EternalKnight
壱話-3-<模擬戦>
<SCENE010>――昼
ケイジを訓練場に向かわせてから、俺とラビは遮蔽物の無い広い空間で対峙するように立っていた。
この状態で俺とラビの距離は八メートル程、俺やラビが強化外装甲の力を借りれば、一歩では敵わずとも二歩なら充分に届く距離だ。
俺はまだ銃を抜いていないし、ラビもまだ《可変腕-VariableArm-》を待機形態のままで固定している。
広い空間では、自分の呼吸の音と、心音以外は何も聞こえない。まさしく――『静寂』と、そう呼ぶに相応しい空間となっていた。
その静寂を、打ち破るように俺が告げる。
「さて、そろそろ始めようか? ラビ」
その俺の言葉に、簡単な言葉が返ってきた。
「そうだな、始めよう」
言い終わった瞬間、向かい合う俺達は互いにそれぞれの構えを取り、視線を交差させる。
ラビと俺の力はほぼ互角。――勝率は僅かながら俺の方が高いが、そんな物は当てにならない。
意識は加速しだし、戦闘に使う以外の全ての意識をシャットアウトする。無駄な事は考えない、今はただ、勝つ事だけを考えろ――
瞬間、俺は腰に収めた殺意を吐き出す長方形を抜き、トリガーを引く。
響くのは数発の鉛の射出音、視界を覆うのは数発分のマズルフラッシュ。
常人なら何が起きたか理解すら出来ぬ間に死を与える一連の動きにより放たれた弾丸を、ラビは地面を蹴って最低限の動きだけで回避する。
そして、弾丸をかわした次の瞬間にはラビの《可変腕》の形状は既に巨大な銃身へと変化していた。そして、その腕は既に俺を捉えている。
高速で思考が展開する。初手から隙の出来る収束や拡散を使ってくる可能性は低い――ならば、連射か?
瞬間、構えられた砲身から黄色の柱が伸びた。――っ収束か!?
ソレは、ケビンが見つけた特殊なエネルギー《エーテル》を高密度に収束して打ち出す破壊の力。
大気中に無限に存在するソレを供給源としている以上、エネルギー切れはない。
だが高出力に収束して打ち出すソレは、銃身の耐久性等の問題から連射する事が出来ない。
迫り来る光の柱を紙一重で見切って、左腕で無骨な長方形を引き抜き、一瞬で構えて右の銃と同時にトリガーを引く。
瞬間、ステレオで弾丸を吐き出す音が響き、二つのマズルフラッシュが同時に発生する。
マズルフラッシュが消えるよりも早く、トリガーを押し続けたままの無骨な二挺の長方形が、次の弾丸も同時に吐き出す。
だが、双方が五発打ち出した時、つまり打ち始めて二秒程で金属同士の衝突音を聴き、咄嗟にトリガーから指を離して真横に跳躍する。
その次の瞬間には、俺が居たい位置に細い金色の光の柱が通り過ぎた。ソレを確認した瞬間に、光の伸びてきた方向へ、銃身を向ける。
其処には、腕を俺に向けて掲げたラビの姿があった。――そこで、互いの行動が停止する。
互いの距離は三メートル程、つまり今の俺やラビなら一歩で事足りる距離。
ラビの《可変腕》を近接戦闘にする前に接近は出来るが、同時に俺もブレードを出す暇が無い。
向かい合うラビの足元には、俺が打ち出した四発の弾丸が転がっていた。
叩き落とされたか……足りない残りの六発は先程のエーテル砲で塵に還されたんだろう。
時間にして数秒程度の攻防にすぎないが、俺の背中には既に冷や汗が流れていた。
それにしても、ラビの《可変腕》の収束型は一度打つと銃身の強度上、次を打つまでに最低四秒の猶予が必要な筈だったんだが――
今のは長く見積もって四秒も無かった。じゃあ、何故打てた? 否、今は三秒以下の時間があれば次が打てると解ればいい。
互いに一ミリも動かない緊迫した状況……俺がラビの動くのを待っているように、ラビも俺の動くのを待っているのだろう。
どちらも動かない状況がどれ程続いただろうか、俺は意を決して先に動き出すことに決める。このままここで睨み合っても意味は無い。
むしろ、どこかに乗り込んでいる時にこうして睨み合って居ては、何時増援が来るかわからないのだから――
ラビの腕は依然巨大な銃身のまま……だが形状が全く同じである連射、収束、拡散のどの状態かまでかは判断できない。
一番厄介なのは拡散だが、一撃が恐いのは収束……そして連射の対応能力も侮る事は出来ない。
――が、作戦なんて一つのイレギュラーで総崩れになるモノは必要ない。
