EternalKnight
壱話-2-<鉄の腕>
<SCENE005>――朝
ケビンの意識は目覚めてから数分たって、ようやくはっきりしだした。
そのケビンに早速セリアに連れて来られている最中に考えていた疑問を口にした。
「なんで俺とケイジを探してたんだ?」
そうなのだ、俺とケイジを同時に呼んだ意味が解らない。戦闘に関してたら、ラビが呼ばない筈ないし……
「戦闘担当のお前等への朗報だ。因みにラビにはもう話したから呼んでないだけだ」
なるほど、ラビが居ないのはそう言う訳か……まぁ、一応納得はしたんだが、また疑問が生まれたので、それも続けて聞いてみる。
「朗報ってなんだよ?」
その俺の問いを聞いて、ケビンが口元を歪ませる。一体なんだって言うんだ?と、疑問を膨らみ始めた所でケビンが口を開いた。
「聞いて驚け。昨日の夜中、遂に今までの問題を解決した武装仕様のナノマシンが出来上がった」
ケビンが紡いだその言葉に、俺は一瞬信じられなかった。
「ホントかよ、あの問題が解決したのか?」
ホントに信じられない。まさかナノマシンが出来上がるなんて。
今までの問題って言ったら、修復速度が修復の度に遅帯化していく事……だったよな?
前のナノマシンの無限増殖を解決するのに六年かかってたから今回もそれぐらいかかると思ってたけど……
まさか、半分の三年で前の解決時に新たに出来た新しい問題を解決しちまうなんて……しかも今回は武装転用出来ると来た。
さすがは稀代の天才を自称するだけの事はある……否、昔はホントにそう呼ばれてたらしいが……
「えっと……ナノマシンって何ですか?」
そこで、思考中に声が割って入ってきた。そう言えば、こいつにはナノマシンについて話していなかった気がする。
もっとも、俺も簡単な概念と、どう言う役割を果たすかしか知らないから、俺に聞くより、ケビンに聞いた方が解りやすいだろう。
「分かりやすく言うなら、自動修復機構だ」
だが、その答えは非常に簡潔なモノだった。そんな説明なら俺にも出来ただろう。
否、俺でももう少し詳しく教えられる。ならなんでわざわざそんな簡単に教えたんだろうか?
俺には――
ナノマシンとは、そもそも超微細機械だ。ナノというのは10の−9乗を意味しており1メートルを1億分の1に分割したサイズの事だ。
ここでは超微細機械が、大気中から原子や分子を使って、新たに金属を再構築することにより金属の自動修復する機能のことだ。
――と、自然にコレぐらい思い出せるほど教えたのに。――などと思っていると、その答えは以外に簡単に分かった。
その答えに、ケイジがなんとなく納得した様な表情で肯きながら「へぇ〜」と相槌をうっていた。
……まさか、あんだけ簡潔に、役割での意味しか言ってないのにちゃんと分かってないのか?
そう言えば、ケイジはスラムの出だからマトモな教育を受けてないのか……まぁ、別に実物を見たら理解できるだろうが。
今日はケイジを鍛えようと思ってたし、せっかくだからナノマシン内臓の武器で特訓でもするか。
「それで、ナノマシン内臓の武装は? 早いうちに使って慣らしておきたいんだけど」
そう言った俺の言葉に反応して、ケビンが親指を突き立てた。
「用意してるに決まってるだろ?」
そう言って、ケビンが直ぐ近くの何かの上に布が掛けられていたテーブルに手を伸ばし、布を掴む。
「受け取れ、お前達の新しい得物だ」
そう言いながら、被せられていた布を一気に引き剥がした。
その下から現れたのは、今の俺の銃に限りなく近い形状の銃や、今までと若干形状が変化した手足の強化外装甲。
ケイジのトンファーも若干フォルムが変わって置かれている。……今使ってる装具品はほぼ総取替えだな、替わらないのはコートぐらいか。
「そういえばケビン、自動修復なら破損する可能性のあるブレードとかだけで十分なんじゃないのか?」
装備を見て思った素朴な疑問を投げかけてみる。そう、銃などの遠距離での戦闘に使用する兵装は余程の事でも無いと破損などしない。
「良く自分の得物を見てみろ」
と、俺の問いかけに自慢げに返してきたので、言われたとおり机の上に置かれた銃を拾って、良く見てみる。
形状は以前のモノとほぼ同じ、長方形。ただし、多少形が変わっている。
以前からの大きな変更点は、グリップ部に紅い球体が埋め込まれている事と、弾倉部になにやらゲージがついている事だろうか?
