EternalKnight
零話-3-<完遂>
<SCENE-006>――Night
と、歩いていると、殺気を感じた。直ぐ手前の曲がり角の壁際に……誰かが居る。
「……そこの壁に隠れてる奴等、出て来い。素直に出てこれば殺しはしない」
腰に収められている、銃としては歪な長方形を引き抜き壁に向ける。
――返事は返ってこない。銃を構えたままの姿勢で、指のみを動かし引き金を引く。
引き金を押された瞬間より、無骨な長方形は予め与えられていた動作を果たし、弾丸の射出である。
銃声が響く、一つ目の音が消える前に、次の音が鳴る。そして一秒に満たない時間で放された引き金は、与えられていた動作を止め停止した。
たった二発の威嚇射撃。それだけしか行っていないのに、奴さんはもうあきらめてしまったらしい。
まぁ、隙を突いての行動とは言え、一度も騒ぎを起こさずに16人黙らせたのがよかったんだろう。
曲がり角から今までの警備兵と同じ服装をした男達が現れた。その数は4――コレで全部……だよな?
「おい、あんた等」と、無骨な長方形の殺戮兵器を突きつけながら問いかける。
その俺の声に「……なんだ」と、四人組の先頭に立っていた男のみが答えた。
まぁ一人でも会話できればそれでいいんだが――
「警備は倒れてるのとお前等で全部か?」
「……あぁ、そうだ」
意外に素直に答えてもらえるとありがたい。が、罠の可能性も捨てきれない。それでもまぁ、ここで嘘だのホントだの言っても仕方ない。
「そうか、情報ありがとう。俺は仕事があるんでお前等は好きにしろ」と、四人の警備兵達を無視して、角を曲がって歩き出す。
角を曲がりその後、一度小さく振り向いて「――ただし、俺の邪魔をするなら叩き潰すがな」とだけ言い残して、俺はその場を後にする。
この先が、大寝室にあたる場所だったはずだ。さっさと言って依頼を果たそう。そう思い、歩調を速めようとした時、背後から声を掛けられる。
「……邪魔する気なんて無いさ。……最後に一つだけいいか?」
振り向けば、さっきの四人組の中で唯一俺と会話した男だった。
その男が俺を見ながら問いかけてくる「あんた……一体何者だ?」と。
その問いに俺は「なに、ただの国家反逆者さ」とだけ答え、再び男達を背にして駆け出した。

<SCENE-005>――Night
大寝室と名づけられた部屋、ケビンの部屋にあった資料曰く、この部屋の可能性が一番高い。
レーザーやらなにやらが使えるようになっている実質一番安全な部屋……ここに居なければしらみつぶしに部屋を調べるしかない。
まぁ、それでも警備兵を黙らせているから大した苦労ではないのだが。当然のことだがドアには鍵が掛かっている。……まぁ壊すしかないか。
そもそも、こう言った部屋の扉は、銃程度では、余程の大口径でもなければ破る事は出来ない。だが、それは銃であれば、の話。
両腕部の装甲が展開し、中からブレードが現れる。それらを握り、構える。
このブレードは作ったケビン曰く、現代科学最高レベルのモノらしい。と、言ってもアレはまだ内蔵されていないらしいが。
まぁ、それを除いても、靭性と剛性を限りなく高い状態で両立させた上、先端は分子一個分の鋭利さを持つんだとか。
前回の作戦時に今までのブレードと入れ替えたので、本格的に使うのは今回が初めての武装だ。近い内にアレが完成する以上、直ぐに御蔵行きにはなりそうだが。
それはさておき、正直、どうすごいのか分かりにくいが、まぁそれはどうでもいいだろう。
「さて、ケビンの自慢の一品の性能……見せてもらおうか」
右手のブレードでドアに向けて一閃を放つ。すると、刃は驚く程呆気なく沈み込み、再び姿を現した。
続けて左のブレードで一閃する。こちらも呆気なく扉を裂き、内部に沈む。
「さすがだな……豆腐みたいに斬れやがる」
俺は感嘆の声をあげながらさらに連続して刃を振るい、その速度を徐々に加速させていく。

