EternalKnight
<黒き翼>
<SCENE069>――昼
絶え間なく鳴り響いていた金属の衝突音は俺が近づくとピタリとやんだ。
「へぇ……動けたんだ?……それにしても、その黒い翼は一体なんだい?」
黒い翼?……叶の意識が無いから色が変わってるのか?
(そんなことは後だ、主よ。今は目の前の男を倒すことだけ考えるがよい)
そうだな……
「無事だったのか、翼」
「聖五さん……兄貴は、俺一人で倒します」
「無茶だ、会長はあのときよりさらに強く――」
その言葉を遮る様に告げる。
「大丈夫です。俺は……負けません」
「あはは、あはははは。大した自信じゃないか」
「自信じゃない、俺はお前より強い。これは曲げようの無い事実だ」
――兄貴の表情が変わる。
「なんだ……死にたいのか、お前。だったら殺してやるよ」
限りなく殺意が込められた声でそう兄貴は呟いた。
瞬間、兄貴の体全体に青い光の筋が走るように描かれていく。
ラインが全身を包んだその時、兄貴は動き出した。
疾い……けど今の俺には十分についていける速度にすぎない――
「Elder――」
左に回りこんだ兄貴が黒い剣を振り上げ、振り下ろす。
ほぼ同時のタイミングで剣指を結んだ左手をかざして力の名を告げる。
「――Sign」
瞬間、黒い剣と黒い五亡星が衝突し、均衡する。
「馬鹿な……どうして僕の動きについてこれるんだ!」
「言っただろ、俺はお前より強いってな」
「……っ動きについて来れた程度で、図に乗るなぁ!」
兄貴は左手に握られた銀の刃を均衡する黒に叩き付けた。
その一撃で五亡星が軋む……
っ……防御陣が破られる前に、こっちから攻撃を仕掛ける。
「Shining――」
『《雨》よりも……《嵐》の方が強力』
「――Storm」
そう紡いだ瞬間――否、実際に意識して紡いだわけではない。
何かに突き動かされて、そう告げただけ。
だがしかし、力の名を紡いだ瞬間、翼が、大きく羽ばたいた。
飛ぶためではない、単純に黒い羽を撒き散らすため――
そして、飛び散った羽は黒く輝く光になり、嵐のように兄貴に襲い掛る。
「っ――EndOfGlacier」
瞬間、兄貴が継げた言霊が力となり氷の弾丸を生み出し、それが射出される。
――だが、少ない。
こちらの光の数は百に近いが、氷の弾丸は十数発でしかない。
勿論、そんな数の氷の弾丸で全ての黒光弾を落とせるはずも無い。
だがしかし……所詮、この技は質よりも量。氷の弾丸とは強度が違いすぎる。
詰まる所、氷の弾丸の射線上にある全ての弾丸は氷の弾丸にかき消されてしまうのだ。
このままじゃ、量が少なすぎて大したダメージにならない……
『否、《嵐》と《雨》は違う、故に告げろ――』
そんな脳内に響く声に突き動かされ、叫ぶ。
「っ――荒れ狂えっ!」
瞬間、直線的に兄貴に向かっていた光弾の動きが変わる。
今までを光弾の動きを雨とするなら、まさしくその動きは嵐と呼べる程だろう。
光弾は不規則に軌道を変えて、兄貴に迫っていく。
そして、七割程までに減ってはいたが、十分に効果を与えられるほどの光弾が兄貴に降り注がれた。

<Interlude-蒼二->――昼
「っ――EndOfGlacier」
迫る光弾を打ち落とすために技の名を告げ、力を解放する。
瞬時に氷の弾丸が右手の黒剣の周りに十七発形成され、打ち出される。
少しでも、あの弾丸の数を減らさなければ……
一発にどれほどの威力があるか分からないが、あの数は半分受けるのも恐らく相当つらい――
幸い光弾は直線にしか進まないようだ……ならば。
うまくEndOfGlacierで打ち落として数を四分の一以下にしてみせる。
「っ――荒れ狂えっ!」
翼がそう叫んだ瞬間、光弾は今までの直線的な軌道を突然放棄して、予測不能な軌跡に切り替わった。
馬鹿な!? これじゃあ、黒い光弾の数を減らすなんて無理じゃないか――
そして、氷の弾丸を掻い潜った幾つもの黒い光弾の先頭の一つが直撃する。
――衝撃が全身に響く。
っ……一つでこの威力、残り全てを受けるのはまずい。
思考が加速していくが、それでももう考える時間はほとんど残されていない。
落ち着け、この状況をどうにかする術が何かあるはず――
――いや、あるじゃないか。僕にはあの光弾を防ぐ術が。
名を告げるまでに後十発は食らうだろうが、全弾食らうより遥かに良い。
思考の加速は止まり、通常の思考速度となる……だが、もう結論は出ている。
「――っDestruction」
力の名を告げる。それは本来《終末》の力だったモノ。
瞬間、僕に迫っていた光弾は見えざる何かに分解されるかのように全て霧散していった。
……どうして僕はこんなに必死になって戦っているんだ?
