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TITLE DReaM
ジャンプして、たった一瞬空を飛ぶ
 
※シリアス→微々々々々甘








「らび、空、連れてって」


最近のお決まり。

あたしが任務から帰って来る度の、お決まり。



体を休めるよりも、食事を取るよりも、お風呂に入るよりも先に。


彼の元へと、急ぐ。




「ん、じゃ、行くさ憐香」


今日も、彼は荒々しく図書室へと飛び込んだあたしに穏やかに言葉を返してくれた。









「今日は空が青いさねー」



体中を包む爽快感。

眼下に広がる町並み。

ラビの温もりと、雲と空。


彼の槌に乗り、今日もあたしたちは皆に内緒で、外へと。逃げ、る。


そうだね、と感情なしに答えて、ぎゅっっと力いっぱい、けれど少し控えめに彼に抱きついた。




「あのね…」

「ああ」



声が震えるあたし、落ち着かせるようになのか、一秒と開けずに聞こえる彼の相槌。



ラビといると落ち着くのは、あたしに対する思いやりを最低限に抑えていてくれるからなのかもしれない。

…人に、心配されるのは、あまり、好きじゃ、ないんだもの。




「シンガポールに行ったの」



声が、意識せずにか細くなっていく。



「イノセンスはなくて。

でもAKUMAはいっぱいいて。

一緒に任務に就いたクロウリーは、イノセンスがないって分かってすぐに他の任務にいっちゃって」


「…へぇ」


「ファインダーさんがね、2人いて。


私、2人をAKUMAから助けたかった。
逃げてって、叫んだの」



普段は口数が少ないあたしだけど、この時だけは、素直になれる。本音を話せる。


他のみんなが見たら、今のあたしの姿は驚異する対象になるのかな。

軽く心の中で苦笑する。



「AKUMAを破壊して、辺りが静かになって。全部が殺風景に変わってて。

私、ファインダーの2人探した…」











だけど。



「AKUMAになってたの、ファインダーの一人…マリーが自分のパートナーに銃を向けてた。

自分が、愛してた、ジャックに。彼女の顔で、彼女の姿で、彼女の声で」


自分を一番愛してくれた人を、殺そうとしていた。

自分が一番愛していた人を、殺そうとしていた。



やるせなさに耐え切れなくて、唇をかみ締める。






と、ラビのイノセンスが不意に止まった。空を駆けなくなった。

同時に、鼓膜に纏わりついていた、風を切る音も止む。

遠くで聞こえる町のざわめきだけが聴覚を占める。



何故、止まったのか聞くのが億劫で。

あたしはそのまま、話を続けた。




「AKUMA、破壊した。ジャック、助かったの。


けど、私、言われちゃった、


『何で俺だけ殺さないんだ

なんでマリーだけ殺すんだ

この、人殺し!!!』


って。


私にとっては、マリーを壊す。

けど彼にとっては、マリーを殺す。


私、結果的に2人とも、助けてあげられなかった」





無口で、冷静で、冷淡で、強くて。

きっと、皆にはそう思われているあたし。



だけど、本当は、あたしだって皆を助けたいと思う。

突きつけられてくる言葉の刃に、傷ついたりする。



あたしは、本当は…



「私、本当ッ、弱い、ね…」





気づけば、あたしは涙声で。

泣きながら、ラビに抱きついてるあたしは、彼に縋っている様で、嫌気がさした。


情けないなぁッ…あたし。

誰一人守れなくて、弱くて。

ラビにも、皆にも、迷惑ばかりかけて。


そう思ったら、いてもたってもいられなくて。










無意識のうちに、ラビから手を離してた。





「ッ!!憐香!?」


瞬間、ラビが振り返り、こちらに手を伸ばす。


ラビが遠くなって、何かに引っ張られるみたいに堕ちていって。


鼓膜には、再び、風を切るあの音が響いていた------



























「フゥ、捕まえたさ」


ひらひら、マフラーがはためく。



随分と勝手なことしてくれるさねー、と怒り口調の彼からは、怒りも殺気もまったく感じられなくて。


遥か遠い地面に背を向ける体制で私は、片手で槌につかまっているラビと、宙に浮いていた。




いつの間にか引っ込んでいた涙に、少し驚き、今自分がしようとしていた事に、驚き。





「ね、ばかかな、あたし」



突拍子もない質問を、苦笑交じりに彼に聞いていた。


驚く事に、彼は私が予想だにしなかった答えを微笑と共に口にした。



「断言するさ。憐香は大ばかさ」





呆気にとられたように、眼を丸くする私を確認して、彼は話を続ける。




「自分は一人じゃないってことに気づいてない。ていうか、本当に気づいてすらいないし、気づこうとすら思わない。


知ってるさ?

任務後に憐香の様子がおかしいって、みーんな気づいてる。




けど、お前は他人に自分を手伝わせようとしないから。

全部、自分で出来るって思ってる。だから、大ばかなんさ」



淡々とゆっくりと言い聞かせる、ように。言葉を紡いでいくラビ。

その瞳は、いつの日か仲良くなったファインダーのダグが言ってたように、ガラス玉みたいな瞳じゃなかった。






「皆、憐香の事、だいすきなんさ。

んでもって、オレも」


言い切って、ニッコリ、笑った。





「……ラビはばかだね、うん、ばかだよ」



「ははっひどいさ!!

…でも、憐香が笑ってんなら、バカでいい」






さっき、乾いたはずの涙がまた、瞳に膜を張り始める。




「ばかばかばか、ばか」




今にも壊れそうな涙腺を我慢できず、はらはらと大粒の涙が頬を伝う。




「……ッッらびぃっ!!」


あふれ出る感情を抑えきれず、彼の肩に顔をうずめて泣いた時、ひときわ強い風が通った。






解放感が横切ったようで、また涙があふれ出た。











お題サイト様→


駄文失礼します。



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あきゅろす。
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