EternalKnight
<届け物>
<SCENE095>――夜
とりあえず、冬音さんを落ち着かせるのをグレンさん達に任せ、俺は春樹さんの倒れている場所に駆け寄った。
その躯(からだ)はピクピクと痙攣している……と、言うか折れてるんじゃないのか? さっきもかなり危ない音がしたし……
「翼! と……とりあえず冬音の視界から早く春樹を消せ、早く! このままじゃ春樹が殺されるぞ!」
そこまで荒れてるのか……
――なんて考えてる場合じゃない、早く春樹さんを移動させないと――
「えっと……冬音さんの視界に入らない場所は――」
視線を彷徨わせ、冬音さんの死角になる場所を探す。
そうだ! 厨房の中は客席からは見えない筈――
それに気が付くと、すぐに痙攣する春樹さんの躯を厨房の奥まで引き摺りながら移動させた。
「ふぅ……」と、ため息を吐きながら引き摺っていた春樹を地面に横たわらせる。
うーん……どうしようか?
えっと、とりあえず縄を解いてっと。
次はどうするべきかな……あぁ、そうだ。
「大丈夫ですか〜、春樹さ〜ん?」とりあえず、頬を軽く叩きながら呼びかける。
――が、勿論反応が返ってくることは無い。ついでに言うと痙攣も治まってない。
「医者……呼んだ方がいいかな?」いや、正直呼ばないと色々不味いんだろ、コレは……
「その必要は無いんじゃないの?」と、背後からクオンさんの声が聞こえた。いつの間に背後に来たのか分からないが――
振り返ると、まぁ当然の事だがクオンさんが居た。何故か妙に笑顔ではあるが――
あれ? そう言えばグレンさんの秘密喋ってから会話に絡んでこなかったけど……アレは何でだったんだろうか? じゃ、なくて――
「いや、さすがにコレは呼んだ方がいいと思いますよ? 痙攣してるし、さっき嫌な音もしましたし」
「大丈夫よ、扱いなれてるから……さっきはあまりにも言動がユーリに似てたから思い出しちゃってたけどね」
ユーリって誰なんだろうか? ……まぁ、俺も守護の永遠者としてグレンさん達について行くんだからその内分かるだろうけど……
「えっと、それで……扱いなれてるってどういうことですか?」
「今すぐに実践してあげるから見てればいいわ」
そう言いながら、クオンさんは痙攣しながら地面に転がっている春樹さんの耳元に顔を近づけて、何か言葉を紡いだ。
瞬間、春樹さんの痙攣が止まる。
――そして、次の瞬間には一瞬で跳ね起き、クオンさんの腕を掴み、瞳を輝かせながら口を開く。
「大丈夫、お義兄ちゃんがすぐに気持ちよ「春樹ぃぃぃぃいいいい!!」
全て言い終える前に、冬音さんの絶叫が店内に響いた。
その声で、春樹さんはすぐさまクオンさんの腕を放して固まった。
いや、固まった……と、言うより《石化》の方が表現的には正しいかも知れない程の固まりっぷりだ。
と、言うか、あの声の大きさなら近所中に響き渡ってる筈なんだけどなぁ……
まぁ、近所の井戸端会議のネタになる程度だから問題は無い、少なくとも俺には。
と、言うか……クオンさんは一体どんな事を春樹さんの耳元で囁いたんだろうか……すっげぇ気になる。

