EternalKnight
弐話-3-<ケルベロス>
<SCENE017>――深夜
解き放たれた地獄の番犬……《ケルベロス》は、その瞳に獲物を見据え、真上へと飛んでいく。俺は自らが放ったその弾丸を視線で追う。
そして――弾丸は天井に衝突する直前、その真の力を顕にする様に爆ぜ、その内より無数の塊を吐き出した。
はたしてその瞬間、これから番犬の餌食となる者達はソレが何かを理解できたであろうか?
――恐らく否、である。吐き出された塊、それは《ケルベロス》が捕捉した対象を打ち貫く、追尾に近い性能を持つ小型弾丸。
その小型弾丸は《ケルベロス》の炸裂から2秒と経たぬ内に、俺に銃を向けていた100人程の警備兵達に同時に降り注いだ。
上空より降り注ぎ、追尾機能まで有する無数のソレをかわす事など……不可能に等しい。
降り注ぐ無数の弾丸が、警備兵達に命中していく。頭に、首に、胸に、肩に、腹に、腕に、腿に、足に――
ざっと見渡すだけで、個々に違う場所を打たれた警備兵達が見える。中には、当たり所が悪かったのか、既に倒れているモノも居た。
だが、命中した弾丸は、一発たりとも貫通していない。否、コレはそうなる様に作った物なのだが。
――俺の周囲は、警備兵達が編む苦痛の喘ぎで満ちていく。
しかし、その声も直ぐに止む。何故なら――地獄の番犬が、狩れる獲物を放っておく訳が無いのだから……
瞬間、弾丸を受けた無数の……否、この場に居た全ての警備兵達の頭が、首が、胸が、肩が、腹が、腕が、腿が、足が――一斉に爆ぜた。
「――――!!」
声にならない様な警備兵達の苦痛の絶叫が、広いフロアで反響する程に響き渡る。
だがソレは、爆ぜた警備兵達の体より噴出する赤い雨が地面を朱で満たす前に、完全に止んだ。
そうして、無数の警備兵達のパーツが飛び散った無残な躯が散乱するこの広いフロアに立つ影は、100程度から一気に3つにまで減った。
ココまでは完璧だ――が、果たして、新型であるこの機動兵器二体と、俺はマトモに戦えるのだろうか?
そう自身に問いかけながら、目の前に存在する全長はざっと俺の四倍以上はあろう機動兵器二機へと視線を向ける。
旧型の機動兵器なら、ぎりぎり二対一でもなんとかなるだろうが、果たして、この新型の性能はどれほどのモノなのか?
まぁ、別に今どう考えた所で奴さんの機体の性能が分かる訳じゃないし、そろそろやろうか――
と、右手に持っていた弾丸の入っていない空の巨大な銃身を投げ捨て、その右手に強化外装甲からブレードを取り出して握る。
瞬間、ほぼ無動作の状態から俺は地面を蹴り、一瞬で最高速に達し、瞬く間に手前に居た機動兵器の足元にたどり着く。
そう、コレは戦闘であり殺し合い。相手が構える構えない云々は一切気にしない。
故に俺は――ブレードを構えてその場から垂直に飛び、その勢いとブレードの鋭利さで、銃を握ったままの機動兵器の腕を切り裂いた。
そして、機動兵器から離れるように、機動兵器の胸部の装甲を蹴り、一気に後方……元居た位置へと飛んだ。
着地と同時に、機動兵器の左の前腕……つまりブレードで切り裂いた部分が綺麗に滑り落ちた。
そこで、ようやく本気になったのか、腕を落とされた機動兵器が本格的に動き出す。
と、同時に、機動兵器が突如外部へのスピーカをONにでもしたのか機械越しの声が響いた。
『オイ、コラァ! よくも俺様の乗る機体の腕を切り落としてくれたな? えぇ!?』
――その声から、短絡的な性格の者が載っている事が分かった。
ソレはつまり、如何に技術があろうと、怒りさえ煽れば、自然と動きが短絡になるからであるが、果たしてもう一人は――
『落ち着かんか、新型の性能で今の動きが追え無かった訳では有るまい、向こうは隙を突いて戦う事しか出来んのだ』
と、くぐもった声が先程と同じく腕の落とされた機動兵器から響く。
恐らく先程の声は機体内へのみ送られた通信を、そのまま外部へ音声を撒き散らすマイクが拾ったモノだろう。
――残念。もう片方の搭乗者は結構思慮深いみたいだ。
などと考えている間に、二体の機動兵器がその手に持った巨大な銃身を俺へと向けていた。
片腕しかない機動兵器に握られる銃身ともう一機の機動兵器の腕に収まる二つの銃、延べ三つの銃口が俺の姿を捉えている。
その二体の機動兵器に向かい合い、俺は右手に握ったブレードと左腕に収まる無骨な銃を強く握り締めながら、構えを取る。
『た、助けてくれ!』
と、そこで、先程聞いた操縦者のどちらでも無いくぐもった声が、機動兵器の外部スピーカーより流れ出た。
『こ、殺され――ひぃ』
そして、聞いたことのある蒸発音と共に、スピーカーから流れる声が止まる。
ソレは助けを呼ぶ声。紛れも無く、目の前に二機の機動兵器のその搭乗者への言葉だ。
そして、機動兵器のスピーカーから再び声が漏れる。
『この侵入者を排除し、至急救援に向かう、良い『良い訳ねぇだろうが! コイツは俺の腕を落としたんだぞ!? いいか、コイツは――』
ソレは、仲間内で言い争う声――だが、俺にとっては、願っても無いチャンス。
瞬間、俺は再び地面を蹴って腕を落とした機動兵器の足元に到達し、そのまま左足を切断しようとブレードを振る。
『――コイツは、俺がぶっ殺す!!』
――が、俺の行動は、声と同時に突然振りぬかれた機動兵器の左足に蹴り飛ばされる形で、失敗に終わった。
勿論、蹴り飛ばされた俺はそのまま後方へと飛ばされ、先程まで10メートル程後ろにあった筈の壁に背中を強打させる形で停止した。
その俺の姿を見てか、くぐもった声が『仕方ない、勝手にやれ』とだけ言い、、巨大な足音が聞こえた。
見るまでもなく、思慮深い男が他所への援軍の為にこの場を離れたのだ。
大方、助けを求めてきた奴等はラビ達にでも殺られたのだろう。まぁ、向こうに一機行っちまったが、ラビなら大丈夫だろう。
だから俺も、目の前のデカブツをさっさと倒さないとな――と、自身に鼓舞をかけながら、倒れた体を立ち上がらせた。

