短編集 沖田に恋する妖主(薄桜鬼)3 あれから私は彼の住む試衛館に住み着くようになりました。 そして、決まって雨がふると彼の前に行くのです。 「お、おい!人の子!私が視えるのだろう!」 「て、手伝えばいいのか?」 しかし、相変わらず彼は私を見てはくれません。 でも、ちゃんと視えているようでした。 必死になって呼びかける私が面白かったのでしょう。 時々、声を押し殺しながら笑っている彼を見て、私は嬉しくなりました。 「なぁ、人の子。お前の名前はなんというのだ」 その日、気まぐれでそんなことを聞きました。 どうしても彼の声が聞きたかったのです。 聞いて、私がそれに答えて… そう、私は彼と会話をしたかったのです。 でも答えてはくれないだろう。 そう思っていました。 「知っているんじゃないの」 彼は道場の床を磨くため、私に背を向けていました。 しかし、その声は正しくあの日あの場所で聞いた声と同じでした。 少し刺々しかったけれど、ちゃんと答えてくれた彼。 私は嬉しくて飛びついてしまいました。 「ちょ、何するのさ」 「…やっと、話してくれた…!」 抱きつく私を恐る恐る支えてくれた彼は、少し驚いたように見えました。 そして、くすりと笑って雨に濡れる私の髪を撫でながら、 「宗次郎だよ」 それから、彼は私と話してくれるようになりました。 [*前へ][次へ#] |