<SCENE096>――夜
……寒空の下、俺と叶と聖五さんのみが街頭に照らされている。
他の五人は店の中に居て、春樹さんは冬音さんに説教されている。
元々、冬音さんと春樹さんに会いに来ているので説教が終わるまで俺達にすることは無い。
その説教が長く続きそうなので、俺は一文字も忘れない内にあの約束を果たす事にした。
外に出てからしばらく無言だった俺達に「それで、話ってなんだよ?」と、寒さに身を竦めながら聖五さんが言った。
「《混沌》との戦いで……力を貸してくれてありがとうございました」
そう言いながら、深々と頭を下げる。
「別に……そこまでされる程のことじゃないさ」
「そんなことありません、聖五さんが力を貸してくれたから、《聖賢》さんが力を貸してくれたから、俺達は《混沌》に勝てたんです」
そして、俺と叶はメッセージを……届けなければならない。
《聖賢》さんと約束をしたから……
そして、下げていた頭を上げて、聖五さんを見る。
「聖五さん《聖賢》さんから……預かっている言葉があります」
その言葉を発すると同時に、聖五さんの瞳が大きく見開かれる。
その後数秒して、今度は瞳を閉じて、俺には聞き取れない程の声で、それでも確かに何かを呟いた。
そして、ゆっくりと瞳を開き、今度は俺に聞こえるように声をだした。
「……聞かせてくれ、アイツの言葉を」
その言葉に、俺は無言で頷き、《聖賢》さんの言葉を、一字一句間違えぬように、紡いだ。
「『お世話になりました、又いつか魂がめぐり合えるときを楽しみにしています』と、そう言っていました」
俺が言い終わるのと同時に、聖五さんは空を仰いだ。
「そうか……ありがとな、翼。アイツの言葉を届けてくれて」
空を仰いだまま、俺に視線を移さずに聖五さんが言った。
「……悪いけどさ、先に店の中に戻っててくれ」
「……はい」
「――ちょっと待ってください、聖五さん!」
俺が店の中に戻ろう身を翻した瞬間、一度も喋って居なかった叶が声を上げた。
「叶! 今は聖五さんを一人に「ちょっと待って、翼。聖五さんにもう一つ伝えなきゃいけない事があるの」
俺の声を遮って、叶が言葉を紡ぐ。と、言うか……俺達は他にメッセージなど預かっていない筈――
「もう……一つ?」
その言葉に少し反応して、聖五さんが視線を叶に移した。
そして、その聖五さんの視線を真直ぐに見返して、叶が言葉を紡ぐ。
「《聖賢》さん、最後まで笑顔でした。だから……聖五さんも笑顔で居てください。その方が……《聖賢》さんも喜ぶと思います」
「――――そっか。アイツ最後まで笑顔だったのか……ホントおかしな奴だよな、俺の事ばっかり気にしやがって……」
今度は俺達に背を向けて、聖五さんは再び空を仰ぐ。
「すぐに店の中に戻る……だから、ほんの少し、十分ぐらいでいい、一人にさせてくれ」
「「……はい」」
そうして、今度こそ、俺と叶は店の中に戻る為、聖五さんに背中を向け歩きだした。
――そして、ドアを開けて中に入る……が、出て行く時も聞いた説教をしている声は未だに止んでいなかった。
「あれ? 翼君に叶ちゃん、聖兄ちゃんはどうしたの?」
俺達が店内に戻ってくると、真っ先に真紅さんが声を掛けてくれた。
と、言うか聖兄ちゃんって……聖五さんそんな呼ばれ方してたのか……と、まぁそんな事は良いんだよ、別に。
「いえ、外で一人になりたいらしくて、十分もすれば入ってくると思います」
《聖賢》さんの話は別にしなくてもいいだろう……と、言うかアレを聖五さん以外に教えるつもりは俺にはない。
「……そっか」
あれ? そう言えば紅蓮さんの姿が見えない……クオンさんもだ。
「ところでさ、紅蓮さん達は?」
「えっと……お兄ちゃんとクオンちゃんは冬音ねぇちゃんに連れて行かれちゃったの」
「冬音さんに? またなんで?」
「春樹さんが小さい子が好きなのを分かってってクオンちゃんを連れてきたからとか言ってたけど……」
あ〜、とばっちりか……別に紅蓮さんだって仕事でクオンさんと一緒に来たんだから……悪くは無いと思うんだけどなぁ……
あぁ、そういえばここに連れてこなくても良かったんだよな、別に。
むしろクオンさんは別に自分が行かなくてもいいんじゃないかって言ってた程だし。
……まぁ、自業自得……になるのかな?