必要なのは、即座に状況に対応する判断力と、ソレを為す技量のみ。
左手に構えた銃のトリガーを引く、同時に、無骨な長方形は鉛の弾丸を吐き出す。
――が、弾丸が射出された瞬間には既にラビの《可変腕》から十数本の光が伸び始めた。――やはり拡散で来た。
そして、俺が打ち出した弾丸は光の一つと相殺する。勿論、残りの光は一歩で跳べる範囲全てをふさぐ様に飛んでくる。
だが、決して追尾など持ち合わせていない。単に打ち出す前に何処に飛ぶか定める程度でしかない。
一見後が無いように見えるが、打ち破る答えは得た。強化された拡散エーテル砲の光一つ一つの威力は大して、或いは全く上がっていない。
ならば、方法は簡単――光が俺に届くまで一秒も無いが、ただ道をこじ開ければ良いだけの事。
そう、俺の技術と、両腕に収まるコイツの精度と連射力なら俺一人分の通り道を作る事など容易に可能――
瞬間、地面を蹴り正面に跳躍しながら両腕に収まった無骨な銃でマズルフラッシュと射出音と共に次々と弾丸を打ち出す。
目前には光が見えるが、打ち出した弾丸が俺の進路にある光と衝突し、悉く相殺して俺の進路を強引に作り上げた。
拡散も収束と同じで次弾への時間が短縮されているはず、それを三秒と考えれば後一秒はある。
ここを超えば距離は二メートル円内、三秒未満で撃てたとしても拡散からの可変は時間的に不可能。
さっきの戦法でもう一度近づけば――俺の勝ちだ! と、勝利を確信しつつ光の包囲網を抜けた。
「――なっ!?」
だがしかし、光の包囲網を抜けた先は無常にも、次の無数の光があった。しかも、光は分散しておらず、ほぼ一点に集中している。
距離が近すぎる上に、数が多すぎる。これじゃあ回避も道を開く事も不可能――ならば、最低限……死なぬ様にこの攻撃を受けるだけ。
そう思い、攻撃に備えた瞬間、十数に及ぶ光が俺の体を撃ち抜いた。

<DREAM-7->
僕を背負ったケビンさんは見慣れていた白い壁に包まれた空間を……僕の家を出た。
それでも、家から出てもケビンさんは止まろうとしなかった。もう、黒いバケモノも追いかけてこないのに――
僕の家が見えなくなってそれでもしばらく走り続け……ようやくケビンさんは立ち止まり僕を下ろしてくれた。
そうして、僕の肩を掴み、真直ぐと僕を見つめながら口を開いた。
「怪我……してないか?」
そのケビンさんの言葉にしっかりと肯く、大丈夫、僕は何処も怪我なんてしてない。だってコレは夢なんだから――
「そうか、良かった……」
心底安心したように、ケビンさんは言った。そんなに心配しなくても、コレは夢だから怪我なんてする筈ない。
「――痛むもなにも、コレは夢でしょ?」
だから、僕はその事をケビンさんに教えてあげた。でもケビンさんは、そんな僕を残念そうに見つめながら、呟いた。
「夢じゃない……全部現実だ」
――そんな筈はない。だって、現実離れしたモノがあまりにも多過ぎるじゃないか。どうしてそれが現実な訳があるんだ。
「信じたくない気持ちは分かる……けど、全て現実だ」
何を言ってるの? コレが現実な分けない、●●●●は○○○○を殺したりしないし、あんな事も出来ない。
あの黒いバケモノ達だって、この世に存在する訳が無い。だから――
「その台詞も含めて全部夢だ、夢に決まってる!」
――認めたくない、認める訳にはいかない。
●●●●が○○○○を殺した事、僕を殺そうとした事。一瞬で移動したようにすら見えた移動。
殺された筈なのに今もそこに居るケビンさん。
逃げる僕達を追ってくるバケモノの群れ。
そのバケモノより僕を背負いながらも早く動き、逃げきったケビンさん。
どれも、現実ではありえない。だから、コレは夢だ、夢だ、夢なんだ! 夢に……決まって――

<SCENE011>――夕方
悪夢から逃げるように、意識は覚醒して行く――そうして、開かれた俺の目に最初に映ったのは、見慣れた自室の天井だった。
「本当に、夢だったら良かったのにな……」
呟いて、先程の悪夢を思い返す……あの時は夢であってくれと願ったが、ソレがこんな形で叶うなんて――
に、しても一日で二度も見るとは思って無かった。しかもご丁寧に朝の夢の続きかよ……ったく。
……そういえば俺、何で俺は倒れてるんだ? さっさと起き上が――ッゥ!?
