これで厄介払いできるのならと大学まで行けるだろうお金だけを残していってくれた。
つまり高校を卒業して大学に行っても連絡をするなということか。
両親とも働いており余る程あったお金はこういうところで役にたったようだ。


なんにせよ元々頭だけは問題の無かった俺は無事私立の男子校に合格し、春から通うこととなった。
しかしあんな親に借りをつくりたくなかった俺は元からこのお金は借りるだけで、いつか返そうと思っていたので入学してからはバイトバイトの日々を送った。


まさかこの時に貯めていたお金が全部自分の身体に消えることになるとは思いもしなかったがな。



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あきゅろす。
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