EternalKnight
弐話-1-<ヒュプノス>
<DREAM-3->
●●●●がゆっくりと、でも確実に僕の方へ歩み寄ってくる。――恐い。
「嫌……嫌だ……こっちに来ないでよ……●●●●!」
ただ殺されたくなくて、必死に叫びながら●●●●が一歩近づく度に僕は一歩後ずさる。
「大丈夫、痛いのは少しだけだ……直ぐに、お前も私や○○○のようになる、そうなる様にしてやる」
そう言って、●●●●の歩み寄るスピードが先程までより少し早くなる。同時に、僕が後ずさるのも早くなる。
「来ないで……来ないでよ、●●●●!」
赤い何かが滴り落ちる、黒い腕を持つ目の前の●●●●から逃げるように、だけど決して背中を見せないように、後ずさって行く。
背中を見せたら、僕も○○○○と同じになってしまいそうな気がしたから――
だがしかし、後ずさるその踵が壁にあたった。それが意味するのは、背後に壁がある、という事。
つまり、もう一歩たりとも背後に下がる事は出来ない。
――怖い。でも、これ以上後ろには下がれない。
――嫌だ。でも、もう逃げることは出来ない。
――死にたくない。でも、あの黒い腕に貫かれたら死ぬしかない。
――逃げなきゃ。でも、どうやって?
「さぁネ▲。お前もこの力で私達と同じ存在に――」
目の前には、あの黒い腕を振り上げて、今にも僕に振り下ろそうとしている●●●●の姿があった。
あぁ、僕はここで死んじゃうんだ。もう、どうにもならない。絶望だけが、ただ目の前にある。
瞬間、ドアの開く音がした。――そこで悪夢の破片が薄れて往く。
悪夢の記憶から逃れるように、僕は僕の名を捨てる。
悪夢の記憶に抗うように、名を失くしたまま俺は生く。
意識は再び目覚めへと歩き始めた――

<SCENE012>――朝
――意識が覚醒する。その直前まで見ていたのはあの悪夢。最近になってよく見るようになった、十年前の出来事。
最近、あの悪夢を頻繁に見る。その為か。今見た夢が《アレが悪夢である所以》となる部分ではなかったので、最低な気分ではなかった。
ラビに模擬戦で負けた時に負った傷も昨日で完治して、ケイジの訓練にも付き合ってやった。
ケビンにも銃の強化を依頼したが、次の作戦には間に合いそうに無い、との事だ。
まぁ、その作戦も少しデカイが研究所の襲撃程度なので、今の武装で十分だろう。……アレが既に量産されてると厄介だろうが。
そも、ソレを量産させないように研究所を襲撃する訳なのだが。
作戦の決行は今晩、ケイジが《牙》に入ってからは、もっとも大きな作戦。勿論メンバーであるケイジも参加する事になってる。
まぁ、まだ未熟だが昨日の訓練の時の事をしっかりと実戦できていれば、まず死にはしないだろう。
まだまだ教え込む所はあるが……今日は訓練で疲れさす訳にもいかない。まぁ、大丈夫だろう。
と、一通り思考をめぐらせて、一段落がついた所で、俺以外に誰も居ない部屋で「朝飯、食うか」と、小さく呟いた。