<Interlude-ラビ->――深夜
どこかに救援を求めるように、通信機に語りかけていた男の頭を、金の光が通信機ごと打ち抜いた。
首から上が消し飛んだ研究者の白衣が、首から吹き出る血で赤く染まっていく。
これで、ケイジが上手くやっていれば研究者は全て片付けた筈だ、製造施設も破壊しつくしたし、ここにはもう用は無い。
だが――救援を、先程撃ち殺した男は救援を呼んでいた。
今回の作戦での警備兵の相手はネスなんだが……救援を呼べる状態にしてしまった私にも不手際がある。
せめて、救援を聞いてこちらに流れ込んでくる警備兵達ぐらいは一掃しなければ――
「ラビさん、研究者は一掃してきた、もうここから出よう」
と、考えている私の背後からケイジの声が聞こえた来た。どうやら、向こうも逃げた研究者を始末してきたらしい。
「――いや、まだだ」
と、ケイジの問いに答えながら私は振り返った。その先には疑問を浮かべるケイジの姿があった。
「なんでだよ? もう、研究者も全員始末したし、製造所も完璧に壊しただろ?」
そう問うケイジの顔は本当にわからない、と言う風だった。
だがそれも、壊れた通信機の前にある首から上の無い躯を見て、納得した様だった。
「応援を呼ばれたのか……でも、警備の連中はネスさんの仕事だろ? 俺等が関わる必要は――」
と、ケイジが言っている時、凄まじい轟音が聞こえてきた。ソレは、何か大質量のモノが、地面に落下した時の様な――
「な、なんだ? この音――」
と、その音を聞いてケイジがあたりを見渡す。が、音から考えて、この近くでは無い。少なくとも幾らか離れた場所の筈。
しかし、おかしい。アレだけの音を出せる大実量なモノは一体なんだ?
ドッグにあった機動兵器はどちらも破壊した筈だ。機動兵器以外であんな大質量なモノが――いや、先行試作型か?
それならばあり得る、だがそれは同時に、私達があのフロアに付いた時には既にネスの元へ移動しだした後だったと言う事になる……
思考している間に、巨大な足音が聞こえてきた。間違いない、機動兵器の足音――
試作型の機動兵器……ソレは未完成な場合も有るが、量産するモノよりコストを掛けれる故に、高いスペックを持つモノになる事がある。
そして、ネスが始末し切れていない、という事はネスは負けたかも知れない、という事でもある。
一対一でネスが負ける……ソレは同時に、私の負けをも意味する。否、一対一で本気のネスに勝てる相手など、存在するとは思えない。
ならば複数? 先行型は少なくとも二機はある……そう考えれば、ネスが倒しきれないのも分かる。
複数の敵が居る状況でアレを使うのは自殺に等しいのだから――ならば、こちらもこちらで倒すしかない。
そして、落下音は一つ。まだ上に複数残っている可能性が有る以上、早く機動兵器を始末して、救援に行かなければ――
「この音、一体何の音だよ!」
と、私の直ぐ近くに居たケイジが声を上げる。そのケイジに、私は冷静に「隠れていろ」とだけ告げた。
右腕の《可変腕》を《近接形態-PileForm-》へと可変させる。その間も、破壊音を響かせながら、足音が近づいてくる。
私は、躊躇うことなく音の聞こえる方向の壁へと向かって走り、壁までおよそ二メートル程の地点で、地を弾く様に蹴って跳躍する。
瞬間――フロアの壁を粉砕しながら、全長八メートルほどの鋼の巨人が現れた。

