EternalKnight
弐話-4-<制限解除>
<Interlude-ラビ->――深夜
壁を粉砕し、巨人が現れる。が、しかし――現れたのは地を蹴り滞空している私の目の前。
勿論、それを見越しての行動であり、右腕は既に攻撃出来る様に構えられている。
そして――《近接形態》となった右腕による一撃を、隙だらけの巨人の左肩に叩き込んだ。勿論、それは拳での一撃では無い。
質量差から考えて、そんな事はするだけ無駄だ。――が、事実として、その一撃で機動兵器は後方へと吹き飛んだ。
そう《近接形態》はその名の通り、こと近接時の攻撃において、頂上的な破壊力を発揮する武装である。
ナノマシンにより生み出される金属を圧縮し、超重量の金属槍を組上げて、それをエーテルを使い、超加速させて打ち込む武装。
《パイルバンカー》――それが超近接時にのみ使用可能な、圧倒的な破壊力を生み出すこの右腕の《近接形態》に備わる力の正しき名称。
滞空していた私は、そのまま重力に引かれて地面に着地する。
着地して、前へと向けた視線の先に――左肩の吹き飛んだ……すなわち左腕を根元から無くした機動兵器の倒れている姿が映った。
その姿を視界に納めつつ《可変腕》の形態を《銃身・収束形態-BarrelFormConverge-》へと変化させる。
隙を突いた一撃目以外で、機動兵器相手に接近戦を挑むのは無謀だからなのだが、果たしてこの《収束形態》で装甲を打ち貫けるのか――
打ち貫けないのなら、再び近接戦闘に切り替えてアレを使う意外に道はないだろう。
――もっとも、例え効いても相手の性能しだいではアレを使わなければいけないのだが。
そうして、右腕の可変が完成する頃には、左腕を失った鋼の巨人も立ち上がっていた。
人型を模す兵器にとって、腕一本を無くす事は相当なペナルティと言える。
兵装の自由度――汎用性を高める為に人型をとっている以上、腕一本が担う役割はとてつもなく重い。
故に、目の前で立ち上がった機動兵器の脅威は、本来の60%程でしかない。
コレでアレを使わなければならないようなら、今回の作戦を行なった成果はとてつもないモノだと言えるだろう。
何せ、60%でアレを使わないと倒せない程の相手を根絶やしにした事になるのだから。
――と、そうこう考えている間に、目の前の機動兵器が残った左腕に収まる銃身を持ち上げる。
見た感じでも直径50ミリはありそうな銃口が私へと向けられる。
ネスの大型弾丸の半分程度だとは言え、恐らく当れば装甲云々以前に、内蔵(なかみ)が無事では済まないだろう。
「……当れば終わり、か。でもそんなモノ、当る前に片をつければそれで済む話じゃないか」
それ以前に――ルアを殺す原因を作った奴等を殺し尽くすまで、私は……死ぬわけには行かないのだ。
自身の戦う理由を再び胸の内に響かせながら、右腕を掲げる。
その腕には既に金色の光が収束しており、開放される瞬間を……打ち出される瞬間を、今か今かと待ちわびている様にも見える。
そして、巨人の腹の中心――今までの機動兵器と同じならコックピットに当る部分に向けて、金の光を解き放った。
それは弾丸より早く、されど光よりは遥かに遅い……エーテルと呼ばれる力の塊。
放たれた光は、僅かに反応して動いた機動兵器の右上腕に直撃し――その上腕を貫通とまでは行かないが抉り取る事に成功した。
機動兵器が負った右上腕の損傷――アレだけ抉れれば腕が動く事はまず無いだろう。つまり、この勝負の分は九割以上こちらにある。
後は――残っている足などで踏みつけられぬよう、距離を保ち《収束形態》で攻撃し続ければこちらの勝利は確定と言える。
「右方向に避てればまだ何とかなったのにな……」
そう小さく呟いて、余程の切り札でも出されない限り、決して負けの無い……一方的に攻撃を仕掛けるだけの戦いが始まった。