<SCENE013>――深夜
今回の作戦で襲撃する研究所の直ぐ近くで、巨大なトランクを持って、俺は立ち尽くしていた。
勿論、傍から見れば分かりづらいが、レーザーコーティングコートの下にはしっかりと強化外装甲を身につけている。
さっきから何度も行なっているように、腕につけた時計を確認すると……時計はデジタルな文字で0:58を示していた。
「ちょっと早いな、この時計……」
ソレを見て小さく呟いた瞬間、耳につけたイヤホンから機械越しに聞きなれたセリアの声が聞こえてきた。
『あー、あー……各員、イヤホンとマイクの調子はどう?』
感度は良好だし、特に問題はないので「ネスだ、異常は無い」と、簡単に答える。
それから俺以外のメンバーの対応をしていたのか、しばらく間をおいてセリアの声が再びイヤホンから流れる。
『オッケー、全員通信は良好ね。それじゃあ、所定の位置には着いた?』
その質問にも簡潔に「ネスだ、所定の位置にて待機してる」とだけ答える。
それからまたしばらく時間を置いて、声が聞こえてくる。
『コレより2分後の01:00より作戦を開始する』
その声に腕につけた時計の時間を止めて、セリアの次の声を待つ。
『時計合わせ、00:58まで……』
と、そのセリアの声を聴いて、59だったデジタルの表示を、ボタン一つを押すことで58に戻す。
『5・4・3・2・1――セット』
カウントする声が1と告げた瞬間、時計の時間調整を解除する。
ソレにより、止まっていたデジタルのカウントが動き出し――時を刻み始めた。
電子表示された時計が、1秒ずつ時を刻んでいく――
『作戦に変更は無し、戦況に応じて各自対応するように。それじゃあ、無事を祈ってるわ』
と、それだけ残して通信は切れた。――直ぐに時計に目をやると、作戦開始までは後60秒程度になっていた。
そこで俺は、トランクに付いたボタンを押す。瞬間――トランクに見える外装が全てはずれ、中から巨大な砲身が現れる。
内蔵されている弾丸は《ケルベロス》と《テュポーン》と《ヒュプノス》をそれぞれ一発づずつ。
《ケルベロス》は出来れば使いたくないが、いざとなれば躊躇うつもりは無い。
時計に目をやると、開始まで30秒を切っている。すぐさま、準備していた微妙なデザインの仮面を被る。
もう一度時計に目をやると作戦開始まで残り20秒――すぐさま巨大な砲身を研究所の方へ向け、射出する弾丸を選択する。
無論、選んだのは《テュポーン》……そもそも、他の二つでは外壁を破壊するのは難しいだろう。
研究所の外壁までの距離は20メートルも無い、この距離なら余裕で届く――と、研究所を見据えてから、視線を時計に戻す。
5秒――ここからは時計から視線を離して、自分の中で時間をカウントする。
4・3・2――外壁に向けた砲身の引き金を絞る。1――0。瞬間、俺は絞っていた引き金を力強く引いた。
そして、トリガーが引かれた事により、400口径……直径にしておよそ100ミリの巨大な弾丸が、巨大な砲身より高速で打ち出された。
打ち出された弾丸が空気を裂いて生み出す衝撃波が地面を抉り、周囲に多大な被害を広げながら押し進み、研究所の外壁に衝突する。
そして、その圧倒的な加速力と重量で塀と外壁を粉々に粉砕した。

<Interlude-ラビ->――深夜
左腕につけられた時計に目をやると、作戦開始30秒前を切っていた。
「そろそろ、か……準備はいいな?」
と、呟いた私の声に反応して隣に居たケイジは小さく肯いた。
私の右腕……義手である《可変腕》は全ての形態へ素早く変更可能な待機形態のままだ。
もっとも、今回の私達に与えられた作戦は予定通りに進むとまだ戦うのは先のことになるだろう。
再び、手元の時計に視線を落とす……時計が示すのは作戦開始まで、後10秒だという事――
私達の目的はネスが暴れ、セリアがクラッキングを掛けている間に研究所内に進入し、例の物の製造工場、および試作品全てを破壊する事。
デジタルのディスプレイが、時間を刻んでいく――残り5秒。
カウントされていく数字を目で確認してカウントしていく。4・3・2・1――0。
タイマーのカウントが0になるやいなや、城壁を叩き壊したかの轟音が鳴り響き、一瞬遅れてけたたましい警報音が鳴り始めた。
ソレを聞いて、私とケイジは研究所の塀に向かって走り、強化外装甲で強化された脚力で三メートルはあろう塀を飛び越えた。
本来ならそんな事をすれば勿論気づかれるし、警報が鳴る。まぁ、警報は既に鳴っているが――
だが、今はネスが起こした騒ぎに乗じてセリアがクラッキングを掛け、セキュリティを全て無力化させている故に、気づかれることは無い。
勿論、セキュリティの無力化等は、普通なら直ぐに気づかれるが、ネスの起こした騒動によって気づいた者は誰一人居ないだろう。
『どう、進入は完了した?』
突然イヤホンからセリアの通信が聞こえてきた。それに小さく「あぁ」と呟く。
『それじゃあ、今自分が何処に居て、目的地がどこかは分かってる?』
勿論、この研究所内の構造は全て把握している。もっとも、セリアがクラッキングして得た見取り図が正しければ、の話だが。
「事前に渡された見取り図どおりならな、今はまだ研究所内部には入っていない、塀を超えた所だ」
『そう、それじゃあ、出来るだけ早くお願いね――』
と、そう言い残してセリアが通信を切った。そして、通信が切れると同時に後ろへ振り返り、告げる。
「さて、それじゃあ……しっかりと付いてこいよ、ケイジ」
そう言って、ケイジの答えを待たずに、私は覚えた道順どおりに製造工場へと走り出した。