……どうしてだ? 何故僕が……翼如きに苦戦しなくちゃいけない?
もっと、僕のほうが圧倒的に強いはずなのに……
――力が足りない。思えば思うだけ強く成れるなら、まだまだ強くなれる筈だ。
もっとだ……もっと、もっと、もっと……より強い力を手に入れる!
瞬間、目の前がブラックアウトする。
『――力が欲しいか?』
――いらない。誰かの力なんかいらない。僕は僕自身の力が欲しい。
『だがしかし、汝一人で得たれる力はそこが限界』
限界だと? 何故そんなことが分かる。それ以前に貴様……何者だ?
『我は汝に力を与えるモノにして、汝の奥底に潜むモノ』
……僕の中に潜む?
『そうだ、我は汝の魂の奥底で混ざり合い、決して気づかれぬ様に潜むモノ』
……それが何故今頃になって出てきた。
『何、我が目的を果たす準備が整っただけの事』
ふん……まぁいいさ。僕の中にある力なのなら、使ってもいいだろう。
『そう、それでいい。それこそが我が目的を果たす鍵となる』
……なんでもいいさ。僕がより優れた存在になれるなら――
『では、我が存在を認め、我を受け入れよ……我が名は……《破片》』
あぁ、受け入れてやるさ。……つまりこう言うことだろ?
お前が初めから僕の中にあったって事は、つまりは僕は選ばれたモノって事なんだから。
そうさ、選ばれた人間である僕が翼ごときに劣るはずないんだ。
『さぁ、準備は整った。汝の力を翼に見せてやるといい』
あぁそうだな――
瞬間、ブラックアウトした視界が元に戻る。
「今のは……なんだ?」
突然翼がわけの分からないことを言う。
「今の? 何の話だ?」
「ふざけるな、俺の攻撃を止めたさっきの何かの話だ」
あぁ、なんだ。どうやら先程の《破片》との会話は外の時間とは関係がなかったようだ……
「何でもいいだろ? お前はもう死ぬんだ」
「……言わなかったか? 俺の方がお前より強いってな」
「僕よりお前が強い? まだそんな寝ぼけた事言ってるのかい?」
「寝ぼけてなんていない。現に今のだって、さっきの力があると分かっていれば別の手段を使っていたさ」
「あぁ、そう。なら僕はそれ以上の力でお前をねじ伏せてやるよ」
「やれるもんならやってみろよ」
ふん、翼と話しても時間の無駄になるだけか……
……瞳を閉じ《破片》を受け入れようとする。聞こえてくる翼の声を完全に聞き流す。
――《破片》僕の魂と溶け合っている力。
さぁ、《破片》よ、我が力となれ……僕はお前の力の全てを受け入れてやる。
『そうか……ならば我が力、魂、同化して尚見れぬその全てを受け入れるがよい』
そんな声が聞こえた瞬間、意味の分からない膨大な文字が情報が脳内を駆け巡る。
そこで僕の意識は――

<SCENE070>――昼
「……言わなかったか? 俺の方がお前より強いってな」
「僕よりお前が強い? まだそんな寝ぼけた事言ってるのかい?」
「寝ぼけてなんていない。現に今のだって、さっきの力があると分かっていれば別の手段を使っていたさ」
「あぁ、そう。なら僕はそれ以上の力でお前をねじ伏せてやるよ」
「やれるもんならやってみろよ」
……そんな力があるとはとても思えないがな。
突然、兄貴は目を閉じる。
「っ……何様のつもりだ!」
「……」
反応が無い……だと? ふざけやがって。
「なら、てめぇが調子に乗ってる間にぶっ潰す!」
瞬間、地面を大きく蹴り、同時に《堕天》の力を乗せて突進するかのような勢いで兄貴に迫り――
「――ShadowBane」
――詠唱。紡ぎ終えると同時に右手に黒く光る刃が顕現する。
「はぁぁぁぁっ!」
叫びをあげながら迫って尚、瞳を閉ざし、構えすら取らない。
――ためらう必要なんて、あるか!
