EternalKnight
弐話-2-<殲滅>
<Interlude-ラビ>――深夜
暗い廊下を出来るだけ静かに駆け抜けていく中、放送の様なモノが聞こえてきた。
『侵入者は催眠性のガスを使用する模様、残る警備兵はガスマスク着用の上、侵入者の対処にあたれ――』
勿論、暗がりなので正確な位置こそ分からなかったが、それはこの研究所に備えられたスピーカーから発せられたモノだろう。
催眠性のガス……言うまでも無く《ヒュプノス》だろうな。
しかし警備の奴等も可哀相に、今回はアレは一発しか持ってきてない筈……今更ガスマスクなんかつけても視界が悪くなるだけだろうに。
まぁ、そんな事はいい。今は出来るだけ早く製造工場に辿り着き製造中の生産ラインを破壊するだけだ。
などと考えている間に、私達は製造工場エリアへと辿り着いた。
が、やはりそこでは研究者達が居り、人型機動兵器の生産ラインを眺めている……生産ライン、もう完成していたのか。
ドックらしき場所には既に二機の同一形状の人型機動兵器が佇んでいる。だが、そこにあるのは全く同じ量産型にしか見えない。
――試作型を造らずに量産型を作ってるのか? 試作型が一機も無いのが気にかかるな……
しかし……見る限り製作されていくペースは遅い、一機作るのにも数時間はかかりそうだ。
――まぁ、そんなに大量に作る気が無いのだろうからそれで十分なのだろうが。
「ラビさん、どうします? 既に二機完成しちゃってるみたいですけど?」
などと、隣に居たケイジが私に小声で話しかけてきた。が、答えなど決まっている。
「予定に変更はない、ここを破壊する。勿論……既に完成してる二機も含めて――だ」
まぁ、搭乗者が居ないなら木偶の坊と同じだろうし、仮に居たとしても、慣れていなければ動かす事すらままならない筈。
とりあえず、敵の増援を断たなければならない。方法は至って簡単な事だが――
イヤホンとマイクが一体となった通信機のボタンを押す。コレによりこちらからセリアへと通信が可能になる。
ボタンを押して数秒でセリアの声がイヤホンから聞こえてきた。
『どうしたの? ラビ、何かトラブった?』
「イヤ、無事に製造所前にたどり着いた、増援を断ちたい。製造所から他への通信網を遮断してくれ」
そう小さく私が呟く。もっともそれなりの数なら私一人でも対処できるのだが、それではこの計画の意味が殆ど無い。
せっかくネスが暴れて、警備の目をそちらへ向けているのに、ここで警備兵を呼び戻されては意味が無いのだ。
『分かったわ、ちょっと待ってね――』
と、簡単に私の意見を承諾し、セリアの声が途絶えた。
十数秒程して、セリアから『OKよ』と言う軽い声が返ってきた。それにしても、驚くべき手際の良さだ。
思わず驚嘆の声を漏らしてしまったが、そんな事を気にしている場合ではない。
「すまない、こちらも直ぐに終わらせよう」
と、呟いて、通信を切った。そうして、私の隣に居るケイジに声をかける。
「いいかケイジ、今から乗り込むが……覚悟は出来てるな?」
その私の問いに、一片の迷いも無く、ケイジは肯いた――
それを確認して右腕の《可変腕》を《待機形態-ArmForm-》から《銃身・拡散形態-BarrelFormSpread-》へと可変させていく。
掛かる時間はおよそ二秒。最も《待機形態》以外からはもう少し時間がかかるのだが。
先ずは目的である製造機を破壊する。重要な機関を潰すのが普通だが、私はケビンの様に機械の構造を見抜けるような目は持って居ない。
故に、《拡散形態》で適当に破壊する……もっとも最終的は完全に破壊するつもりでは居るが――
「ケイジ、私が撃ったらここから出たら、後は……あの巨大な製造機を破壊しろ。勿論、邪魔する者をどうするかもお前の自由だ」
と、ケイジを見ずに言い放ち、物陰から製造機を見据え、狙う位置を定める……勿論位置は全て適当だが。
そして、銃身へと変化した私の腕は、幾重もの金色の光を生み出し、その光は、見定めた位置へと一斉に飛び立った。
瞬間、私の脇を抜けてケイジが飛び出し、それを確認してから一瞬遅れる様に私も飛び出した。

