EternalKnight
零話-2-<潜入>
<SCENE-012>――Afternoon
同じアパートの一階にあるケビンの部屋のドアをノックをせずに開け、中に入る。
そこはいつも通りのケビンの部屋だった。何の変哲もない、小奇麗な部屋だ。
……って言うかむしろ何もなさ過ぎて逆に怪しさを漂わせている。
そしてこれまたいつも通り、ケビンはこの部屋にはいない。
入ってきたドアが閉まるのを確認してから、部屋の奥にあるタンスの上から七段目……一番下の段をあける。
その中には、びっしりと洋服が詰まっている――が、俺はそんな物には目もくれず、服の中に腕を突っ込む。
確かこの辺に――[カチッ]っと確かな手ごたえを感じる。どうやら探している最中に押してしまったようだ。
どうせ押すつもりだったから問題はないんだが……すると、部屋の隅の床が煙を吐きながら持ち上がり、地下への階段が現れた。
……毎回思うが、こんな仕掛けを作る必要がどこにあるんだろうか?
まぁ、ケビン本人に聞いても「かっこいいから」とか「ロマンがあるから」とか、わけの分からん返事が返ってくるだけなんだが……
――と、まぁそれはおいておいて、ケビンがいるであろう地下へと深く広い縦穴に作られた螺旋階段を下りていく。
程無くして、俺は最下層にたどり着き、分厚い鉄のドアを開ける。
ここもいつも通りのケビンの研究室だった。
――とは、言ってもこちらは怪しい実験器具等多すぎる程散らばってはいるが。
「おーい、ケビンッ!」と叫んで呼んでみると、「どうした、なんか用か?」と、すぐに返事が返ってきた。
即座にその声のする方に視線を移す。そこには三十代半ばの金髪オールバックの男が居た。もちろんコイツがケビンなわけだが。
服装はいつもの如く白衣。なぜかいつもその下は何も着ていない上半身裸の半裸である。
理由を聞いてもこれまた「かっこいいから」としか言わないのである。
「それで、何の用で来たんだ、ネ――」
十年も前に捨てた名で呼ぼうとしたケビンを睨みつける。
「――ス、そんな怖い顔をするなよ」
「あら、残念。せっかくネスの本名が聞けると思ったのに……」

<SCENE-011>――Afternoon
この声は――
「……お前も居たのかセリア」
「居たら悪いかしら?」
そう言いながら実験器具(?)の後ろから蒼いポニーテールの女が姿を現す。
「最初の一文字は分かってるんだけどね……」
「余計な詮索をするな、だいたいそんなに知りたいなら自分で調べろ、お前なら簡単に出来るだろ?」
まぁ俺としては知られたく無いわけだが、自力で調べられたのならそれはそれで仕方ない。
「そうでもないわよ。あんたぜんぜん自分の事話さないじゃない、手がかりなしじゃどうにも出来ないわよ」
「そう言われると、なおさらヒントはやれんな」
「……まぁ別に何でもいいけどね」
「で、ネスは何でここに来たんだ?」
そのケビンの質問で目的を思い出した。
「ちょいと仕事が入ってね」
「ほう、お前がここに武器を取りに来たってことは大物か?」
まぁ、そう思われても仕方ないか……
「いんや、大して有名でもない自薦議員だ」
「なら情報を見に来ただけか?」
「場合によっちゃここのを一つばかりもって行くかも知れないがな。それを決める為にも情報が必要だ。ってことでパソコン使わせてもらうぞ?」
「あぁ、いいぞ」
その言葉を聞いて、俺は歩き出す。目的地はこのすぐ奥のパソコンだ。
「それで、今回の報酬はいくらだ?」
後ろから話しかけられたので振り向かずに歩きながら答える。
「2000‡だ。それがどうかしたか?」
「2000‡か……それで、今回はどっちだ?」
見えてはいないがケビンは妙ににやけた面が目に浮かんだ。
「期待に添えなくて悪いね、俺の負けだよ」
「……そうか、つまらん」
何気にアイツは俺の部屋にカメラを仕掛けていたりする。まぁ、別に俺は気にならないから放置しているが……

<SCENE-010>――Afternoon
「ちょっとネス。あんたたったの2000‡で自薦を殺る気?」
ケビンが喋らなくなったと思ったら今度はセリアが騒ぎだす。
「そうだが?」
これも振り向かずに答える。もちろん立ち止まらない。
「割にあわな過ぎるわよ」
「割もなにも、どうせ一人殺るって内容は変わらないんだから問題ないだろ?」
「……確かにそうだけど、普通はそんな額じゃ引き受けないわよ?」
「他は他だ。もう引き受けたんだから、突っぱね返すわけにもいかないだろ?」
会話をしながらパソコンの前まで歩き、そのまま電源を押して立ち上げる。
「……セリア、ネスと言い争っても無駄だって分かってるだろ?」
「……分かったわよ、好きにすれば。情報収集しか出来ない私が口を出すことじゃ無かったわね」
「分かればいいんだよ、分かれば」
それっきりセリアとケビンの声は聞こえなくなった。
パソコンの画面を操作して、ティム=フェンディムの情報を引き出す。
キーボードを打つ音が響く。……よし、見つけた。

