EternalKnight
<兄弟〜貸し借りの決算〜>
<SCENE075>
「……だから、どうした。それがお前の全力じゃないからどうだって言うんだ!」
(翼……)
悪い、叶。お前の意見を聞かずにつき合せちまって。
(いいのよ、翼。私は……いつまでも翼と一緒だから)
……そっか、ありがとな叶。こんな俺に付き合ってくれて。
覚悟は決まってる。叶も付き合ってくれる。
だから……俺は、戦える。
「己との力の差すらも分からんのか……愚かな」
「……力の差ぐらい分かってるさ。でも……それでも、俺は諦めない」
「……まぁいい、どちらにしてもお前は消すつもりだったのでな」
「そう簡単にやられるかよ!」
兄貴が諦めずに俺につないだ可能性……それを簡単に消されてたまるかよ。
「兄貴が言ってた様に、俺だって勝てる可能性が0に等しくても何もせずにやられる気なんてないんだ」
「ふん、奴の後を追って……同じように無意味に消え去るがいい」
「無意味なんかじゃねぇ……今こうして俺が叶を取り戻してるんだ、それの何処が無意味だって言うんだ!」
「結局お前が散れば同じ事だ。生き足掻くのは自由だが、どうあってもお前の力では……お前達の力では我を超える事など出来ん」
「やってもいないのに決め付けるな!」
「いや、無駄だ。もし蒼二が生きていて、お前に力を貸したとしても、我が真の力には届くまい」
『そうか……なら、試してみないとね』
頭の中に声が響いた。
――誰の?
そんなの、言うまでも無い。
――どうして?
そんなの、俺に判るわけが無い。
「……兄貴?」
「馬鹿な……お前は器を構成するエーテルに還ったはずであろう」
『あぁ、僕は間違いなく器を構築するエーテルに還ったさ、だからこの器の中にまだ残ってる、形こそ無いけどね』
「……馬鹿を言うな、確かにお前を形成していたエーテルは全てこの器の内にあるが、形も無く意識を存在させるなど、不可能だ」
『不可能も何も、現に僕はこうして意識だけの存在のようになってしまっている、過去の情報だけで判断するのはどうかと思うね』
「っ……だが、所詮それだけだ。形無きお前を排除する事は出来ないが、それ故にお前には我になんの影響を及ぼす事も出来まい」
『そうだ、僕はこの状態ではお前に何も出来ない……だけどね、僕自身を構築していたエーテル全てを、翼に与える事なら出来る』
「そんな事をしてみろ、貴様という形の無いモノに宿っている意識など、形ある意識に取り込まれれば、一瞬で消え去るぞ」
『確かにそうかも知れないが、さっきも言ったろ? こっちは二度……いや、三度死んでるんだ、今更死ぬなんて怖くなんかないってね』
「……好きにするがいい、ただしこちらも先程言ったぞ? お前が翼に力を貸したとしても、我が真の力には届かないと」
『人の話を聞かない奴だな、だから今からそれを試そうと言ってるんじゃないか、僕は?』
「試すまでも無い……が、諦めの悪いお前達の最後の抵抗……受けてやろうではないか」
『後悔……するなよ?』
「……兄貴」
『さぁ、話は聞いていたな? 今からお前に僕の支配下にある全てのエーテルを渡す……受け取れ』
――瞬間、力が叶を通して俺の中に流れ込んできた。
思考が想像を絶する速さで加速する。
否、周囲の映像は完全に停止している。俺も指一本、呼吸一つ出来ない。
それでも、なぜか考える力だけが残っている。
どう……なってるんだ?
『聞こえるか、翼?』
声が、聞こえる。
しかしこっちは喋る事も動く事も出来ないのに、どうやって聞こえている事を伝えれば――
『聞こえているみたいだな、それじゃあ今から力を渡すぞ?』
……俺の考えてる事が分かるのか?
『まぁその通りだ……原理なんかは僕にも分からないけどね』
……聞きたい事がある。
『そうだな……僕はもうお前の糧となって消えるんだから何だって話してやるさ、時間もあるみたいだしね』
アンタは……なんでここまでする?
『僕はただ、借りを返したいだけさ……僕を出汁にして力を得ようとした《同化》にね』
なんでアンタは、そんな事に拘るんだよ。
『なんで……か。何でだろうな……ただ借りの貸し借りはしない主義だからかな?』
じゃあアンタが俺に力をくれるのは、借りだ。
だけどアンタが死んだら返せない。貸し借りはしないんじゃなかったのかよ!
『僕はお前に大きな貸しがあってね。覚えてるだろ、僕はお前の母親を殺している』
そんなの、アンタにとっても母親だろうが!
『僕にとっては僕をあの男に任して、自由である権利を守ってくれなかった女に過ぎない』
じゃあ、俺はアンタを殺してる、アンタにとって、それは大きな借りだろ!
『じゃあその借りは僕の目的である《同化》を倒す事で返してもらおうか』
……っ。
『そら、僕に貸し借りは残らないだろ?』
わかった。俺はどうすればいいんだ、兄貴。
『何もしなくていい、本来力を与えるって言うのはそういう事だ』
なっ……じゃあ、何処に俺と話をする必要があったんだよ!
『必要なんて無かったさ。ただ、最期に少し話をしたくなっただけ……それだけさ』
止まっていた世界が少しずつ動き出す。それは、何を意味するのか――

