EternalKnight
零話-1-<依頼>
<SCENE-021>――Nighttime
――久しぶりに夢を見た。最近見なかったあの悪夢を。
それは十年も昔の出来事。だけど、今の様に稀にあの光景を眠りの合間に見る事がある。
毎度ながらの胸糞の悪くなる夢。過去の自分の無力さを思い知らされる、悪夢。
……その夢にうなされ、俺は目を覚ました。
――薄暗い部屋。否、深淵の闇に飲まれた部屋。
窓は無く、外への出口にドアがあるだけの部屋。
外は夜だろうが、月光に照らされている分、この深淵よりは遥かに明るいだろう。
だが、この深淵も今の俺にとっては薄暗く感じられる。
……まぁ、俺の瞳がこの闇に慣れたからなんだが。
さて……眼が完全に覚めちまったな、これじゃあ中々寝付けそうにない。
何も考えずに、意味も無く暗い部屋を見渡す。
薄暗くて見え難いが、ゴミが片付けられずに散乱しているのが分かった。
うん、何時も通りの部屋だ。と、言ってもいつも通りじゃない訳が無いんだが。
にしても……片付けくらいしろよ、俺。
[―――ン、―――ン]
そこで、小さな音を察知して、神経を音を拾う事に集中させる。
[カツン、カツン]
……これはこのアパートの階段を上がってくる音だ。
ここの住人は皆すでに自分の部屋に帰って来ている筈――
ならば階段を上がってきたのは……誰だ?
仕事の依頼者……か?
ゆっくりと近づいてくる足音は階段を上りきると、俺の部屋の前で途絶えた。
部屋に入ってくる気配は無い……か。戸惑ってるんだろうか?

<SCENE-020>――Nighttime
それから数分して、俺は痺れを切らし、ドアの向こうに声を投げかけた。
「何の用かな?」
「ひっ!」
――依頼者だろうな。
まず無い事だろうが、俺の首でも獲りに来た奴なら、まずあんな声を出したりはしないだろう。
「で、何か用?」
「名無しさん……ですか?」
やっぱり依頼者みたいだな。
ドア越しの会話だが、声から察すに確実に女のモノであろう。
「仕事の話だったな、入ってくれ。鍵は開いてる」
「それじゃあ失礼します……」
あぁ、そうだ電気を付けないと――
寝転んでいたソファーから起き上がり、俺は壁際まで歩き電気を付けた。
「――っ」
先ほどまでの深淵が嘘のように明るくなり、俺は一瞬目を細めた。
そして、何事もなかったかのように入ってきた女に視線を向ける。
髪はブラウンのツインテール、テール部(?)は肩まで届く程度。
顔のバランスも整ってて悪くない。美人と言うより可愛いと呼ばれるような顔立ち。
……十分に合格点だ。
身長は……155前後。上から……70、58、72の誤差±2って所かな。歳は……20歳前後だろうか?
目測で行った測定にかかった時間は2秒弱、気付かれてはいないはずだ。
「さて、それじゃあ、汚いとこだけど、ソファーにでも座ってくれ」
「あの……一ついいですか?」
足場に気をつけながらソファーの所まで移動して腰掛けると、少女は俺に問いかけてきた。
「あん? どうかした?」
「あなたが……名無しさん本人ですか?」
「そうだけど? イメージと違ったかな?」
「はい、もっとごつくて怖い人かと思ってましたから、それに……若いんですね」
まぁ、殺しを請け負うような人間が……それも名前がスラムで売れてる奴が、こんな若いとは普通思わないだろう。
「まぁ、どんなのを想像してたのかは知らんが、俺が本人だ。それと、年は実力に関係ない」
「そうですか……」

<SCENE-019>――Nighttime
「さて、早速だが仕事の話と行こうか?」
「その前に、自己紹介から――」
自己紹介……ねぇ。
「俺は本名なんざ捨てた。今は聞かれてもNameLessとしか答えない短くしたけりゃネスとでも呼べ」
「分かりました。私は「それもいい」
名乗ろうとした所で、それを遮るように言葉を発する。
「――別に仕事が終ればあんたとの係わりも消えるしな」
「そうですか……」
「そんじゃ、今度こそ仕事の話だ」
「はい」
切り出した俺の声に、反応して女は肯いた。
「それで? 誰を始末して欲しいんだ?」
「この人です……」
そういいながら少女は俺に一枚の写真を差し出してきた。
写っているのは結構な美人だ……が整いすぎてる。まぁ、こういう奴は大概根性が腐ってる。
ん? なんかどこかで見たことある顔だな……どこでだ?
「……それで、コイツの名前とか職業とか住所とか判る情報は全部くれ」
疑問に思いながらも、女に情報の提示を促す。
「名前はティム=フェディアム、職業は自薦議員です」
――自薦議員……か、、まぁそれなら俺の所に来てもおかしくはない。
「標的は自薦議員様か……」
どうりで見たことあるはずだ……
――自薦議員。国法会議に出席可能な地位に財力で成った者。
まぁ大概が親の財産の引継ぎやらでなり上がった連中の集団なわけだが。
「無理……ですか?」
「無理なことは無いけどな……報酬はしっかりといただくぜ?」
自薦議員となると財力しだいだが警備が堅いしな。
……標的だけを殺るとなると厳しいだろう。
まぁ、警備してる奴含めて何人殺してもいいなら楽勝だろう。
さすがに俺も、無差別に人を殺すような殺人鬼になるつもりはない。