<SCENE015>――深夜
警備兵達が眠るフロアを後にしつつ、頭の中でこの研究所の地図を広げる。
――広い場所は、ここからそう遠くは無い場所にもう一つあった筈。入り口は一つしかないが、実質そんな事は俺には関係無い。
移動しながらフロアの場所を思い出し、そこへと続く廊下を走っていく――そこで、目の前に曲がり角が見えてきた。
曲がり角は待ち伏せにはかなり向いている場所でもある。
が、赤外線サーモグラフィー付きの仮面を持っている俺の前では、その姿は筒抜けでしかない。
未だ身につけたままだった仮面の赤外線サーモグラフィーを起動し、曲がり角を見据える。
そこには、待ち伏せする人型の熱源体が二つ、はっきりと見えた。
すぐさまサーモグラフィーを切り、左腕に収まる無骨な銃を、曲がり角となって道が無い目の前――すなわち壁へと向ける。
そのまま俺は引き金を引く。響くのは銃身が弾丸を吐き出す咆哮。
それとほぼ同じタイミングで右腕に持った巨大な銃身を手放し、右腕でも銃身を引き抜き、強く地面を蹴る。
過大な重量を誇る銃身を手放した俺の体は、加速する。――そして吐き出された弾丸は真直ぐに飛び、壁に衝突し跳弾する。
――が、俺の狙いはそんな事ではない。そんな物が上手く狙った場所に跳ね返るはずが無い。俺の狙いは――敵の動揺を誘う事のみ。
相手には見えていない筈なのに自分が攻撃を受ける、と言う状況で、動揺しないヤツなんて殆ど居ない。
一瞬。されど、それだけあれば二人を黙らせるには十分すぎる。
すぐさま飛び出した俺は、壁際に居た二人の警備兵の腕に握られた銃を左右の腕に収まる銃で的確に打ち抜き、その手から落とさせる。
そして、次の瞬間には、銃を手放した二人組みの頭に銃身を突きつけた。それに伴って、男達をホールドアップさせる。
「……こ、殺さないでくれ……抵抗するつもりはない」
と、右手の銃を突きつけた男が震えながら口走る。対して、左の銃を突きつけた男は何も言わずにただ愕然と両手を挙げて突っ立っている。
どちらも抵抗する気が無い様に見える……と、言うより俺が壁際から飛び出した時も、どちらも構えては居たが、放心しているようだった。
これは……戦闘経験の浅い入りたて……か。まぁ、抵抗する気が無いなら放っておけば良い、無益な殺しはしたくないしな。だけど――
「わかった、殺しはしない。代わりに……少し眠ってろ」
と、男の言葉への返答を送り、そのまま直ぐに無骨な長方形で頭部を殴る、その一撃で気を失い男が地面に膝を追って倒れていく。
そうして、倒れる男から視線を外し、残った男に向ける。だが男は、今だ一言も発さずに立ち尽くしている。
まぁ、コイツも気絶させとくか、と呆けている男の後頭部をこれまた無骨な箱で殴りつけた。その衝撃でその男も地面へと崩れ落ちた。
そうして、先程地面に投棄した巨大な砲身を拾いなおし、俺は次の大きなフロアへの移動を再開した。
――そうして、先程より少し広い巨大フロアにたどり着く。
今はまだ俺以外の人影は無いが、数分もすれば警備兵達がここを埋め尽くすだろう。
もっとも、今は先程ほど人が集まって欲しいとは思わないが……なんせ《ヒュプノス》はもう持っていないのだから――
否、先程の警報でマスクの着用を指示していた以上、《ヒュプノス》があっても、役には立たないだろうな……
まぁ、俺だって人は殺したくないが、殺されるつもりも無い。殺られるなら、その前に相手を殺る。
人数で追い詰められれば、切り抜けるのは可能と言えば可能だが、やはり《ケルベロス》を使った方が楽ではあるだろう。
……などと考えてる間に来たようだ――姿こそ見えないモノの、一つしかない入り口の向こうには気配がいくらか感じられる。
すぐさま入ってこないあたり、逃げ道の無いここで一気に数で押して来るつもりなのだろう。
右腕に納まった巨大な銃身は、既に二発の弾丸を打ち出しており、最初に比べらば軽いが、それでも結構な重量であることに違いは無い。
一つしかない入り口の向こうの気配は、既に十数を超えていることは分かるが、正確な数までは分からない。
そして――何か、巨大な音が、こちらに近づいてくるのが感じ取れた。それは、巨大な足音――そして俺は、この音に聞き覚えがある。
そう、コレは――人型機動兵器の足音に他ならない。しかも……一機分の音じゃない。