<SCENE018>――深夜
倒れた体を起き上がらせながら思考する。先程の動きから考えるに、恐らくアレを使わなければ実力は互角と、言った所だろう。
――だが、確立が五割も有るのであれば、わざわざアレを使う必要も無い。
何時新手が来るかも分からないこんな所で倒れるのは、真平御免だ。
多少痛みの残る体をしっかりと立ち上がらせて、左手の無骨な銃身を腰に収める。
そして、その代わりに左腕の強化外装甲が可変してその内に収められたブレードが露にされ、ソレは今しがた空いた左腕に握られた。
両手のブレードを強く握り締めて構え、呟く。
「さぁ、仕切りなおしと行こうか――」
声が相手に聞こえているかいないかなどは関係ない。コレは、自分自身への鼓舞なのだから。
一歩、右足を踏み出し、その足で地面を押し出し、その力を推進力として一気に加速する。
先ほど腕を切り落とした左に回り込む様に右へと跳躍し、一瞬で移動する方向を切り替えて、ブレードを構えて巨人の懐へ――
飛ぼうと、足を踏み出す直前で、巨人がこちらへに向かい巨大な銃身を向けている。否、既に弾丸が吐き出されていた。
瞬間――目前へと迫り来る弾丸を、咄嗟に上体をねじる事により紙一重で回避する。
そして、次の瞬間には寸前で押し留めた脚部の力は開放され、再び体を前――機動兵器の足元――へと跳躍させた。
跳躍する――その速度は弾速にこそ劣るが、機動兵器が照準に収めるより遥かに早い筈。
そう、通常の移動よりも一瞬の加速に力を注ぐ跳躍が、移動している事で回避できる銃撃の照準に合わせられる道理などある筈が無い。
少なくとも、今までの機動兵器はそうであり――尚且つ、設計を多少変えた程度で、そこまでの速度になる事など到底ありえない。
そして、その勘は見事に当たり、俺はそのまま機動兵器の足元に跳躍の加速と、上体を元に戻す勢いを重ねあわせたまま飛びこんだ。
――一閃。
跳躍と捻った上体を元に戻す回転力による加速を得た刃は、機動兵器の脚部にその刀身を埋没させ、何事も無かったかの様に通り抜けた。
否、そう見えるに過ぎない。鋭利過ぎる刃が生み出す断面は、同時に綺麗過ぎるのだ。故に、切れていない様に見えるだけなのだ。
コレで機動力は大幅に――否、人型で有る以上、片足を失うと、言うことは同時に機動力を失う、と言う事に繋がるのだ。
だがしかし、ソレはあくまで移動と言う事であって、パーツ各部の稼動速度では無い。
つまり、ブレードを振り終わり、その勢いを失った俺は、次の動作までは停止状態なのだ。
そして、その瞬間を逃がさないかの様に、機動兵器の右腕に納まった銃口が、俺の至近距離で咆哮をあげた。
拙い――と、本能と知識が同時に警鐘を鳴らす。当然だ、あんなモノが当れば、どんな装甲を纏っていようが関係ない。
大質量を持った弾丸が加速を持って飛んでくるのだ、当れば、如何に強力な装甲であろうとも、人間が助かる筈が無い。
……例え弾丸によって破壊されない強度のモノを身に纏っていても、だ。確実に、衝撃は内蔵にも届き、戦うどころではなくなる。
そして、本能がそうさせたのか――俺は左手に収まるもう一つの刃を殆ど無意識の内に弾丸を切り裂く様に振るっていた。
極限まで鋭い刃が、迫る弾丸に呑み込まれ、通り抜ける――そして、刃は綺麗に二つに分断された。
分かれた弾丸はそれぞれ俺をそれぞれ避けて通りすぎる。瞬間、それ以降の弾丸の行方も確かめず、大きく地面を蹴り後方へと跳躍した。

――to be continued.

<Back>//<Next>

9/41ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!