さよならは君のとなりで
1
10月のはじめ。
肌寒い日が続いていた。
天気も悪い。
空はゴロゴロと音をたて、今にも雨が降り出しそうだ。
俺は今、校門の前にいる。
そう、あいつのいる高校の門だ。
先程、俺の通っていた中学校を見かけた。
あの時を思い出して気分が悪くなった。
俺の体があいつに復讐したいと言っている。
そんな気がした…。
「…やっと…、あいつに会える。」
あいつに会って、俺を刻んで、一生後悔させてやる。
そんな事を考えながら校門をくぐっていく。
俺の中にあるのは憎しみだけ。
そう自分に言い聞かせながら。
ギリギリ間に合った真新しい制服は少しだけ窮屈だった。
校門をくぐって周りを観察。
何の変哲もない、普通の校舎だ。
俺の通っていた男子校とあまり変わらない。
それにしても、ほとんど人がいない。
少し早く来過ぎたか?
いや、でも職員室に寄らなければならないから調度良いはずだ。
校舎に入ってしばらく歩くとすぐに職員室は見つかった。
…そう広くない校舎だからすぐに分かったな。
少しだけ深呼吸をする。
そうだ、俺の復讐は今日から本格的に始まる。
…流石に少し緊張するな。
呼吸をととのえ、職員室のドアを軽く叩いてからドアを開く。
「失礼します。」
職員室の中も普通で少しだけ安心する。
すると、事務の人だろう。
初老の男性が何の用か尋ねてきたので、自分の名前と今日から転入することを告げた。
「笹本先生、神崎くん来ましたよ。」
笹本先生と呼ばれて振り向いたのは気の弱そうな男性だった。
その男は優しそうな笑顔で「君が神崎玲くんかな?」と聞いてきた。
その笑顔を見て、なんとなく、生徒からは好かれてそうだなと感じた。
「はい、そうです。」
「そうか。君は2年1組で、私が担任の笹本だ。よろしく頼むよ。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
そうして、俺は碧が考えた新しい俺の設定を意識しながら笑顔を作る。
俺の可愛さを最大限に生かした笑顔…らしい。
俺はただフワっと笑っているだけなのだが、それが良いらしい…。
…まぁ、碧がそう言ったんだし、大丈夫だろう。
にしても、あれ?返事は?
そこでようやく意識が笹本先生にいく。
心なしか顔が赤い気がする。
…いや、気のせいだろう。
「あの、笹本先生?」
「…」
…大丈夫か?この先生。
「あの…?」
そう言いながら先生の目の前で手をふる。
するとようやく正気に戻ったのだろう。
顔を更に真っ赤にしながら「ななな、何かな?」と聞いてきた。
…いくらなんでも、どもりすぎだろ…。
「そろそろ教室に向かった方が良ろしいのでは?」
職員室にほとんど先生いないし。
言われてハッとしたのか、時計を確認した後、大急ぎで支度し、2年1組の教室に向かった。
教室に近づくにつれ、俺の頭の中はアイツでいっぱいになった。
やっと…、やっとアイツに会える。
クラスは同じか分からないが、ようやく俺はここまできたんだ。
走っているためだろう。
心臓の音がやけにうるさかった。
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