<SCENE-009>――Afternoon
――Name-ティム=フェンディム――
――Age-26――
――Sex-♀――
――BloodType-B――
――PastRecord――
――順に表示された情報に目を通して行く。
「なるほどな……」
そこで背後に気配があることに気がついた。
まぁ、ここにいるってことは仲間なわけだが……
「ちゃんと調べられた?」
俺が誰か確認しようと振り向く前にセリアの声が聞こえてきた。
「なんだ、お前かセリア」
もっとも、さっきまでいたセリアかケビンが一番可能性として高い訳だから驚くことでもない。
「私で悪かったわね、それで調べられたの?」
そう言いながら画面を覗き込んでくる。
「うっわ、なんかもろに整形しましたぁって顔ね」
「あぁ、実際整形してたぞ過去に顔を五回ほどな」
「しかもこの年、その上この顔で自薦議員ってことは……」
「だな、履歴に12の時から自薦やら国定の元で働いてたと残ってる」
しかし……12の少女を雇ってナニさせるような奴等が法律を変えれるような会議に出てるってのはどうかと思う。
案外、世界が昔のみたく複数の国家に別れる日は近いのかもしれんな。
「――に、しても。体を売ってまで金持ちになりたいのかしらねぇ? 私には分からないわ、そんな考え方」
「まぁ、そのあたりは考え方しだいだ」
「それはそうだけど……」
なんだか言いたいことがあるようだが、言い出せないなら聞く必要も無い。
「だったらいいじゃないか。俺もどうかと思うがな、そんな生き方……怨みを集めるだけだ」
「あんたの生き方のほうがよっぽど怨まれるわ……」
「……確かにな。殺しを生業にしてて怨まれないなんてありえないさ。だが、怨まれると同じか、むしろそれ以上に感謝される」
そう、怨まれる人間は、普段から怨まれるような事をしているのだ……まぁ稀にそれに該当しないこともあるが……
「言いたいことが山程あるけど、今はいいわ」
「そうか」
俺はパソコンの電源を切りイスから立ち上がる。必要そうな情報は全て覚えた。再確認する必要なんて無い。
まぁ仕事が終わればきれいさっぱり忘れるだろうが……
「……相手は自薦議員よ? 大丈夫なの?」
「たいした規模じゃなさそうだ。自薦だから最悪《ケルベロス》を持っていく気だったんだが……部屋にある分だけで軽くひねれそうだ」
そう言い残して、俺は来た道を引き返した。