「この球体とゲージはなんだ?」
そうして、もう少し詳しく見た後、特に目立つ二つについて質問してみた。
「そのゲージが銃にもナノマシンを搭載した意味だ」
さっぱりわらないので、今度は銃以外の武装に目を向ける。
俺用の強化外装甲にも、ゲージはついていないが紅い球体はついている。それも、表面ではなく内側にだ。
さらにケイジのトンファーにも左右共にグリップの端に紅い球体がついており、ゲージも本体部にしっかりとついていた。
ざっと見た結論から言うと、この紅い球体が重要な機関なのだろう。全てに搭載されてる辺りがそれを示している。だが――
「その意味を聞いてんだよ、もったいぶってねぇで早く説明してくれ」
――それが分かっても、説明されなければ意味は無いのだ、当然のことなんだが。そしてその言葉を聴いて、ようやくケビンが口を開く。
「新しく付いた紅いのはNMCC(ナノマシンコアコントロール)って機関だ、ゲージは残弾数、或いは残エネルギー量を示してる」
「NMCC? 今までの問題を解決する為に付いた機関か? それに、残弾数の表示なんていらないだろ」
思ったことを、そのまま口に出した質問する。
「NMCCはお前の言うとおり、今までの問題を解決するための機関だ。あと残弾の表示だがな……それにも意味はある、むしろ無いと困る」
無いと困る? どう言う事だ?
「それはどう言う意味「あの……」
質問しようとした俺の声を遮るように。ケビンが声を出す。
「「どうした?」」
と、そのケイジに、俺とケビンが声をそろえて問いかけた。
「俺にも分かる用に話してください」
……そういえば、ケイジをほったらかしにして話してたな、俺等。――ん?
「おいケイジ、セリアはどうした?」
セリアが居ないことに気づいてそうケイジに問いかける。
「眠いからって、帰っちゃいましたけど?」
その俺の問いに、簡単にケイジは答えた。それにしても、部屋に戻ったのか、全く気が付かなかった……まぁ、いいか。

<SCENE006>――昼
それから数時間、ケビンによる『馬鹿にもわかる新武装&ナノマシン解説』が行なわれた。
纏めると、NMCCってのは最重要機関でコレは再生不可能で、その上破壊されると今までの問題が再発するモノらしい。
そして、ゲージの意味だが、ナノマシンが内部で弾丸を生成するのだ、事実上弾切れが起こらなくなると。と言うものだった。
それでも生成速度に限界があり弾切れは起こるらしいが。そして、常時再生する残弾数を確認する為に、ゲージが取り付けられたらしい。
なんにしても、時間さえ置けば弾数が増えるのはありがたい事だ。
「さて、講義はコレで終わりだが、何か質問は?」
何故か講義中に眼鏡を掛けていたケビンがソレを中指で押し上げながら問いかけてくる。
俺には質問はない。元から分かっていた事も多いし。そんな事を考えながらもう一人の受講者(ケイジ)に視線を向けると――
なにやら、呆けていた……どうやらアノ解説でも解らなかったんだな……
先程ケビンが放った一言以降、誰も声も、物音も出さなかったので、部屋の中が数秒ほど静まり返った。
「質問は無いな。それじゃあ講義は終わりだ、後は各自で訓練場でも使って訓練するように」
と、最後のそういい残して部屋を出て行った。
昨日の夜中に完成させた、と言う発言から予想するに、眠りに行ったのだろう。目の下にクマも出来てたし。
「さて、じゃあ早速この新しい武装で訓練でもするか、ケイジ準備しろ」
ケビンが出て行って数秒で俺は立ち上がりそう言いながら、新型の強化外装甲を身に着け始める。
だが、ケイジはイスに座ったまま動こうとせず、未だに呆けていた。仕方ない――
「おい、クソガキ!」
と、その俺の声に[ビクン]と大きく反応した。その後、すぐ様俺の居る方をみて、呟いた。
「あ、あれ? ケビンさんは?」
まさか、聞いてなかったのか? 確かに目は開いてたから寝てたなんて事は無いだろうが……否、まさか、目を開けたまま寝てたのか?