<SCENE-004>――Night
――斬撃。
――斬撃、斬撃。
――斬撃、斬撃、斬撃。
十数撃程切り込んで、動きを止め、ブレードを元の装甲内部に収納し、右腕で無骨な長方形を腰元から引き抜いて、左手でドアを軽く押す。
すると、押し部分のパーツが沈み、それによりバランスを崩したドアは一斉に崩れ落ちた。
そうして、崩れ落ちたドアの向こうから、声が響いてくる。
「ドアを壊して入ってくるなんてね、ずいぶん手荒なことをするじゃない。せっかくの楽しい一時を邪魔しないでくれるかしら?」
「それは失礼をした。まさか行為の最中だとは思って無くてな」
そう言って、部屋の端で銃を構え、毛布一枚しか身に纏っていない男女を見据える。女は言うまでも無く標的。
男は――どこかで見た顔だと思ったら……なるほどそう言うことか。
「……さて、唐突で悪いがティム=フェンディム、あんたを殺しに来た」
「あら……この状況でよくそん事が言えるわね?」
その女は俺を見据えながら余裕の表情でレーザー砲を構えている。隣に居る男が持つのはただのハンドガン。
「あんたに怨みはないが……こっちも仕事なんでね」男女の構えた武装を無視して、俺は言葉を続ける。
「あなた、自分の立場が分かってるの?」
と、女は勝ち誇った表情で俺を見つめているが、そんなモノを見せたぐらいで勝ったつもりで居るのか? おめでたい奴等だ。
「あぁ、分かってるさ、少なくともお前等よりはしっかりとな」
「っ、立場をわきまえなさい!」
そう叫びながら女がレーザー銃の引き金を引いた。
瞬間、文字通り光の速度でレーザーは射出され、俺の居た所へ一直線に伸びる。――が、それは俺に当たることなく背後の壁を焼き切った。
勿論、俺にはソレが視認できたわけじゃない。――が、引き金を引くタイミングさえ分かれば、打ち出されたモノがどんなに早かろうが関係ない。
つまり、移動して発射口から直線に伸びる位置に、自分が居なければいいのだ。
レーザーの先に俺は居ないのであたる事は無い。そして、レーザーは高出力故に、一度撃つと次を撃つのに時間が掛かる。
俺がレーザーをかわしたのを知ると同時に、弾丸の発射音が響く。
撃ったのは俺ではなく女の隣にいる男――だが、迫る弾丸を強化外装甲で包まれた左腕で殴り落とし、右手に握られた長方形の先を女に合わせて、引き金を引く。
その瞬間より、無骨な長方形の箱は与えられた機能を果たし、次々に鉛を吐き出す。
雨が地に撃ちつけられるように絶え間なく鉛を撃ち出し、銃声を響かせる。――十数秒して、弾を撃ちつくしたのか、銃は鉛を排出するのをやめた。
銃身の先には、赤い液体が飛び散り、原型をかろうじて留めている躯があった。
銃弾に撃ち抜かれ続け、地面の沈む事すら許されなかった躯は、打ち抜く弾丸の雨が止む事により、やっと本来在るべき様に地面に崩れ落ちた。

