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夏目友人帳
友人

「私の名前はあい。あなたは?」

「俺は…田沼要」

夏目の義妹と言っていたが、夏目と彼女は髪の色こそ違えど瓜二つだった。

「そう、あなたも視えるのね」

「ああ、影とか話し声だけだけどな」

そう言うと、夏目妹は静かに微笑んだ。

「よかった、あなたみたいな人がお兄ちゃんと友達になってくれて」


「おいおいおいおいおいィィィ!誰だ、あの可愛こちゃんは!?」

「羨ましすぎるぞ、田沼ァ!!」

全力俺も話してみたいぃぃと叫んでいる西村は、夏目妹を知らないらしい。

夏目妹のことを話すと、西村は夏目に会わせろ!とすごい勢いで交渉していた。


…あの子も、視えるんだよな。

確かにあの子は、夏目と同じように、少し周りから一線を引いているような、そんな独特の感じがした。

帰り道。夏目たちと別れて1人、夏目と夏目妹のことを考える。

俺も妖の気にあてられて、いろいろ大変な事もあったけれど、

夏目たちは以上にはっきり視えているから、もっと大変だったんだろうな。

そう思うと、彼らと巡り会えたことに感謝すると共に、何か力になれればいいなと思った。


「ここは、あなたがいるべきところではないわ」

神社に続く階段を上っている時のことだった。

何処かで聴いたことのある声がした。

上の方から聴こえてくる。

「××、あの子はあなたの憎んだ人の子ではないのよ」

【あなたの憎んだ人の子】…?

何の話だ。

息を潜めつつも急いで階段を上る。

そっと様子を伺うと、長い黒髪を持った12歳くらいの少女が誰もいない空間に向かって話しかけていた。


黒を基調とした着物。

赤い瞳。

風など吹いていないのに、さらさらと揺らめく長い髪。

整った顔は、誰かと似ていた。


「仕方が無いわね。少し頭を冷やしてきなさい」

そういうと、そっと誰もいない空間に手を伸ばした。

「ッ!!」

何処からともなく炎が現れ、まるで何かの動きを封じるように、ゆらゆらと動き出す。

不思議と恐怖は感じなかった。

しかし、ハッと思い出す。

父さんは…

父さんは無事だろうか…?!

「あなたの父親は外出中よ」

「う、わ」

俺の心を読んだような言葉。

突然目の前に現れた少女との近すぎる距離に少し、いやかなり驚いた俺を少女は無表情のまま、見つめていた。


「あ、あの、さっきのは、」

「あなたたちが引越してくる前に住んでいた人を恨んでいた妖がいてね、呪いをかけようとしていたから止めただけよ」

「…助けてくれて、ありがとう。でも、なんで…」

助けてくれたのか、

その言葉は言えなかった。

「人を呪わば穴二つ」

「人の世界には、そんな言葉があるでしょう」

「それは妖も同じなの。あの妖は、もともと人を癒す妖で、呪いなんてものは専門外。そんな妖が、よりにもよって禁術と呼ばれる類の呪いを使用しようとした」

「失敗すれば、あの妖が消滅する所の話では無い。この土地周辺は呪いの業火によって焼き尽くされることになる」

だから、止めただけ。

私はこの近くの妖だから。

私は人を助けたつもりはない。

そう言葉を続けた少女に、俺は微笑んだ。

「それでも、俺や父さんを救ってくれたことには変わりないんだ。本当にありがとう」

少女は、何も言わずに消えていった。


妖って、悪いヤツらばかりではないんだな。

友人のことを思い出しながら、俺はそう実感した。

(あの妖、今からしてみれば夏目妹にすごく似ている…夏目妹の方が大きいけれど)

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