<Interlude-蒼二->
「何もしなくていい、本来力を与えるって言うのはそういう事だ」
『なっ……じゃあ、何処に俺と話をする必要があったんだよ!』
「必要なんて無かったさ。ただ、最期に少し話をしたくなっただけ……それだけさ」
視線は、既に翼と共有のモノになっている。
否、この魂以外の全てが翼の力となっている。
止まっていた世界が動き出す――
――動き出せば、僕は消滅する……けれど、怖くなんて無い。
あぁ、でも……最期に伝えなくちゃ行けないことがあるんだ。
もうじき消えるのだから、最期にこれだけは伝えなくちゃ……
今までは、つまらないプライドが言うのを邪魔していた言葉。
そのせいで、溝が深くなり、余計に言えなくなってしまった言葉。
《破壊》や《終末》や《同化》に流されよりひどくなったそれを、最期に何とか修繕しなければ――
そのままにして消えるのは、あまりにも忍びないじゃないか。
「翼、今まで……お前には悪い事をしてきたな」
『……』
「僕は……自由に生きられるお前を、妬んでたんだと思う」
自由に生きたいなどと、僕を縛り付けていた父親には一度も言ってすらいないのに。
「今思うと……あの頃の僕はどうかしてたんだ、いい子ぶってるくせに、お前にだけ怒りを向けていたんだから」
それが間違いだと気づいた時には、お前との仲は……兄弟の絆は既に無いに等しくて――
自分のせいなのに、つまらない意地を張って自分からそれを修復しようともしなかった。
「僕が悪かったのは分かっている、許してもらおうとも思っていない。だけどこれだけは言わせてくれ」
何度言おうとして口ごもったか、既に覚えてすらいないけど。
言いたかった事はたった一つだけ。
「ごめんな、翼。僕はただ、自由に生きられるお前がうらやましかったんだ」
『俺も、兄貴に……兄さんに嫉妬してた。何でも出来て、親父に褒められてる兄さんを見て、嫉妬してた』
「そうか……貸しが出来たと一瞬思ったけど、これで貸し借り無しだな」
『あぁ……』
世界が、元の速さに近づいていく。
「もう、終わりは近いみたいだ……最期に、もう一つだけ……これはお前への願いだ」
『願い?』
「あぁ……その翼で、大空を舞うように……最後まで自由に生き続けてくれ、決して僕のように何かに縛られるな――」
『……あぁ、言われなくてもそのつもりだったさ』
……そうか、僕が言うまでもなかったか……
何たって、自由に生きろと願いを込めてつけられた名前なんだもんな。
意識が薄れていく。
消える。僕が消えていく。何度も体験した自らの消滅。
あぁ、でも……今回は今までのどの死よりも心地よくて――
何の未練も無く、ただ満足して、消えて逝けそうだ――

<SCENE076>
ゆっくりと流れていた時間が、徐々に元の早さに戻っていく。
そして、それに伴い、視界が白で埋められていく。
力を感じる、兄さんから託された力。
(翼、お兄さんの力を貰ったので、私の階位が上がったみたい)
そっか……でも、これで《堕天》に勝てるわけじゃない。
兄さんの為にも、俺が護りたいみんなの為にも、叶の為にも、俺自身の為にも、勝たなくちゃ行けない。
力を貸してくれるか? 叶?
(そんなの、決まってるじゃない。私も力を貸すわ)
ありがとう。それで、階位が上がったんなら、新しい名は?
あぁ、別に何になっても叶は叶だけどな。
(うん、私の新たな名は《天昇》クラスはS……《堕天》と同じよ)
《天昇》に《堕天》か……因果な名前だな。
(《堕天》は《同化》が私の能力の情報を奪い取った姿だから、当然と言えば当然なんだけどね)
よし、それじゃあいくぞ、叶。
(待って翼、新しい能力を把握しておいて)
そう聞こえた瞬間、莫大な情報量が脳内を駆け巡った。
――光の嵐。
――魔を断つ剣。
――■神■■。
脳内を駆ける情報の洪水が止まる。
……なんだ、最後のは?
……内容を理解できなかった……だと?
どうなってるんだ、叶?
(私にもわからない……確かにそんな力があるんだけど私にも何もわからないの)
能力を与える聖具そのものにも判らない……だって?
それじゃあ完全にブラックボックスと同じ……いや、今は考えても仕方ない。
(そうね、考えたところでどうこうなる問題じゃないと私も思うわ)
なら、忘れよう。使えない能力に頼っても、意味はないんだから。
(翼、そろそろ……)
周囲の光が消えていく――
よし、行こう。《堕天》から、俺の体を取り戻す!
瞬間、周囲を包んでい光が完全に消えた。