<SCENE-003>――Night
……これで仕事はとりあえず成功。後は――
「なぁ、そこのあんた」
先程の銃撃をとっさに倒れこんでかわした男に近づきながら声をかける。勿論、俺が狙ったのは男ではなく女のだ。否、むしろこの男には当てないつもりで撃った。
「な……なんだ」俺の声に恐怖に引きつった顔で反応する。まぁあそこまで無残に殺す姿を見れば誰でもおびえるか……
「お前は……何でここに居るんだ?」
「……え?」
俺のした質問の意味が解らないと、言った表情でこちらを見ている男に「答えろ」と先程よりドスの聞いた声で言い放つ。
同時に、すばやく右手の銃をしまい、左手でもう一挺の銃を抜き、突きつける。
すると、やっと状況を理解したのか、男が喋りだした。
「俺は、この女に雇われたんだ、金を払うから私の夜の相手をしないかって」
「お前は雇われる前、何をしていた?」
「ここの……警備兵をやってた」
死を恐れているのか、聞いた事はなんでも話してくれるようだ。
「お前は、死んだ人間のはずだ。そう情報が公開されているのになんで生きてる?」
俺の問いに、信じられないモノでも見たかのように、一瞬男は固まったが、突きつけられた銃口を見て、再び喋りだす。
「な、なんでそんな事まで知ってるんだ? あんた?」
――が、ソレは回答ではなく俺への問い返し。
「いいから答えろ、死にたくは無いんだろ?」
そう言って、銃口をさらに男に近づけて返答を促す。
――コレは無意味な脅し。
「……雇われる前に付き合ってた女がいたんだ、そいつと縁を切る為だ」
「なんでその女と、あの女を比べてあの女を選んだんだ?」
と、視線を骸に向けながら告げる。
「……当然だろ、顔も体型も金も全てティムの方が上だった。ティムの方が良いに決まってるじゃないか!」
当然かのように、男がそう言う。コイツは、もう救いようが無いな……

<SCENE-002>――Night
「そうか……所でな、俺は誰に頼まれてここに来たと思う?」
「……え?」俺の問いに、男の顔が疑問に満ちる――
「さっきの話にあがったお前の元彼女だ……お前を殺したあの女を殺してくれとな」
「っ……余計なことを」
「さて、俺はな、お前みたいな男が死ぬほど嫌いなんだ……」
銃を強く握り、引き金に手をかける。
「待て、許してくれ。気に障ったのなら謝る、だから命だけは――」
こちらに懇願してくるのを見て――余計に殺したくなった。
「誰に赦しを貰おうとしてる? お前が真っ先に謝るべきなのは彼女にだろ?」
――コレは、無意味な会話。
「あぁ、そうだった。彼女の元に謝罪に行く、だから――」
心の底から思っている事でも無いことを口にしているのが分かる。ソレがまた、ムカつく――
「……だがな、彼女の中でお前はもう死んでるんだ」
「だったら尚更だ、僕が生きてると知れば彼女も喜ぶ!」
自分の生き残れる道でも見つけたつもりなのか、男が意気揚々とそんな事を言った。
「――解らないのか? 彼女との契約にお前を連れて帰って来いなんてのはないんだよ」
「……っなら、金を払う! 女も用意する、だから命だけは――」
必死に男が叫び、見苦しい醜態をさらす。
「何より、彼女の中で死んでいる以上、お前は……死んだ方がいい」
――コレは俺の下した判決。
「まて、待ってくれ! 助けてくれ、お願いだ!」
「お前を助ける義理なんて俺には無くてね? 彼女の為に一秒でも早く……逝け」
――そう言って、俺は、引き金を引いた。
響くのは、無骨な箱が弾丸を吐き出す音のみ、その音が、醜い断末魔すらもかき消した。

<SCENE-001>――Night
仕事をやり終えて、伸びをしながら屋敷から離れていく。
「さて、仕事も終わったし……家に戻るとしますか」
そう言いながら、俺はゆっくりと屋敷から遠ざかった行く。
警備の連中とは話をつけているので、治安部隊が駆けつけるのは少なくとも明日の朝だろう。
彼女も待ってるだろうし。少し急ごう。
さすがに爆弾をつけたままじゃ不安だろうしな……
――真実を彼女には語らない。
――そんなことをする意味は無いから。
――それに……世の中には知らない方が良い事の方が多い。
それを、自分が一番よく知っているから……
えぇい、暗い考えは止めだ。さっさと帰って飯でも食おう。
暗い考えを捨てて、俺は帰路を歩みだした。

――――ToBeContinued

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