――さすがにソレは無いよな。ソレはもう『寝てた』じゃ無いだろうし。
「講義はもう終わった、新型を慣らすのと訓練を一緒にやるから早く新型の強化外装甲をつけろ」
その言葉に、やっと状況を理解したように強化外装甲を身に付け始めた。

<SCENE007>――昼
地下にあるケビンの研究室のさらに下、其処に俺達《牙》の訓練場がある。新たな強化外装甲と新たな武装を身に付け、其処へと移動する。
其処にはやはりと言うかなんと言うか、先客が居た。強化ガラスの向こう側にだが。
それは、一斉に立ち上がる十数のターゲットから打ち出される模擬弾をかわし、或いは拳で叩き落しながら真紅の長髪をなびかせる人影。
さらに人影は、ターゲット達が次の射撃を行なう前に右腕をターゲット達に掲げ、左腕で右腕を押さえる。
瞬間、右腕から数多の金色の光が伸びて、ターゲットを全てほぼ同時に撃ち貫いていた。
そして、打ち抜くのを確認すると同時に、長髪の人影――ラビがこちらに視線を移してきた。
まぁ、アイツなら俺達が来た時に気配で気づいていただろうが。
訓練用の機械も止まったようなので、俺達は扉を開けて中に入って声をかける。
「よう、新しい得物にはなれたか?」
その俺の声に、手を上げながらラビも歩み寄ってくる。
「お前も来たんだな、ネス。私は大分慣れたから今日は上がるつもりだ」
そう言いながら、ラビは額の汗を拭った。
「なんだ、お前はもう上がるのか?」
残念だ、せっかくラビが居たのに入れ違いかよ。
「いや、昨日の夜中からやっていたのでね……所で今の時間は?」
と、なにやら凄い事を言う。昨日の夜中が何時なのかは知らないが、ソレは相当な時間じゃないか――
「詳しい時間は知らん、もう直ぐ昼だけどな」
と、答えながら、そういえば朝も昼も食ってなかったな、などと今更思い出した。
「ホントか? 朝を食べなかったのか……通りで腹も空く訳だ……」
と、俺の答えに一人で納得した様に肯いている。
ソレを聞いて、俺の後ろに居たケイジが声を上げる。
「ネスさん、俺達も昼飯食ってませんよ」
その言葉に反応したのか、ラビが俺の方を掴みながら
「そうか、ならば一緒に昼でもどうだ?」
なんて言って来た。まぁ、訓練をするなら何か食べておいた方がいいだろう。
「そうだな、昼でも食いに行くか……店はいつもの店でいいな?」
まぁ、食べて直ぐ動くのは厳禁だが。と、ソレはさておき俺の顔を見ながらラビが呆れたように言ってくる。
「決定だな。それにしてもお前はいつもあの店に行くな、そんなに美味いか? あそこの料理?」
あー別に俺だって、あそこの飯が食いたくて行ってる訳じゃないんだけどな。

<SCENE008>――昼
相変わらず、店に来ている人々の視線を感じる。主に男の――詳しく言うと、俺達にでは無く、ラビへ向けられた視線だが。
まぁ、毎度の事だが……ラビは傍から見れば体型も筋肉は付いてるけど痩せ型だし、顔だってかなりの美女に見えるし。
因みに、この店を選んだ理由は一つだ。飯が早く出てくる。コレだけだ。コレはむやみに犠牲を増やさない為の措置だったりする。
別に犠牲が出ても構わないけど、連れが暴力的行動を取ると、なんか店に居づらいのでラビと一緒に飯を食いに行く時はここに来ている。
と、言っても一緒に居る時に機嫌を損ねると、後で色々と大変なんだが。それでも、起こるときには起こるのだが――
ほら、またチャラチャラした男達が寄って来た。残念ながら、彼等はしばらく入院だろう。