<Interlude-堕天->
翼が白い光に包まれる。
「貴様等がいくら力をあわせて立ち向かおうが無駄だ、我に勝つ事は出来ん」
そう、絶対に奴等に勝利はありえない。
奴等の力ではどんなに良くてもSクラス以上の力を得る事は出来ない。
――故に、我が勝利は磐石。
最後の最後で抵抗を許したが、計画は80%成功したと言えよう。
その褒美に、小さな希望をくれてやる……まぁ、すぐに絶望に叩き落すのだがな。
白い光が、晴れて行く。
その中に、白い光の翼を背負ったモノがたたずむ。
背に浮く翼の形状は今の我と同じ……と言った所か。
「予想通り、階位が上がっているな……Sクラスと、言った所か」
まぁ、進化の派生元は《飛翔》なのだ、階位が同じならば形状も近いのは当然だ。
我が翼に近い形状であるならば、それは同じ階位である事を示す。
「お前に言う必要は無い」
「まぁいいさ……それじゃあ始めようか」
「……お前、本気か? 契約者のいない状態で、同じ階位の聖具に勝てると思ってるのか?」
「……何、ほんの戯れだ。貴様が気にする事ではない」
「――っ、なら真の力とやらを使う前に貴様を倒す!」
「やれるものならやってみるがいいさ……お前では我には勝てないがな」
「やってみなきゃわかんねぇって……言ってるだろぉが!」
瞬時に、翼が地面を蹴りこちらに迫ってきた。

<SCENE077>
「やってみなきゃわかんねぇって……言ってるだろぉが!」
地面を強く押し蹴り、俺は《堕天》に向かって走り出した。
新しくなった力……早速使ってやろうじゃねぇか!
「――DemonBaneッ!」
瞬間、《堕天》に向かって走る俺の腕に蒼い光の五芒星が描かれ、確かな質量が顕現する。
――それは、刃金。
不安定な光の刃ではない。確かな形と質量を持った白銀の剣。
その確かな質量を、接近の勢いに載せて振るう。
だが、その直前に声が聞こえた。
「――AngelBane」
そして、確かにそれを目撃した。
《堕天》の手元に《堕天》の眸を思わせる花弁が三枚描かれ、確かな質量が顕現する。
――それは、刃金。
不確定な闇の刃ではない。確かな形と質量を持った漆黒の剣。
そして、相反する二つの剣、白と黒の刀身が激しく衝突し、甲高い音を響かせる。
衝突しあった刃は均衡し、今度は鈍い金属の擦れる音を鳴らす。
「お前……その力は……」
「驚く事もないだろう? 元より同じ力をベースとしているのだから」
能力はほぼ互角……か。
いや、契約者が居なくていいだけ向こうの方が強いのか?
……それにしても、今の状況はまずい。
向こうには隠し球があるが、こちらは既に何処にも力は温存してない。、
その状態で実力が均衡している以上、《堕天》が本気を出す前に倒す必要がある。
でも、どうやって?
こちらには切り札なんて――
……いや、あった。切り札になるかも知れない力。
いや、不確定要素に頼るのは良くないけど……今はアレに頼るしかない。
勿論、それも《堕天》が同じ力を持っていなければ切り札に足りえないのだが……
いや、今は《堕天》にはあれと同種の力は使えない、と信じるしかない。
――叶、さっきのあれ、何とか使い方を探してくれないか?
(わかったわ……でも最初の時点で理解できなかったんだから、あんまり期待しない方がいいわよ?)
この状況じゃ期待しないとやってけないよ……
とりあえず俺が《堕天》と戦って時間を稼ぐ。
その間に……頼むぜ?
(うん、最善は尽くしてみる)
ありがとな、叶。
心の中で呟き、俺は黒い刃と均衡する白銀の刃に力を入れた。

――to be continued.

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