短編集 沖田に恋する妖主(薄桜鬼)6 彼に会わないようにしてから何年か経ちました。 けれど、どうしても彼に会いたくなる日は遠いところから、彼の視界に入らない場所で、彼を観察するようにしていました。 彼は"こんどう"という人間をとても慕っているようでした。 また、その人間も彼を弟のようにかわいがっているようでした。 __良かった。彼はもう一人じゃない。 __元気そうだった。寂しくなさそうだった。 安心する反面、胸の奥はどこかズキズキしています。 __そっか。寂しいのは・・私だったのか。 気づいてしまえば、もうどうすることも出来なくなり、ただ彼が笑うところを、剣を振るところをじっと飽きずに見ることにしました。 ・・大丈夫。今日は晴れの日。彼は私を視ることはできない。 そう言い訳をして、最後に彼が言った"来るな"を守っていました。 しかし、ある日彼はいなくなりました。 花を摘みに行っているときのことでした。 どうやら刀とその身だけで、京へ行ったらしい、と狐の妖から聞きました。 私は悩んだ末に彼を追って京へ行ってみることにしました。 ・・人の一生は妖の私にとってはとても短いものです。 ・・だから少しくらい旅として、彼という人間を観察するのも悪くないと思ったのです。 何度も道に迷い、そのたびに妖たちから情報をもらい、また道に迷うを繰り返してしばらく。 もう人の時間だと数年は経ってしまったかもしれない。 己の方向音痴さを嘆きながら、京を歩いていると、ついに彼の"気"を見つけました。 疲れを忘れて駆けだして。 ただただ夢中で走りました。 【新選組】 どうやら、彼以外の人の"気"も感じますが、確実に彼はここにいるようです。 しかし、私は門の外から様子をうかがうことしか出来ませんでした。 なぜなら天気は曇天。 今にも降り出してきそうな雲行きの悪い日だったのです。 もう今日は帰ろう__ そう思ったときに、人の子から話しかけられました。 「どうかされましたか?」 [*前へ][次へ#] |