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夏目友人帳
祓い屋名取

場所は旧家。

開ければ呪われるという開かずの蔵があった。

しかし、財政難となり、質屋を呼んで主人共々蔵の中を物色。

それ以来、蔵を開けた質屋は毎夜うなされ、事故に遭いかけるなど、不吉なことが起っている・・

とのことだ。

その原因が妖らしい、と名取さん達は言っていた。


「相変わらず、名取さんの考え方はあまり賛成できないな」

「まあ、確かにお前が甘っちょろい、というところに限っては名取の小僧に同意するがな」

首に縄が巻かれている妖がターゲット・・


「君のことだったんだね」

ほどけそうだった包帯を巻いているおれを妖は、どこか懐かしそうに見つめていた。

「・・お前のような視える人の子が、これを巻いてくれたんだ」

「人の縁とは面白いものだ。あの子が祓い屋として、またこの町に戻ってくるなんて」

「あの子の手柄になるのなら・・喜ばしいことだ」

あの後、家に帰ったけれど、静かにそう語った妖が脳裏をよぎって離れなかった。

・・本当にあの妖を払っていいのだろうか。

名取さんにとっても、きっとあの妖は祓ってはいけない大切な・・

大切な、なんなのだろう。

名取さんの様子からして、あの人は妖を恨んでいるようだった。

頭がどんどんこんがらがっていく。

その日はなかなか眠れなかった。


「自由のない妖怪らしい。やはり、払ってやらなければならないだろう」

名取さんの言葉に全身がどくりと嫌なものが駆け巡る。

やめさせないと・・!

走り出した瞬間だった。

「邪魔をされては困るね。そこで大人しくしていろ」

長い髪の毛で拘束されて動けない。

クソッ!来てはダメだ!!

それなのに、ゆっくりとあの妖はゆっくりとこちらへ歩いてくる。

その足取りは、とても穏やかで、敵意など微塵も感じない。

「待てッ!待つんだ妖!!」

ついに、彼女は陣の中に入ってしまった。

名取さんは呪文を唱え始めている。

おれは無我夢中で髪を引きちぎり、妖の元へ向かった。

名取さんの叫ぶ声とニャンコ先生のぬくもり。

驚く妖の手を握って、おれは目をつむった。

光に包まれる。

何かが壊れる音がした。


【人の子にはね、不幸を招く力などないんだよ】

【お前は優しい子だよ。優しいただの子供だよ】

【だって私はお前に会えて、こんなに嬉しかったのだから】

優しくて、温かくて、あまりにも切ない妖の記憶。


目を開けると、ぼろぼろになりつつも、首の呪縛が焼き切れた、自由な妖が寝転んでいた。

そして、おれのために身を張って守ってくれた先生も。

「あの妖だったんだなあ」

「五分五分だと思っていたんだ」

「呪縛から逃れられない哀れな妖怪なら、ひと思いに逝かせてやりたかったし、一命を取り留めて首の呪縛が解けたなら、自由にしてやりたかった」

名取さんは、じっと妖を見つめていた。

その瞳はどこか、心配そうだった。

「すまない、夏目。君をこんな風に巻き込みたかった訳じゃないんだ」

「君を見ていると、昔の自分を思い出して・・何かを伝えてやれるんじゃないかと」

「ただ、話をしていたかったんだ」

妖からおれに視線を移し、おれの目を見ながら何かを絞り出すようにして話す名取りさんを見ていると、おれはいつの間にか、笑みを浮かべていた。

「はい、僕もです」


「気は済んだの?祓い人の名取」

「君は・・」

「妖ッ!!主様に近づくなッ!!」

急におれの真後ろに現れたらしい妖怪に、笹子と瓜姫が警戒して名取さんの前に現れる。

おれも反射的にニャンコ先生を抱きしめて、後ろを振り返った。


「え・・」

おれは言葉を失った。

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