<SCENE019>――深夜
さて、左手、左足を切り落としたが、俄然不利なまま、か……
向こうは一撃でこちらを仕留められるほどの射撃兵装を持って、こちらは一撃じゃ決まらない接近兵装しかない。
相手が動けないとは言え、不利といえば不利……か。さて、どうする?
アレを使えば恐らく直ぐにでも片は付くんだが……こちらの負担も半端じゃない以上、あまり使いたくは無い。
以前使った時は、効果が切れてから翌日まで意識を失ってたし、そのさらに前……最初に使った時は二日間も意識をなくしていた。
だけど、だからと言って手を拱いている訳には行かない。故に――ブレードを握ったまま、イヤホンのボタンを押して、通信をつなげる。
すると、イヤホンの向こうから『どうしたのネス、何かあった?』と、セリアの声が聞こえてくる。
それに「《制限解除》を使う。ラビでもケイジでもいい、増援を送ってくれ」と、簡潔に用件を告げて、返事を待たずに通信を切った。
位置は伝えなくてもセリア側から確認できている筈なので、わざわざ位置を伝える必要は無い。
ラビ達がココに来るまで後でどれくらい掛かるかは分からないが、今すぐにでも、目の前の巨人を排除する。
そう決めて、ブレードを持ったままの左手で、胸部強化外装甲の首の裏の位置に付く、小さなボタンを強く押しこんだ。
瞬間、首筋に小さな痛みが走る――それは、針で刺された小さな痛み。そして、そこから体内に異物が流し込まれる。
首筋に打たれた異物は、直ぐに脳へと効果を及ぼす筈だ。
持続時間は過去二回の経験から言って、おおよその目安しか解かっていない。最初の使用では37秒、二度目は51秒。
時間がはっきりしないのなら、出来る限り早く倒すのみ――20秒、それだけ在ればいい。
瞬間――解き放たれたのが分かった。それは、己が身を守る為につけられた枷からの開放。
――肉体は、本来持つ力を僅か30%程度しか使わずにいる。それは、不必要な負荷を与え無い様に、無意識に行なわれる自衛機能。
だがそれは、裏を返せば負荷があれば、まだ使える力が70%も有る、と言う事でもある。
そして体内に流れ込んだ異物は、脳に作用し、一時的にその自衛機能を働かせなくする薬物。
時間が過ぎていく、効果が現れてからおよそ6秒は既に過ぎてしまった――早く、倒さなければ。
普段は全開で使えない高速の思考能力を最大限に使用する。全身の機能が開放された今ならば、その力を余すことなく使用できる。
瞬間、自衛機能から開放された力で地面を蹴る。一足目で巨人の懐に跳び、刃を構えてから二足目で巨人の右肩を目指して跳ぶ。
更に、到達した巨人の右肩をすれ違い様に割き、切断面が斬り落ちる前の右肩を三足目の足場とし、後方に跳躍する。そして――着地。
コレで経過時間は累計約8秒。敵を完全に撃破する。否、しなければ、この効果が切れた瞬間が俺の敗北となる。止まる訳にはいかない。
着地して1秒程で、もう一度踏み出した。
――それと同時かそれより遅く、巨人の右腕がその質量が如何に強大であったか示すかのように轟音を立てて地面に落ちた。
無論、俺が先ほど切り落とした腕だ。――コレで、奴に武装はない。後はただ、中に居る者を始末するだけ。
そして、再び懐にもぐりこみ、両手のブレードを仕舞おうと強化外装甲を展開させる。
愚鈍なまでにゆっくりと、両腕部の強化外装甲がブレードを収められるように展開していく。――遅い。
1秒程度で展開するそれも、全身のあらゆる性能が強化し、高速で思考する俺にとっては愚鈍な動きにしか見えない。
故に、その場で両手のブレードを手放し、空いた右手で無骨な銃身を引き抜き、左腕で機動兵器の腹部にあるハッチの隙間に指をかける。
累計時間が俺の感覚ではおよそ10秒。目標までの残り時間を考えれば余裕と言える。――だが油断は絶対にしない。
強化外装甲で覆われた左腕の力で、閉じた状態のハッチを強引にこじ開けるように、力を込める。
頑丈に作られたハッチが、ミシミシと音を立てて歪み、徐々にコックピット内部が顕になって来る。
効果発動から累計14秒――まだ時間はある。腕に掛ける力を更に強くすると、遂に……ハッチが完全に外れ、コックピットが顕になった。
瞬間、弾丸が打ち出されるのが見え、咆哮が聞こえた。それは紛れも無く無骨な鉄が鉛を吐き出す時に聞く咆哮――
その弾丸を、胸を反らす事によって回避し、右手に握られた無骨な銃身を機動兵器の搭乗者の額に突きつける。
同時に、空いた左腕で相手の銃身を掴み、銃口を俺に当らないように逸らさせた。累計時間は約15秒――自身で定めた時間が迫る。
銃口を突きつけられた搭乗者はただ固まっている。まぁ、当然か――
1メートル以内の距離で撃った銃弾を回避された上に、頭に銃口を突きつけられて、自身の銃は虚空へと向けさせられているのだから。
ただ呆然と、俺を見つめる名も知らぬ機動兵器の搭乗者へと、高速の思考を徐々に遅滞化させつつ、俺は言葉を告げた。
「じゃあな――苦しまないように一瞬で逝かせてやる」
そして俺は、右手の無骨な銃のトリガーを引く。右腕に納まるソレの咆哮が数度響き、小さな空間に、赤が飛び散った。
――右腕の銃身を腰に収め直し、機動兵器から飛び降りる。
そして、先ほど投棄した二本のブレードを拾い、開いたままだった腕部強化外装甲の中に収納する。
コレで累計時間は約28秒、早ければそろそろ――と、思考した瞬間、先程までの力が消えていくのを感じ、同時に全身に激痛が走り出す。
「――ぁ、ぐっ!!?」
そして、全身に襲い掛かる痛みに耐えかねて、脳が意識を遮断した。