<SCENE097>――夜
説教も終わり、聖五さんも店の中に戻ってた。
「そういえば、俺達って何しにここに来たんでしたっけ?」
とりあえず、春樹さん達に会いに来たんだろうけど、目的ってなんかあったっけ?
「特に目的なんて無いな。あるとするなら同窓会見たいなモノじゃないのか? なぁ、紅蓮?」
と、聖五さんが同意を求めるように紅蓮さんの方を見ながら言った。
「そうだな……それじゃあ、この四年間にあった事とかを色々と語り明かそうか?」
「それいいな、紅蓮。んじゃ、酒を用意するから飲みながら語り明かそうか、夜明けまで」
そう言いながら、厨房の奥に消えて、すぐに戻ってくると、その手には日本酒のビンが数本持たれていた。
厨房に入って一瞬でそれを出してくるあたり、春樹さんは飲む気満々だった様だ。
「……俺は酒にあんまり強く無いんだけど、まぁいいか」
そう言いながら、紅蓮さんが春樹さんからビンを受け取る。
「私は飲むのは結構久しぶりかしらねぇ……宮殿にはお酒なんてないし」
クオンさんもビンを受け取る。つーか宮殿ってなんだろう?
渡している最中、春樹さんの目線がおかしかったが、冬音さんに睨まれているのが余程効いているのか、暴走したりはしなかった。
「俺は……酒はあんまり好きじゃないんだが――」
ただ、聖五さんだけは、そう言いながら、ビンを受け取るのを拒否していた。
「あーもう、細かい事言ってないで、さっさと宴を始めるわよ! 明日はお店はお休みにするから遠慮なく飲むわよ!」
瞬間、冬音さんが叫ぶ、どうやら、冬音さんも飲む気満々だったらしい。
と、言うか俺は明日久しぶりに学校に行きたかったんだが……これじゃ無理そうだ。
「まぁ仕方ない……楽しめるだけ楽しもうか、なぁ叶?」
「そうね……もうすぐここを離れる事になるんだから、楽しまなきゃね」
そう言いながら、俺達もビンを手に取った。

3/8(火)
<SCENE098>――夕方
結局、宴は盛り上がり、酔ったまま泥酔してしまい、気が付いたのがついさっき。
アレだけ飲んだのに二日酔いの症状は一切出なかったのは謎だが――
と、言うか永遠の騎士は酔うけど二日酔いにはならないらしい。
と、言うのも、紅蓮さん、俺、クオンさんは全員二日酔いに陥っていないからだ。
春樹さんと冬音さん、それに聖五さんはまだ眠ったままだったりする。
そして、聖具である叶と真紅さんは酔うことすらなかった。起きたら片付けしてたし、二人で。
その辺の違いが何処にあるのかは疑問だが、俺にはわからない理論が色々あるんだろう、きっと。
「それで……聖五さん達はどうします?」
「起きるまで放っておこう、どうせ起こしても起きんだろうし」
確かに、泥酔し始めてから結構立つけど、せっかく寝てるんだからそうっとしておこう。
「そうですか……それはそうと、出発は何時になるんですか?」
「そうだな……もうしばらく居ても構わないだろうけど、明日には出ようと思ってるけど、なんか用事でもあるのか?」
俺を気遣うように、紅蓮さんが言う。
「はい、3月11日……金曜日の昼まで待ってくれませんか?」
俺のその言葉に紅蓮さんは顔をしかめる。
俺だって、永遠の騎士がこの世界に滞在するのがよくない事だとは分かってはいる、だけど――
「卒業式……か?」
その言葉を紡ぐ紅蓮さんの顔は、どこか……寂しげに見えた。
「はい……紅蓮さんが参加出来てないのは知ってます。俺だけが卒業式に出るのは不公平だって事も承知してます、だけど――」
頭を下げて、紅蓮さんに懇願するようにただ、自分の思いを告げる――
「……別に気にしてねぇよ。いいじゃねぇか、卒業式」
「ぇ?」
思わず顔を上げて、紅蓮さんを見つめる。先ほどまでの寂しげな表情は消え、そこにあったのは、俺が憧れた、強く生きるモノの顔だった。
「まぁ、それまでには大物なんざ来ないだろうし……まぁ小物ならわんさかよって来るだろうけど……まぁ何とかなるさ」
「いいん……ですか?」
信じられない、俺達がここに居る事によって、数多く魔獣が現れるというのに。
そのせいで、戦いが終わってからほんの僅かしかこの世界に居れなかった紅蓮さんが俺達のもう少しの滞在を許可してくれるなんて。
「いいって言ってんだろ? 俺が出来なかった分まで、お前が存分に卒業して来い……って意味が分からんな、これじゃあ」
「ありがとう……ございます」
あぁ、やっぱり――
この人は……俺がかつて目指した、強い生き方の出来る人なのだ。