<Interlude-ラビ->――深夜
先程まで満ちていた銃撃の音と、機械の崩れ落ちる音、そして叫び声……それらが嘘のように全て止み、今は静寂が空間を支配している。
そして残ったモノは、破壊しつくされた機械の瓦礫と、その中に立たずむ私とケイジのみ。
生産用の機械、ハンガーにあった量産型の機動兵器、そのどちらもを再生、再利用不可能なほど破壊しつくし静寂の中でただ立ち尽くす。
他に存在するものは、破壊された機械の破片と、血塗れの骸のみ。
そして、その骸の数から、ここに居た研究者の半数程が逃げたことが予測できた。
最優先目標である生産機械の破壊は達成したが……全員皆殺しにでもしなければ、また同じ計画を立てるだろう。
だから研究者は誰一人逃がさない。そして、命乞いしても殺す……政府の研究者は誰であれ許さない。
ルアの命をくだらない実験に使った政府の研究者は、如何な理由があろうと……殺す。一人たりとも、逃がす訳には行かない――
「逃げた研究者がいる……追うぞ、ケイジ」
と、私が呟くと、「はい」と言う返事が短く帰ってきた。その声を聴いて、私は今は瓦礫と化した製造工場を後にした。

<SCENE016>――深夜
人型機動兵器の足音が近づいてくる。そして、唯一の入り口付近の気配はより数を増していく。
――不味い、な。コレはホントに《ケルベロス》を使わなければ切り抜けれないかもしれない。
もっとも、人型機動兵器に《ケルベロス》が有効とは思えないが――そもそもアレは対群兵器であり、巨大な対象を破壊するものでは無い。
機動兵器と戦う為の武装、と言うのであれば、まだ両腕に収まるブレードの方が有効と言えるだろう。
近づいてくる足音が突然止み、それと同時に空間が静寂に包まれる。だけど、コレは嵐の前の静けさに過ぎない。
瞬間、堰を切ったかのように、入り口の外で待機していた警備兵達がフロア内に流れ込んできた。その数は70を優に超えいるだろう。
そして、なだれ込んでくる警備兵達のその奥に、鋼の巨人が自らの出番を待ち望むようにただそこに佇んでいた。
雪崩れ込み、雪崩れ込む、狭いフロアの入り口をガスマスクをつけた警備兵達が抜けていく。――そして、鋼の巨人が動き出す。
その巨体にとって明らかに小さな人が通る為に作られた扉を破壊して、この広いフロアの内部へと侵入してきた。
数は二機だが、それでも全長八メートル程の二つの巨体と、100にも及ぶであろう警備兵達が、俺の前に立ちふさがる。
だがしかし、それらを全て同時に相手にするのは、今の俺には不可能だろう。
ただでさえ、こんなに重い銃身を持ち運んでいると言うのに……そんな事では勝てるモノも勝てなくなる。
故に、早めに使うに越した事は無い。今この銃身に残っているのは《ケルベロス》の名を冠する対群武装。
数だけ集まった雑魚を屠るのに、これ以上のモノなど、俺が使える武装の中にはない。
「集まらなければ、殺られなかったモノを――」
出来れば人は殺したくなかった。だけどそれは……ただ綺麗なだけで、この時代を生きていく上では単なる荷物にしかならない。
そして、その荷物に潰される選択など……俺の中には存在しない。だから、俺の周囲を取り囲む雑兵は……《ケルベロス》に始末させる。
重い銃身を右手だけで腰の辺りまで持ち上げ、弾丸を《ケルベロス》にセットする。――そして地獄の番犬が……その眼を覚ます。
その瞳が捕らえていくのは周囲に存在する獲物の姿。この弾丸から……地獄に住まう番犬から逃れる術など無い。
あるとすれば、それは番犬を振り払うだけの力、例えば――俺の視界に納まる鋼の巨人の様な。
「無駄だ、貴様のそれは我々には利かん。ガスマスクが見えないのか!」
そう叫ぶ声が、無数の警備兵の集まりの中から声が聞こえて来た。
言われなくても、それぐらい見れば分かる……それに、そんな物は《ケルベロス》の前では何の意味も成さない。
そして……目標を捕捉した《合図》が、右腕に振動となって伝わって来た。そして俺はこの合図の度に思う。
コレは右腕に納まる銃身の内で、獲物を狩るのを今か今かと待ち望み、やっと解き放たれる番犬の喚起の振るえの様だと――
そうして俺は、巨大な銃身を真上へと掲げる。その俺の行動が……俺の周囲に居る者達にどう映ったかは知らない。
だが恐らく――コレから起こる惨劇を、誰も予想しては居ないだろう。
そんな事を頭の隅で考えながら、俺は右手の人差し指を引き、地獄の番犬を解き放った――

――to be continued.

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