<Interlude-ラビ->――深夜
目の前には、左肩から先が無く、装甲の至る所が歪み、抉り取られ、陥没した残骸にも思える機動兵器があった。
それは言うまでも無く私の右腕――《可変腕》の《収束形態》が放つエーテル砲で削ったものに他ならない。
残骸に見えるそれは、未だにミシミシと異音を立てながら動いているが、その動きも酷くゆっくりで、その大破は目前と言えるだろう。
――しかし、異音を立てながら動いてまで機動兵器が取った体制はただの直立だった。その意図が読めず、自然と眉間に皺がよる。
だが、機動兵器のその行動の意味は、次の行動で直ぐにわかった。歪み、陥没したパーツが更に異音を立てながら稼動する
それは、全身の稼動ではなく、ただ一点の稼動。そして、その稼動箇所は腹部、だ。
そこは今までの機動兵器と同じ設計であるなら、コックピットへの入り口であり出口でもある。
そこを自ら開くという事はつまり――武装放棄、つまりは命乞いしている事を意味する。
案の定、コックピットの中から両腕を上げた男が這い出してきた。――しかし、一体何を考えているのだろうか?
私達は別に、戦いを投げたモノを殺さない、などと一度も言って等いないのに――
瞬間、先程までしばらく砲撃を止めていた自身の右腕を再び掲げ、金の光を放つ。その先には、両腕を上げた男――
伸びる、伸びる。金の光が、光より遅く……されど音よりも速く伸びていく。
打ち抜かれる直前の瞬間、その瞬間の両腕を上げた男の最後の表情は、ただ驚愕に満ちていた。
「馬鹿な奴だ……」
そう私が呟いた瞬間、通信機を通して、セリアから通信が入った。

<DREAM-5->
視界が強烈な閃光で焼けて何も見えなくなり、何かの噴出す音が聞こえ始めた。嫌だ、何も見えない。――このままじゃ殺される。
恐怖に駆られ、何も見えないけれど走って逃げた――が、何かにぶつかり尻餅をつく。
「ひっ!」
見つかった――殺される。このままだと僕は殺されてしまう。嫌だ……そんなのは嫌だ。
恐怖に怯える僕の頬に冷たい金属の様な手が触れる――あれ? そんな物、●●●●は身につけていたっけ?
そう、ぶつかった相手は●●●●じゃなかった。でも、それじゃあ誰?
未だ何かの噴出する雑音の中、聞き取れるように、誰かは耳元で囁いてくれた。
「驚かせてすまない、俺と一緒に逃げるぞ? いいな?」
――その声は尻餅をついたままだった僕を立たせてくれた。そして、その声には、どこか聞き覚えがあった。
「わかりました――でも、あなた……は誰?」
でも、その人が其処に居て良い筈がない。だって、その声は――
「なんだ、俺の声を忘れちまったのか? それともさっきので俺が死んだとでも思ったか?」
黒い腕に、●●●●に貫かれた筈なんだから――
「いいから来るんだ、早く逃げないと殺される」
そう言って、僕を立ち上がらせた誰かは、僕を背負ってホールから連れ去ってくれた。

<SCENE020>――夜
――そこで、意識が覚醒した。この所やけに良く見る夢……悪夢の断片。コレはその中でもまだ救いのある一部だと、知っている。
何故か、最近になってよく見る様になった。自分の事だが、理由なんて分から無いが――
夢の事について考えるのを止め、現状を思い出す。見上げる先は、見慣れた天井のみが存在する――つまりは自室に居る訳だが……
俺が、目覚める前に見た最後の光景は――自衛機能の制限を解除して、効果の切れたその反動で倒れた所だった。
つまりは……ラビなりケイジなり倒れてる所を回収され、無事に戻って来たのだ。
「さて……と、目ぇ覚ました事でも報告に行きますか――」
と、小さく呟いて、俺は上体を持ち上げ、次いで、寝かされていたソファーから立ち上がる。
首や肩、腰を軽く回して背筋を伸ばして伸びをする。――痛みは無い。負荷を掛けた筋繊維も、既に元の状態に戻っている様だった。
そして俺は、部屋を後にして、ケビンの研究室へと向かったのだった。

――to be continued.

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