短編集
沖田に恋する妖主(薄桜鬼)2
「おい、人の子!お前、私が見えているのではないのか!!」
雨はまだ降り続いています。
私は雨に濡れながら、道場の掃除をしている少年に呼びかけました。
けれど、あの子は私を見てはくれません。
黙々と掃除をしています。
「仕方ない。この私が手伝ってやる」
こんなことを言いたいわけではないのに。
つっけんどんな態度を取ってしまう自分に嫌になりながら、私は道場に近づきました。
こんなに近くにいるというのに、あの子は相変わらず見向きもしてくれません。
・・本当に私のこと、見えていないのかもしれないな。
そう思いましたが、こんな広い道場を1人で掃除している少年を可哀想だと思ったので、仕方なく手伝ってやりました。
雨はどんどん激しくなっていきます。
こんな中、雨に濡れて帰るというのはとても疲れてしまうと思って、道場の縁側で休ませてもらうことにしました。
あの少年はもういません。
きっと部屋に戻ったのでしょう。
少し寂しいな、と思いつつ私は雨がやむまで、縁側に座っていました。
道場を出て帰ろうとしたとき、ふと道場の入り口に丁寧に畳まれた手ぬぐいがあることに気がつきました。
「なんだ、やはり見えていたのではないか、人の子」
手ぬぐいを手にとって抱きしめると、あの少年の匂いがしました。
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