<SCENE-018>――Nighttime
「それで、報酬が時価って聞いたんですけど……いくらになるんですか?」
「……あんた今、最大でいくら払える?」
決まり文句だ。もう何度このセリフを言った事か……
「2000‡程度ですけど……」(注意#1‡は約1000円、2000‡は200万円)
2000‡か……まぁ一般階級はそんなもんか。
「なら20000‡だな」
「十倍……ですか?」
顔を蒼白にしながら女はつぶやいた。
「無理ならいいんだぜ? 値下げしてやらんことも無いしな」
「値下げ……出来るんですか?」
女の顔に血の気が戻っていく――
「まぁあんたしだいだけどな……そんでどうするよ?」
「……どうしたら下がるんですか?」
やっぱそれは気になるよなぁ……
「そうだな、じゃあまず……その女を殺して欲しい理由を聞こうか」
「そんな事で、いいんですか?」
「さぁ? あんたの話聞いて同情して安くするかもしれないだろ?」
「そうですか……なら少し長くなりますが」
「あぁ、気にしなくてもいいって、俺が言い出したんだしさ」
「それじゃあ……」
そう言って彼女は語りだした。

<SCENE-017>――Morning
長すぎだろ……一体アレから何時間話をしてるんだ?
来たのが夜中で、今もう普通に朝じゃないか……
壁に掛かった時計は朝飯を食うべき時間を刺していた。
ってか彼氏と出合った所から話せなんて言ってないぞ、俺は。
写真もだ。あんたの男の顔なんて俺には興味はないっての。
「――って言う事です」
「――判った、あんたが言いたい事はよく判った」
実質、俺が聞くつもりだった部分は最後の5%分ぐらいだったんだが……
もう終わった事だ、別にまぁいいだろう。
「要約すると、あんたの愛しの彼が自薦議員様に殺されたってことだな?」
「はい」
「だからって殺しを依頼する事無いだろうに……」
まぁ、俺としては報酬が入るなら何でもいいわけだが――
「そうかも……知れません」
「判ってるなら尚更だ、わざわざ高い金払ってまで依頼することも無いだろうに」
「でも!……私にはどうしても許せないんです、私から彼を奪ったあの女が!」
誰かを殺せば怨まれる。大切な人を殺されれば殺した相手を怨む。
それは……至極当然の事だ。
こんな事を思ってる俺も、既に何人もの人に怨まれているだろう。
だが、俺はいくら怨まれても構わない。今更一人や二人相手が増えた所で、何の変わりもない。
そして、俺自身も奴を――
――否、今考える事じゃないか。
「……判った、額をあんたが出せる限界まで下げようじゃないか」
「本当ですか!」
「ただし、も一つ……条件がある」

<SCENE-016>――Morning
「条件……ですか?」
その前に、ホントにこの女にとってその男がそれ程の価値があるかどうか……確認する必要がある。
「下げた九割分の報酬は……体で払ってもらう」
「……ぇ?」
「さぁ、どうする?」
ソファーから立ち上がり、女に少しずつ近づいていく。
「それは……」
ここで迷う……か。普通なら確実に乗ってくる話なんだが。
――まぁ、乗ってきたら乗ってきた時だ。
そんな男の事なんざ、どうでも良くなるほど逝かせてやるだけだ。
それでも、仕事をしっかりとやってはやるが――
「普通は絶対に無い事だぞ? 抱かれるだけで18000‡だ」
そう言いながら、さらに詰め寄る。俺と女との距離は互いの呼吸が聞こえるほどに迫っている。
女は一瞬たじろぐも、詰め寄る俺と真っ向から視線を合わし、言葉を紡いだ。
「……でも、それでも。私は彼以外に抱かれるつもりはありません」
――其れは、拒絶の言葉。
「……へぇ? なら生涯独身ででも居続けるつもりか?」
女から少し距離を取りつつ、先ほどの台詞の意味する事を言葉にする。
「そのつもりです」
今度は考える素振りすら見せずに、即答で返してきた。
「じゃあ、依頼料はどうするつもりだ?」
「何とか……他の方法で下がりませんか?」
だがそれでも、真直ぐに俺を見据えて、女はそう言った。
「無理だな、それ以外では下げない」
さぁ……どう出る?
「なら、必ず……少しずつでも、出来る事はして返しますから……お願いです」
「少しずつ……ねぇ?いつも見張ってるわけじゃないんだ、全額払えなくて逃げるかもしれないだろ?」
「それなら、臓器でも、何でも売ってお金を一括で払いますから!」
クローン技術がそれなりに発達している今、臓器を売っても18000‡稼ぐのは相当大変だろう。
それこそ、その後まっとうに生きていく事なんて不可能な程……。
そこまでの覚悟と気負いがあるのならば……

