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さよならは君のとなりで


無意識だったのだろう。
じーっと見ていると

「僕の顔に穴を空けたいの?」

と言われてしまった…。


「君は誰?」

誰?誰とは、名前を聞かれているのだろうか。それとも何故ここにいるのかという質問なのだろうか。
少し考えながら結局名前を教えることにした。

「…神崎玲。」


「へぇ、綺麗な音だね。」

そんなこと言われてもどう喜べば良いのか分からなかったので適当にお礼を言っておいた。


「ところで君はどうしてこんなとこにいるの?その格好は病人でしょ?風邪引いちゃうよ?」


それを言うと彼も何故雨が降っているのにココにいるのか気になる。

「あんたはどうして?」


「僕?僕は、…それより僕の質問には答えてくれないの?」


そう言われて、ああ、そういえば彼の質問に質問で返してしまったなと気付いた。

「そうだったな。…俺は、復讐する方法を考えるためにここにいる。」

自分でも何故こんなことをアカの他人に言っているのか分からなかった。
引かれただろうか、そう思いながら彼を見るが変わった様子はない。というか、何を考えているのか全く予想がつかない。


「そう。確かにこんな牢獄みたいなところにいたら、さぞかし良い復讐方法が思い浮かぶだろうね。」


…どうやら気に入られたようだ。


その綺麗な顔を少しだけ悪そうな笑顔にしてからそいつはやはり気になったのだろう

「それで?君は誰に復讐したいの?」

と聞いてきた。
何故だろう。基本的に初対面のヤツは苦手な俺だが、彼に対しては不思議と初めから普通に対応できた。
だからか、彼になら言っても問題はないだろうと何の根拠もなく思った俺は、中学の時に月島悠斗から受けた例の仕打ちについて話し始めた。


その間もそいつの表情は変わることなく淡々と俺の話を聞いていた。それは人の挙動が少しだけ怖い俺にとっては居心地の良い空間であった。
俺が男を好きだということにも特に反応がなかったので安心した。


ただ、自分の余命の問題で時間がないのだと告げた時は、流石に少しだけ悲しそうな顔をしていた。同情されるのはイヤだと思ったが、同情などではなく、彼自信が悲しそうだったのであまり嫌な気持ちにはならなかった。



そして復讐の理由を全てを話し終えた時、彼は面白そうだから協力してあげると言った。

何か企んでいるのかと心配になったが、正直自分一人ではちゃんと復讐できるかどうか不安だったので、その申し出は有り難く受け取ることにした。


その瞬間から、彼は俺の共犯者になった。




「ところで、結局お前は誰なんだ?」


「さぁ、秘密にしておいた方が楽しくない?」


「そうか?じゃあせめて、お前の名前を教えてくれよ。これから何て呼べばいいんだ?」


「…そうだね。僕は碧。よろしくね、玲くん。」

そう言って彼は右手を差し出してきたので、俺も右手を差し出しながらこう言う。


「アオ?果たしてそれは本名なのか疑わしいが、とりあえずこれからよろしくな。俺の共犯者様。」

握手を交わした碧の手がもの凄く冷たかったことに驚いた。


雨はいつの間にか止んでいた。
空はまだ醜いままだった。

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