<SCENE-008>――Evening
ケビンの研究室から出た俺は、階段を上がり二階の自分の部屋へ戻った。
「あれ、どうしたんですか、ネスさん? ひょっとして何か忘れ物でも――」
「いや、もう調べてきた」と、俺のその言葉に女は「――ぇ?」と、心底驚いた表情でこちらを見つめていた。
「個人情報、それも自薦議員さんだと結構機密みたいになってるんじゃ無いんですか?」
うん、まぁ、もっともな質問だ。
「いや、近くに住む知り合いで情報屋がいてね、そいつのところで聞いてきたのさ」
まぁ、セリアは情報調査専門で、近く(同じアパート)に住んでいるから嘘ではないだろう。
だがしかし、他人の情報、それも自薦議員のモノと成ると、十分そこいらで簡単に手に入るものではない。
では、どうしたのか? 答えは簡単。はじめからそのデータを持っていたのだ。
まぁ、普通は高額で依頼でもされなければ情報屋もといクラッカーは危険なので手を出そうとはしない。
だが、俺達は違う。国家そのものと対立する俺達《復讐の牙》は、常に議員や政府関係者の個人情報を出来る限り手元においておく必要がある。
今だ、情報を得れていない関係者は居るが、それも交代制の議員枠に何年も居座り続ける上位の国定、自薦議員と、五聖天の裏の顔程度だが。
と、これは仲間内でしか知りえない事であり、ただの仕事の依頼者である彼女に言っていい内容じゃない。
「そうなんですか……」
まぁ納得してくれたようだし、これ以上何もいうことは無いだろう。
そもそも、俺達《復讐の牙》の話は、例え情報を漏らす可能性の低い者にでも教えないに越したことは無い。
何せ、国の実質的な支配者達の立てた極秘のプロジェクトを完全に廃絶さす事を目的として活動してるんだから……
それもたったの四人で――っと今は五人か。
否、そもそも今そんなことに思考を巡らせてどうする……
「えっと、それじゃあ今から行く準備をするんですか?」
「そうだけど?」と、言いながらタンスをあさる。
コレもケビンが改造したちょっとばかり特殊なタンスだ。
まぁ言うまでも無く奥にはボタンがる。コレを押すと――タンスの横の壁がゆっくりと開いて小型の武器庫になる。
この部屋に窓が無いのはこの仕掛けを作る上で窓は邪魔だったからなくしただけなのだ。
まぁ、ケビンが言うように「ロマンがある」かどうかは別として、この機能は十分に俺の使用目的にあっている。
早速小型武器庫の中から強化外装甲の両足と両腕を出してくる。もはや眼を瞑ってもつけられる装甲を一つずつ手早く確実に取り付けていく。
三分程で装備を付け終わり、関節が動かしにくくないか等を確認していく。
「――よし、大丈夫だな」
今度は倉庫を内側からボタンを押して閉める、まぁゆっくりと閉まるのでそれまでに出てこればいいわけだ。
倉庫から出て、ロングコートを羽織る……コレは普通のロングコートだ。
これから殺りに行く自薦議員の邸宅にもレーザー兵器があるにはあるが、一つしかないならわざわざ直ぐに消耗するアレを身に纏っていく必要は無い。
「それじゃあ行ってくる、まぁ朝までには戻るから安心しとけ」と、それだけ言い残して俺は部屋を後にした。

<SCENE-007>――Night
――気配を出来る限り殺してティム=フェンディムの屋敷から少し離れた森の中で様子を伺っている。
「さて、どうしようかな……」と、言いつつ今回持ってきた武装を改めて確認する。
強化外装甲は両足と両腕。近接用武装のブレードは腕の装甲にそれぞれ一つずつ入ってる。
後は……常備しているサブマシンガンが二挺。予備の弾倉は相手の規模が大したこと無いので持ってきていない。
ケビンがアレを早く完成させてくれれば、予備の弾倉なんざ気にしなくても良くなるのにな……まぁ無いモノの事を考えても仕方ない。
情報だと、警備兵の数は20人。今、持って来ているだけでも、たかだか20人と目標を殺るだけなら十分過ぎる装備と言える。
今回の標的の邸宅は屋敷こそ広いモノの、土地そのものの面積は広くないので周囲と隔てる塀が無い。
まぁ、早い話が保有する敷地全てを屋敷のスペースとして使っているのだ。
しかし、警備の連中も平和だな。屋敷の入り口だけに三人も人員を導入してる……
「よし……行くか」と、小さく呟いてロングコートを翻し、俺は駆け出した。
屋敷の周囲をうろつく警備も居たが、たった1人で回っているだけ。
挙句巡回ルートが定まっているのか、一定時間間隔でしか同じ場所を通っていない。故に隙は何処にでもある。
……と、まぁ杜撰な警備のおかげで呆気なく、さらに誰にも見つからずに屋敷内に進入できた訳だが。
まぁ、どっちにしても全員相手にしなきゃなんなんないんだけどなぁ……銃を使うと、だけど。
サイレンサーなんか付けてないからな……撃つと音で気がつかれる。先に警備兵をのした方が楽だろうな。まぁ、1人ずつ眠らせてやるか……
――――で、とりあえず隠れながら移動して見つけた警備兵を片っ端から昏倒させておいた。
今ので16人目だから、ケビンの所で仕入れた情報の通りなら残り4人か。
しかし警備の奴等全員一撃で昏倒するとは思ってなかった……もう少し抵抗できてもいいだろうに……俺として抵抗が無い方が楽なんだが――
さて、さすがに昏倒させてる奴を誰かが見つける頃だろうな……
と、言っても手刀で昏倒させた後、全員の鳩尾に余さず一撃入れたから、少なくとも今晩中には目覚めないだろう。故に、増援でもない限り増えないと思う。
瞬間[ジリリリリリリリリリ]と、大音量で警報が鳴り出した。……まぁ残ってるのは情報に間違いがあったとしても10人がいい所だろう。
とりあえず、隠れていても意味は無い。さっさと移動して、標的を殺そう。まぁ、標的に近づけば、残りの警備も出てくるだろう。
……大寝室だったかな? 一番標的がいそうな場所って? 等と思いながら、手に入れた情報から大寝室へのルートを思い起こす。
まぁ、迷いはしないだろう。

――to be continued.

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