<SCENE-015>――Morning
「――俺の負けだな」
プレッシャーを与える為に固めていた表情を解き、普段の表情に戻す。
「ぇ?」
呆けたように、女は俺を見つめている。
「だから、あんたの心意気を認めてやるんだよ」
「はい?」
何がなんだかわからないってとこか……
「要するに、だ。報酬は2000‡でいいって言ってるんだよ、そんで別に抱かせろとも言わねぇ」
「……良いんですか?」
その俺の言葉が信じられないのか、女は再び問いただしてくる。
「だから、いいって言ってるだろ?」
その言葉を聴いて安心したのか「ありがとう……ございます」と、言いながら深く頭を下げた。
「――で、早速だが、報酬……先に見せてもらおうか?」
「今は持ってきてないんですけど……」
「じゃあ取りに行くぞ、仕事を格安にして請けたんだ、こっちの指示には従って貰うぞ」
もっとも、いつも相手が出せるって言った数値の十倍吹っかけるんだがな。
「判りました。それじゃあ、取りに行きましょう」
そういって、女は立ち上がり、玄関に向けて歩き出す
俺も立ち上がって玄関に向かおうと思ったが、その前に一つ用事を思い出した。
「そういえば腹減ったな、あんた朝飯でも食ってくか?」
「……いいんですか?」
「別に構わない。まぁ、ろくなもんないがな」

<SCENE-014>――Afternoon
その後、依頼者の家まで報酬を受け取りに行き、再び俺の部屋まで戻ってきた。
何でもその金は愛しの彼との結婚式の費用だったそうだ。今となっては必要ないから仇討ちに使われるわけだが。まぁ俺には関係ない話だ。
って言うか、ホントに足場少ないなここ。一般の家とか見た後だと尚更そう思う……否、俺の部屋なんだがな。
「さて、今晩にでも殺ってくるつもりなんだけど――」
「!? もう実行するんですか? 下調べとかは……」
不安そうに依頼者が聞いてくるが、それに即答で「あぁ、その予定だ」と返した。
「今から……ですか?」
正直、依頼者は不安を隠せないと言った顔をしている。
「そ、今から。でさ、無いと思うけどあんたがバックれないようにさせてくんないかな?」
「――具体的にどうするんですか?」
「あぁ、これをつけるだけだ」そう言いながらケビンが造った首輪を棚から取り出して依頼者に見せる。
「首輪……ですか?」
「先に言っておくが……俺にはそっち系の趣味はないからな?」
過去にこれを見せて勘違いされた事があったので先に釘を刺しておく。
「えっと、それでこれ、なんですか?」
「まぁ、とりあえずつけてみろ」
首輪についたキーを引き抜いて強引に依頼者に首輪をはめた。
[カシャン]と首輪の閉まる金属音が狭い部屋に響く。
「これで良し……っと」
「あのぉ……ネスさん、これって一体なんなんですか?」
「威力の低い小型の爆弾だけど?」
「ぇ?」
青ざめていく依頼者の女にさらに追い討ちをかけるように俺は言葉を紡ぐ。
「先に言っとくけど無理に外すと『BON!』だから」
「そんな……」
「で、この部屋から出ても『BON!』ね?」
「……」
「まぁ威力は小さくても、少なくとも首はぶっ飛ぶだろうな」
「これ、どうやったら外れるんですか! 外してください、ネスさん!」
半ば懇願するように、俺に女が詰め寄ってくるが、それを無視して話を進めた。

<SCENE-013>――Afternoon
「因みに、俺の持ってるこの鍵で開けるか、三日後に勝手に外れるかどっちかしか外す方法はない」
「……どうして三日で開くんですか?」
俺が外す気がないと悟ったのか、女は騒ぐのを止め、俺の言葉に対して質問を飛ばしてきた。
「ん〜? ソレは俺が失敗して死んで帰ってこないかもしれないからだけど?」
「……失敗、するんですか?」
「そこいらの警備兵なんぞに命取られるほど弱けりゃ、こんな仕事しない」
「……そう、ですよね。確かにこれなら逃げたりしませんね、普通」
「その通り、ソレがあればさすがに逃げないだろ?」
「……」
因みに、過去にこの話を信じずにバックれようとしたり、外そうとしたりして首が吹っ飛んだ馬鹿が三人程いるんだが、まぁ、その話をする必要は無いだろう。
あの時は壁とかに付いた血をふき取ったりするのに時間掛かったなぁ……
「さて、それじゃあ……情報集めに行こうかな」
「……ほんとに今日中に決行するんですか?」
「その予定だ、まぁあんたはここでゆっくりと待ってな」
そういって、俺は依頼者に背を向け、外へと踏み出した。

――to be continued.

/<Next>

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