「ねぇそこの彼女、そんなガキや男と一緒に居ないでさ、俺達と遊ばない?」
などと言いながら、数分後の自分の運命を知る由もなくラビに詰め寄ってきた。
ソレをラビが相手にもせずに無視しながら昼食を口に運んでいる。――どうやら、まだ抑えてくれているようだ。
「んだよ、無視かよ」「こんな店にアンタみたいな美人連れて来るような男はほっとこうぜ」
と、哀れな男達は口々に言っている。全く、全員でやってもケイジにすら勝てるか勝てないか分からん様な連中が粋がってるもんだ。
「んだよ、男の方もだんまりかよ、つまんえぇな、おい」「彼女もさ、そんな奴等と居て楽しい?」
そしてその男達の言葉に、とうとうラビが立ち上がった。あぁ……せっかく過去最長かもしれないくらい怒りを抑えてたのに……
「お、なんだよ。その気になった?」
そう言いながら、最初に話しかけてきた男がラビに手を伸ばした瞬間――
――[ボキィッ!]と、嫌な音が響き渡り、同時にラビに近寄った男が宙を舞っていた。その男の連れだった男達は、ソレを見て硬直する。
男が宙を舞った理由、ソレは言うまでも無くラビの放った右の鉄拳だった。と、言うか、殴られた男の鼻が陥没している。
まぁ、あの腕は義手で金属製だし……陥没するのは当然と言えば当然なんだが。なんでも重さ20キロはあるらしいからな、あの義手。
そして、お約束のラビの一言が店内に響く。
「黙れ、クズ共。私は男だ!」
あぁ、周りのお客さんが引いてる引いてる。だからラビを起こらせたくはなかったのになぁ……
それにしてもホント、外見は男にしとくのが勿体無い程だと、俺もつくづく思う訳だが。

<SCENE009>――昼
「ネス、ちょっとだけ付き合ってくれないか?」
飯を食い終わって、居づらい雰囲気の店からやっと出てきて、アパートまで帰ってきた来た時、ラビからそんな事を切り出してきた。
ほぼ100%と言っても間違いない予測は付いてたが、とりあえず「何にだよ?」と聞いて見る。
帰ってきた来た答えは言うまでも無く予測と同じ内容の――
「これから少し模擬線でもしないか?」
と、いった物だった。全く持って迷惑な話だ、ストレスの捌け口を俺にしないで貰いたい。
それでも、ラビとの模擬戦は数ある訓練の中でもっともやりがいがあるのだ、断る理由もない。
「いいぜ、付き合おう」
俺がラビに了承の意思を伝えると、同時に「はぁ!?」と、ケイジの声が聞こえてきた。
「ちょっと待て、俺の訓練はどうしたんだよ!」
叫ぶその声には、怒気が混ざっているが気にしない。コイツの訓練もしてやらなければいけない、という事も忘れた訳ではない。
――そう、ソレについては既に考えがある。と、言うかどちらにしても始めはそうするつもりだった。
「訓練場にあるのを全てやれ、少なくとも十セットだ」
と、ケイジに告げた。
ソレを聞いてあからさまに嫌そうな表情をしたが、基礎力の面で既に俺とラビに劣っている以上、ソレはもう鍛えるしかない。
基礎力が無ければ、技術があっても、ソレを実戦で体現することなどほぼ不可能なのだ。
さらに、直感力等も反復的なトレーニングか天性の才でしかありえないのだ。
勿論、ケイジはそれに関して天性の才など無い。
「わかったよ、やってこればいいんだろ? ……ったく」
そう俺が考えてるうちに、悪態をつきながらもやる気にはなってくれたようだ。

――to be continued.

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