<SCENE014>――深夜
外壁をあっさりとぶち抜いて、内部に侵入する。事前に与えられた内部の見取り図から、広いフロアの場所を思い出して其処へと移動する。
俺も、狭くて角の多い通路でドンパチやる気はない。それに、広ければ纏めて警備兵達を黙らせる事が出来る。
と、考えていた所で、イヤホンから声が聞こえたきた。
『ラビとケイジが進入したわ、まだ気づかれてないからそっちで引き付けておいて』
と、それだけ告げて通信は切れた。まぁ、無事に進入できたなら俺はうまく立ち回れたって事だろう。
なんて思っていると、遂に警備兵が俺がここに居る事に気が付いたらしい。
『侵入者は一名、現在は第一層のDフロアに居る模様』
なんて、スピーカーから警報が流れている。一名って事はやっぱりラビやケイジはまだ気づかれていないみたいだな……
と、考えていると、俺の居る巨大なフロアに武装した警備兵が一斉に30人近く入ってきた。
その警備兵達の手足を左手に収めた無骨な銃で一人づつ確実に打ち抜いていく。
右手には巨大な銃身を持ったまま、左腕に収まる銃だけで、次から次へと現れる警備兵達を打ち抜いていく。
しかし、入ってくる数が数だけに、打ち抜くのが間に合わない。
それでも、入り口近くに倒れた人の山を作っておけば、以後の増援は少しばかりでも遅くなるんだろうが――
だがしかし、少しづつ確実に俺の周囲を囲む警備員の数は増えていく――
数分ばかりその作業を繰り返して、俺は完全に警備兵達に囲まれた。
まぁ、入り口付近の奴等ばかり撃って、周囲にたまる警備兵へは攻撃を加えなかったので当然といえば当然だが。
今まで手足を打ち抜き動けなくした警備兵達はおよそ30人、しかし俺は既に50人近い兵士が囲まれている。
セリアに貰った情報では、少なくともこの研究所には200近い警備員が居るらしい……って、ことはもう少し黙らせないといけない訳か……
しかし、この人数を相手するのに右腕が使えないのは厳しいか……と、考えながら四方八方から飛んでくる弾丸をかわし、叩き落す。
先程までもかわし、叩き落しながら入り口付近へ射撃していたので難しいことではないが……
それにしても、コレだけの技術を見せられて、尚且つ同僚が30近くもあっさりやられてるのにしっかりと仕事とは……律儀なモンだ。
なんて考えている間にまた増えてきた――俺を取り囲む警備兵達の数は既に80近い。だがまぁ――
「コンだけ居れば十分だろ――」
と、小さく呟いて俺は巨大な銃身、直径100ミリの弾丸を吐き出す銃器を持ち上げ、打ち出す弾丸を《ヒュプノス》に選択する。
そこで、警備兵の隊長格の男が一人だけ突出して俺に声を掛けてくる。
「動くな、貴様は既に完全に包囲されている、ここに乗り込んできた目的を吐けば、少しは罪を軽くしてやる」
――冗談、こんな事して捕まれば即刻死刑だ。そもそも、ほんとに軽くなるにしても、やめるつもりなんざない。
そも、そんなことを言われてやめるようなやつはそもそもこんな事をしないだろうが。
などと思いながら黙っていると、隊長格の様な男が言葉を続けた。
「その巨大な武装を手放して、その仮面を外せ。さもなく撃ち殺す」
さっきと言ってる事が様変わりしてやがる……やっぱりどちらにしても生かす気なんて無いんだし、当然と言えば当然だが。
「冗談言うな、誰がテメェの言う事なんて聞くか」
そう、隊長格の男に聞こえるように言って、巨大な銃身を真上に掲げる。
「何を――」と男が口言い出した時には、俺は既に巨大な銃身のトリガーを引いていた。
瞬間、銃身は白い煙を撒き散らす巨大な弾丸を打ち出す、そうして弾丸はフロアの天井に向かって飛び、天井に突き刺さる。
そして、[ボンッ!]と小さく爆発し、白い煙を大量に噴出する。そして、次の瞬間――
俺の仮面越しの視界は一瞬で黒に覆われた。まぁ、単にこの仮面の機能に過ぎないのだが。
今頃、警備員の連中は全員強烈な閃光で視界が焼けているだろう。俺はこの仮面のおかげでなんとも無いが……
デザインはケビンの趣味が入っておりかなり微妙だが、最高の性能を誇る物であるのは確かだ。
通常時の視界も広く《ヒュプノス》が衝突する瞬間に、視界を暗転させ閃光を防ぐ。
勿論それだけでなく、赤外線サーモグラフィーとしても使用でき、供給される空気は常に正常化され、ガスなどへの対策も万全と来ている。
問題があるとすれば付け心地があまりよくない事と、やはりデザインだろうか――
などと考えているうちに、警備兵は全員眠ったらしい。
射出時と、小爆発時に発生した白い煙は、かなり強力な催眠性のガス――閃光はそれを気づかせない為のフェイクに過ぎない。
勿論、仮面をつけている俺にそのガスが影響を及ぼす事はない。
とりあえず、このガスで眠れば普通なら半日は起きない。コレで数は一気に100近く削れたけど……残り半分くらいか。
残っている武装から考えても、残りを殺さずに片をつけるのは難しい……場合によっては殺す事になる。
「早く出てきて……死ななくて良かったな、アンタ等」
と、小さく呟いて、左手に無骨な長方形の銃、右手にも無骨な長方形の箱を持って、フロアを後にした。
もっとも右腕に収まる物は左腕に収まる物に比べ何倍もの重量とサイズだが――

――to be continued.

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