そのまま刃を兄貴の胸へ突き刺すように伸ばす。
だが……胸は貫けない。俺が貫いたのは……兄貴の左肩。
「っ……くそがぁ!」
肩にに突き刺したままの黒い光の剣を叫びながら引き抜く。
未だに人を殺すという事に抵抗を覚える自分に腹が立つ。
だがそれでも、もう人でないと解っていても貫けない。
人以外モノの命を奪う事に何の抵抗も感じないのに……
ただ、人の形をしているだけで……どうしても殺す事が出来ない。
『そうか……』
《堕天》の声が心に響く……その声はどんな意味を持っていたのか。
「ははは、あははは!」
突然、兄貴が笑い出す。
「せっかくチャンスをやったのに僕を殺せないのかい?」
「っ……」
「まぁいいさ。なら手を抜く事も出来ないように、本気で相手をしてやるよ」
「何?」
「後悔するが良いさ、我をさっきの一撃で倒せなかった事をね!」
そう兄貴が言った瞬間、その体に蒼い光のラインが走り出す。
またアレか?……いや、違う?
今までは幾何学的だった光のラインが今は血脈のように全身に描かれている。
次の瞬間、兄貴の体が崩壊して黒い光の粒子となり兄貴のいた場所には、蒼い血脈だけが残る。
そして、飛び散った黒い光は、蒼い血脈を幹にするように収束していき、やがて二足歩行の何かの形を象る。
勿論ソレは、間違っても人間と呼べる代物ではなかった。
大きさこそ大して変わらないもののソレは完全に人外の怪物。
蒼と黒で彩られた肌とも鎧とも取れるモノに覆われた全身。
腕に握られるのではなく、腕と一体化した黒と銀の二本の剣。
そして背から生えた白い羽……そうソレはまさしくバケモノ。
「そんな、バケモノの姿になってまで、俺を殺したかったのかよ……なぁ、兄貴」
「―――――」
兄貴だったバケモノの口が動き何か喋っているが、甲高い音が途切れ途切れで聞こえるだけでなんと言っているのか聞き取れない。
すると、すぐに頭に直接響く音が聞こえてきた。
【あぁ、そうだ。僕はずっとお前を殺したかった!】
「俺を殺すためにソノ姿になったのか……だが、ソレは間違いだ。その姿なら、俺はお前を殺せる」
何のためらいも残らない――
【やってみろ! 出来るものならなぁ!】
瞬間、兄貴だったバケモノの姿が視界から消える。
――なっ……知覚できないだと?
……気を抜きすぎたのか?
「――ぐっ」
突然、腹部に激痛が走る。焼けるように熱い……どうなってるんだ?
視線を腹部に落とすと、そこからは血が流れだしていた。
「――なっ……」
馬鹿な……一体いつやられたんだ? あり得ない、真正面からの一撃を知覚できなかったなんて……
そうしている間にも、血は流れ、少しずつ淡い光の霧を放ちながら消えていく。
――痛い。痛みでより頭が回らなくなる。
なんでだ? 淡い光を放ちながら血が蒸発するだと? あり得ない。どうなったんだ、俺の体は?
――痛い。血が霧のように消えていく事に、恐怖を覚える。
くそ、なんだよあのバケモノ、このわけのわかんねぇ事もアイツのせいなのか?
――痛い。思考能力は低下し続ける。
だめだ……何も考えられない。考える余裕が無い
――痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
くそ、こんなところで死ぬ事になるのかよ……俺はまだ兄貴を殺せていないのに――
――痛い。なんで俺がこんな痛い目にあってるんだ?
瞬間、とてつもない衝撃に襲われ、何かが砕ける音が聞こえた。
――痛い。さっきよりもさらに痛い、痛い、痛い、痛い……耐えれない。
欲しい……もっと力が欲しい。兄貴を超える力が欲しい。
この痛みを俺に与えた兄貴を超越する力が欲しい。
『ならば、より強く我を受け入れるが良い、さすれば更なる力が得れよう。』
痛さでまともに思考できなくなった脳に声が響く。
……それで強くなれるのか? 《堕天》?
『無論だ、少なくとも、汝の兄以上の力は得られる。これは確実だ』
解った。お前の全てを受け入れる……俺に更なる力をくれ!
『契約はここに成立だ……さぁ新たな領域へと進み……我が力の礎となれ』
――何?
瞬間、俺は深い闇の中へと引きずり込まれた。

――to be continued.

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