体を動かした瞬間、至る所に痛みが走る。《激痛》と呼ぶほどではないが、断続的に続く上、ほぼ全身に伝わるソレにはかなり応えた。
だが、痛みでようやく完全に頭が回り始めたらしい。――そう、俺はラビとの模擬戦に負けたんだ。
理由は……恐らく新型になったラビの《可変腕》の性能を甘く見た事、だろう。
しかし、俺の銃に比べて性能が良くなりすぎてるだろ、アレは。拡散や収束を連続で打てるなんて反則だぞ……
後で俺の銃ももっと強化するように頼んどくか……と思っていた所で[コツ、コツ]とこの部屋に近づく足音を察知した。
ちょっと待て、今は一体何時だ?と、時計に目をやると、時計は既に17時を過ぎていた。
ラビと模擬戦を始めたのが大体13時ぐらいだから……4時間も意識を失ってたのか、俺は。
別に意識を失ってただけで4時間じゃない、だって俺はあの悪夢を見てたんだから――と、そんな事は今はどうでもいい。
それにしても……不味いな、刺客って事は時間的に無いが、依頼者だったら……無様を曝す事になる。
起き上がろうとしても、動こうとすると絶え間なく走る痛みが、ソレを許さない。
仕方ない、か。と、心の中で諦めた瞬間、部屋のドアが開いた。
そして、その向こうからセリアが入って来て、俺を見るなりいきなり声を掛けてきた。
「――やっと起きたみたいね、ネス」
どうやら、依頼者に無様を曝すには至らなかったらしい。
「あぁ、随分長い間寝てたみたいだ……ラビはどうしてる?」
と、俺を負かしたラビが今どうしてるか聞いてみる。その俺の問いに、散らかった部屋の足場を探しながら呆れたような声で答えた。
「あんたの変わりにケイジの訓練をしてあげてるわ」
――そう言えば、ケイジとの約束を護れてないな……しかし、この体で動くのも無理だろうし、しばらくはラビに任せるしかないか。
と、思っている間に、セリアは俺の寝ているソファーの直ぐ脇までたどり着いていた。
「そうか……っで、なんでお前がここに来たんだ? 傷口の治療はもう終わってるみたいだし、後は寝とけば治るだろ?」
その俺の言葉に、セリアが一瞬だけ逡巡して、直ぐに口を開いた。
「お見舞いよ、お見舞い。仲間なんだし、当然でしょ?」
一瞬の逡巡の正体が気にはなったが、どうでもいい事だ。何かあるなら用件は伝えるだろうし。
「まぁ、お前以外は来ない気がするけどな……」
そう、ケビンやラビは間違っても見舞いには来ないだろう。新入りのケイジは知らんが――
自分に利益の無い事は、俺だってしたくないしな……
「確かに、私以外は来ないかもね……まぁ、ネスが気にしないなら良いんじゃないかしら?」
と、セリアが再度呆れた声で言った。
そう、その通りだ。別に、来ても来なくても俺に得も損も無い訳だから、どちらだって構わないのだ。
損得ではなく気持ちの問題もあるが、別に俺はそんな事を気にするような人間じゃないしな……
「そうだな、確かにお前の言うとおりだ。けどまぁ、来てくれるお前にはそれなりに感謝はしてるさ、感謝だけだけどな」
「感謝のついでに、あなたにとって不利益じゃないだろうし、あなたのホントの名前、聞きたいんだけど?」
――なんて、笑いながら言ってきた。勿論、教える気は無いが。
「誰が教えるか、誰が――と、言うか俺は名前はとっくに捨てたんだって、何度も言ってるだろ?」
と、後半は少し強い視線を向けながら言った。
「そうね、何度も聞いてる。それに、聞き出せるなんて思ってなかったからいいけどね」
その視線を全く無視して、笑いながらそんなことを言った。そして――
「さて、ネスも元気だったみたいだし、私も暇人じゃないし、そろそろ戻るわ」
と、言って、再び足場を探しながらセリアが俺に背を向けてドアに向かっていくのを、俺はただ見つめていた。
そうして、ドアまでたどり着いたセリアがこちらへと振り返る。
「早く体、治しなさいよ。近い内にちょっと大きな作戦が入りそうだから」
最後にそんな事を言いながら、セリアは部屋を出て行った。
大きい作戦ね……この分だと二日は安静にしとかないと戦えないな……いや、完璧なコンディシィンにするなら四日……かな。
まぁ、作戦は最低でも決行の前に事前準備やらで三日は間を置く……今日に決定しても三日間もあるんだから十分だろう。
さて、どうせ誰かが近づいてこれば足音で気づくんだ、今日は早いけど、もう寝よう――

――to be continued.

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