夏目友人帳
名前
草木も眠る丑三つ時。
そんな時間に起きているのはある12歳くらいの小柄な紅眼の少女だけだった。
黒を貴重とした着物をきた少女は静かに青年と猫(の姿をした妖)の眠る部屋に立っていた。
「友人帳、ね」
手に取ってみると、作成者の残留思念が少し見えたようだ。
いつの間にか少女は涙を零していた。
「忌々しい力が、まさか伝わっていたなんて」
ペラりペラりと少女はページをめくった。
その中に顔見知りの妖怪がいたのだろうか。
少女は名前の書かれた紙を数枚ちぎり、口にくわえてパンと手を合わせた。
「笹舟、時雨、如月…あなたたちに名を返します」
名前はお礼をするように少女の周囲を何度か回ると、暗闇の中に消えていった。
「お前、何者だ」
「あなたは、斑ね」
「質問に答えろ。…なぜ、名前を返せる。レイコの血縁者はこのガキだけのはずなのに」
警戒する様子の斑と落ち着いた様子の少女。
明らかに異常な状態だった。
少女は斑の質問が聞こえていないようだった。
「斑…私とあなたは随分と昔に逢っているのだけれど、覚えている?」
「…まさかッ」
「さようなら、斑」
時間が来てしまったのだろうか。
体が闇に溶けるように薄くなって行く。
斑が少女に手を伸ばしたが、少女は薄く笑って消えた。
「…お前はまだ人を恨んでいるのか」
その質問に答える者は誰もいなかった。
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