薄桜鬼 笑う女 「初めまして。雪村さんでしたっけ?」 腰まである長い髪。 大きな瞳に薄桃色の唇。 妖艶な笑みを浮かべた彼女は、杏樹と名乗った。 「なるほど、こんなことも生きていればあるのですね」 見慣れない服装をして、意味深な発言をした彼女は、不敵に笑いながら辺りを見渡している。 「まあっ、見てください雪村さん。こんなところに句集が落ちてありましたよ。暇ですし、一緒に読みませんか?」 ・・しかも、かなり肝が据わっているようだ。 「ふふっ、この方、俳句が苦手なのでしょうね。とっても個性的な句を作っていらっしゃる・・」 「ほ、本当に読んでいるんですね」 「ええ、面白いですよ」 短い間だけれど、この想像の斜め上を行く彼女の行動に、少し精神が落ち着いてくる。 「やっと笑いましたね。雪村さん」 はっとして、反射的に彼女を凝視すると、杏樹さんは楽しそうに笑っていた。 しばらくすると、井上、と名乗る新選組の方が杏樹さんを呼びに来た。 優しそうな方だったが、表情は少し険しい。 「また、会いましょうね」 こんな鬼気迫った状況なのに、あろうことか楽しそうに笑っている彼女は、ゆったりとした足取りで、井上さんの後ろを歩いて行った。 [*前へ][次へ#] |