3/9(水)
<SCENE099>――朝
久しぶりの学生服を着て、俺と叶は校門の前に立っていた。
時間はまだ朝の八時前だが、それでも登校してくる生徒の数は少なくない。
なんだかんだで、虎一さんに呼び出されて早退(?)してから一度も登校していなかったので、登校してくるのは久しぶりだったりする。
強くなる為に武さんの下で修行してたしなぁ……
「久しぶりの登校……だな」
そう言いながら、隣に居る叶に視線を移す。
見慣れた制服姿に身を包んだ叶が、俺の言葉に反応してこちらを向いて答える。
「そうねぇ……えっと、どれくらいぶりだったかしら?」
「うーん……何日ぐらいだろうなぁ……」
と、言うか実際、俺達は何日も無断欠席している事になっている訳で……
……卒業前に無断欠席連発は不味い気がする、それ以前に翔ねぇになんて言い訳をすれば良いんだろうか――
瞬間、背後から何かがこちらを狙っているのに気が付き、回避する。
――が、それは「久しぶり〜……って、ありゃ?」俺に背後からラリアットを決めようとした翔ねぇだった。
俺が回避したので無論らリアットは空ぶっているが――
つーかアンタの力でそれやるとマジで死人が出るんじゃないか? いや、真面目に。
「……私の攻撃を回避するなんて……鍛えたわね、翼?」
かわした体勢からからすぐに立て直し、翔ねぇの方に振り返る。
「危ないだろうが! つーか生徒に向かってラリアット使う教師が何処にいるんだよ!」
「目の前に居るじゃない?」
自信満々に《ニヤリ》と言う擬音が出そうなほど不敵な笑みを浮かべながらそんな事を言ってのけた。
「使い古されたネタ使ってんじゃねぇよ!」
「あら? そうかしら? 結構良い切り返しだと思ったんだけど?」
はぁ……翔ねぇに普通な事を求めた俺が悪かった……うん、そういうことにしとこう。
「さいですか……んじゃ、俺は叶と教室に行くから――」
そう言いながら、これから職員室に向かうであろう翔ねぇに背を向ける
「――あぁ、因みにね」
少し、俺達が翔ねぇから離れたところで、呼び止められた。
それに反応して振り返り「今度はなんだよ?」と、多分聞こえてるだろう声量で言った。
すると、翔ねぇはこちらまで駆け寄ってきてから、言葉を続けた。
「アンタ達さっき言ってたでしょ? どれくらい来てなかったかって」
「あぁ、それがどうかしたのか?」
「土曜と日曜抜いて十二日間よ、来てなかったの。よくわからないけど、公欠扱いみたいだし……三人で何やってたのよ?」
あぁ、公欠扱いになってたんだ、俺等。そりゃそうか、ここの校長は黒崎の人たちがやってるんだっけ?
でも校長の一存で生徒を公欠とかにできるんだろうか……謎だ。
つーか公欠にするなら理由ぐらい付けといてくれよ……言い訳大変じゃんかよ……

<Interlude-グレン->――昼
朝には《春音》を出発し、昼は翔ねぇも仕事に行っていて誰も居ないので、聖五の家に居た。
シンクは俺に付いて来ているが、クオンさんは黒崎の屋敷に戻っている。なんでクオンさんはやることがあるとかどうとか……
「つーかお前の家は変わってねぇな」
あの頃から、殆ど変わっていない聖五の家の装飾……懐かしいな。
本当は自分の家に入りたかったのだが、住人が居ない、ということで、売りに出されてしまっている。
家具とかは大方春樹達が引きとったらしいが。
つーかアイツ等のことだから、絶対にあの店借りて、家具買う金が無くなったから引き取って代わりに使ってるんろうが……
「と、言うかそんなに簡単に内装が変わってたまるか」
「まぁ、それもそうか……」
確かに、二人しか住んでなくて、それが聖五と翔ねぇなら内装をわざわざ変えたりしないか……
「あれ……この写真――」
俺と聖五が話しているそばで色々と見て回っていたシンクの発した声に振り返る。
振り返った先のシンクの手元には一枚の写真立てが握られていた。
そこには、シンクが高校に入学した時に撮った一枚の写真が入っていた。
「あぁ、それか。姉貴がさ、お前等が行っちまってからずっとそこに飾ってるんだよ」
そうか……翔ねぇも、俺達のこと……忘れないで居てくれるんだな。
突然、何も告げずに居なくなっちまったのに――
「あれでも保護者気取ってたからな……お前等が居なくなってから立ち直るのに半年かかってた……いや、まだ立ち治って無いかも知れない」
「そっか……ちゃんと、俺達の事、思ってくれてたんだな――」
「その通り……んじゃ、しんみりしたのはひとまず終わり、お前がしてた約束、もう一つあっただろ?」
「あぁ……そうだな、行こうか、聖五、シンク」
俺の声に、シンクが頷き――
「応よ、んじゃ……行くか――」
聖五も応えた。
そう、あの約束……本来の約束はもう果たせないけれど。
せめて、彼の前で……少し捻じ曲がってしまったけれど約束を果たさなくちゃ――

――to be continued.

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